“無我霧中” 旅の徒然 浮世雲
朝目覚めれた
目の前は この景色
“無我霧中”
深い深い霧に包まれて
色彩を忘れた水墨画のような 景色
美しい
凍える中 しばし眺める
深い深い霧は 晴れない
急ぐ旅で無し....
湯に浸り 霧を眺めて....
少し 晴れて来た
“何しよう”
やっと そんなことが 思える朝
霧深い 非日常の空間
宿を後に 前の茶室は お休みらしい
そうだ 美術館へ行こう
岡田美術館で 伊藤若冲の特別展が
やっているらしい
五階建ての美術館の壁いっぱいの
風雲雷雲像に 暫し見惚れる
なんだか 凄い事になりそうな...
“鞄 財布以外 全ての荷物はロッカーに
お預けください”
鞄は 空港より厳しい X線チェックを
受けて 館内へ
そう カメラも 携帯も 何も無い
目の前の景色を
その瞬間を
愉しみ なさいと
大壁画を真下から 眺め
その大きさに圧倒される。
館内では 丁度 学芸員さんによる
尾形乾山について 解説があると
五階ホールに移動する。
知ってるようで 何にも知らなかった
尾形乾山に ついて 詳しく愉しく
話してもらえる。
良い時間だった。
学芸員さんは 最後に この言葉を
添えた。
“お気に入りを一つ 見つけて
帰ってください。
大丈夫
観てほしい 作品は
作品が“見て見て” って
声をかけてきますから
それ以外は 素通りで 良いのです”
いきなり 龍に声を かけられた
五本爪の龍達が 舞う
あれも これも 声をかけてくる
全く 歩みは 進まない
一階を愉しむのに一時間過ぎ
二階に 歩みを進めると….
足が震える
横幅9メートルにも及ぶ 大きな
大きな富士山が 黒い雲間から
姿を 魅せている。
この旅 大きな大きな富士山
その気配さえも 消していた。
この 景色を魅せる為なのか?って
想うと
泣けて来た。
いつしか 口からは
“此処に 住みたい
此処に 住みたい”を
繰り返している
二階を観終わり 遅めの昼食へ
五階の通路から 庭園に出る。
辺り一面 霧に包まれている
その中に居る 木々
とても とても 神秘的な景色
カメラや 携帯は 無い
無我霧中
逢花打花…
とても とても 心地よい
メインフロアにたどり着くまでに
三時間も愉しんでいる
伊藤若冲ワールドに どっぷり浸り
友人である 池大雅の作品を
前に 涙する。
美術館で 作品を前に 涙する
厳つい顔のおっさん
それでいい
解説を しっかり 聴いてからの
御対面は まるで 作品手にしているかのよう
兄 尾形光琳との コラボ作
裏面に描かれた 筆跡が
微笑ましい
五階まで 観終わるのに
五時間居る
“ここに住みたい”は 変わらず
茶道具に囲まれ
墨と和紙の香りに包まれ
愛読書は 日本大百科全書だった
幼稚園児は やっと小学一年生に
入学したばかり
もういちど 五階から 一階の
お気に入を 観て歩く
墨の持つ 無限の可能性と 表現性
そして 作品が 語りかけて来ると
感じれる事
誰も 居ないフロアで 暫し
富士を 眺め
“呼ばれたなと”
外は そろそろ 日が沈み出す
いつも
山と川と雲と花を 眺めて暮らしている
携帯やカメラさえも 持たない時間
非日常の中
無我霧中
無我夢中
とても とても 心地よい時だった
あとは 真っ赤な亀号に任せて
400キロ走り
日常に戻るだけ
たとえ 戻って 暫く寝込んでも
やっぱり 旅はいい
平安な暮らしをする縄文人
浦島太郎な浮世雲
ギランバレーに恋をして
回復期リハビリテーション
無我霧中な美術館