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2020年のはじまりに 僕らが書き残した言葉
「泰然自若」
意味は「ゆったりと落ち着いて、平常と変わらないさま」
この言葉は、2020年の僕のスローガンになりました。
なぜかというと、2020年1月2日の「書き初め」で、この言葉を書いたからです。
泰然自若(たいぜん じじゃく)・・・・・・ ゆったりと落ち着いて、平常と変わらないさま。「泰然」は、落ち着いていて物事に動じないさま。「自若」は、大事に直面しても落着きを失わないさま。落ち着いているさまを表す二語を重ね、どのような事態に出会ってもその落ち着きを失わない様子を強調する。(岩波四字熟語辞典より)
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自宅から車でしばらく行くと大きなお寺があります。
年始になると、そのお寺で「書き初め」ができるんです。
そのことを知ったのはごく最近のことですが、2020年もそのお寺に行き、家族で「書き初め」にチャレンジしました。
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書き初めは、お寺の奥にある、畳の部屋で行います。
20畳はある広い部屋です。
畳の上で、正座または膝立ちの姿勢で書きます。
部屋の中には、書道の道具一式があらかじめセットされています。
一畳ほどの黒いフェルトマットが敷かれていて、その上に、筆、墨汁、硯、文鎮などが置かれています。
一度に10組は入れたと思います。
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紙は選べるのですが、4文字用の「縦長の紙」にしました。
どんな言葉を書くのかについてはそれほど迷いません。
なぜなら、お寺の方で、たくさんの「お手本」を貸してくれるからです。
例えば、「謹賀新年」「初日の出」「感謝の心」などの言葉です。何種類もありました。
お手本を見ながら書いてもいいですし、自分で好きな言葉を書いてもいい。
僕は、2020年の抱負となるような四字熟語を自由に書こうと思いました。
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5歳の息子も、1人で書いてみたいということで、まずは僕が見本を見せることにしました。
畳の上に正座をし、縦長の紙に向き合います。
さて、2020年、何の言葉を書こうかと考えます。
ふと、浮かんだ言葉は「泰然自若」。
いいんじゃないかなこの言葉。
ちょうどその頃、いろいろなことが重なって、慌ただしい年末年始でした。
なので、僕にとっては、しっくりくる丁度いい言葉でした。
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大きく深呼吸。
墨汁を硯に流し入れ、筆をもち、穂先を硯の海に浸す。
穂先の形を整え、集中力を高める。
紙は1人1枚。一発勝負。
紙面の1点に狙いを定め、筆を運び、穂先を45度の角度で入れる。
「泰」の字。
5画目の右払い。6画目の跳ね。いずれも力強く書けました。ちょっと大きかったかなと思いましたが、迷うことなく書けました。
「然」の字。
「泰」の字に続き、自然と流れるように、大きく力強く書けました。
素人にしては、堂々たる「泰然」の2文字ができあがりました。
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ここで、居住まいを正し、ひと呼吸・・・。
正直やり直したいと思いました。
「泰」と「然」の字がデカすぎて、もう紙の3分の2くらいのスペースを使っていたんです。
これでは「自若」の2文字が入るスペースがあきらかに足りない。
僕はその場で紙をくしゃくしゃに丸めて捨てたいと思いました。
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でも、動じてはいけない。
そうです、僕は2020年はちょっとやそっとのことじゃあ動じないと決めたんです。
落ち着け、落ち着け・・・。自分に言い聞かせます。息子も見ている。
「自」の字。
スペースがないので、縦にも横にも縮小して書かざるを得ません。だからといって、思い切って縮小する勇気もなく、妙に頭でっかちな「自」の字ができあがりました。
「若」の字。
まともに入るスペースはもうほとんどありません。「大丈夫。いける、いける・・・」と思いながら書きましたが、草冠の下の「右」がどうしても入らない。やむを得ず、「口」がものすごく小さい「若」の字ができあがりました。
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泣きそうでした。
自信を持って臨んだのに、急に恥ずかしくなりました。
立ち上がって、自分が書いた文字全体を眺めてみると、あまりにも、不格好な「泰然自若」ができあがっていました。
横で見ていた息子と目が合いました。
(落ち着け、落ち着け・・・、動じてはいけない。)
「まあ、こんな感じかな。」
僕は、つとめて平静を装って彼に言いました。
そして、続けて、
「書き初めは、好きなように書けばいいんだよ。はじめは字が大きすぎて大丈夫かなと思ったでしょ。でも、最後まで動じずに落ち着いて書いていたのをみたかい? まさに『泰然自若』たる態度で書いた『泰然自若』。これこそがアートなんだよ。わかるかい?」
と詭弁を放とうと思いましたが、失敗を正当化することは良くないと思い、言葉を飲み込みました。
そんな僕を、息子は極めて冷静に見ていたようです。
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次に、5歳の息子も「書き初め」に挑戦しました(1年ぶり2回目)。
1人だけでやりたいというので、手助けはせずに見守ります。
「お手本があった方がいいから、自分が気に入ったものを取っておいで。」
2020年に小学校入学を控えている彼は、もちろん漢字は読めません。
したがって、彼が書く言葉は、漢字の意味で選ぶのではなく、見本の文字の形だけを見て直感で選ぶしかありません。
そうして彼が選んだ言葉。書き順もでたらめでしたが、彼は自分の力だけで、見事に完成させました。
客観的に見て、文字全体のバランスは僕よりもはるかに上手い。
それはこう書いてありました。
「理想実現」
(それ、本当に意味分からず選んだのか?)
(やるなあ・・・)
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今年もあと少しですね。2020年はいろいろなことが起こりました。
ただ、この2020年、なぜだかわかりませんが、「泰然自若」という言葉が、少なからず僕に寄り添い、励ましてくれた言葉になりました。
もしかしたら、想った言葉を書き残すということで、言葉に不思議な力が宿ったのかもしれません。
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書き初めの習慣は、これからも続けていくつもりです。
2021年、たとえ、自宅にいたとしても、何かしらの言葉を書いてみたいと思っています。
そのとき、紙と向き合った自分には、何という言葉が浮かぶのか・・・。今から、楽しみです。
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2020年の残りの日々を、引き続き、泰然自若たる態度で過ごし、無事におおみそかを迎えられればと思っています。
あっ、そうでした。息子に、理想が実現できたかのかはそのうち聞いてみますね。
また一段と寒くなって参りました。慌ただしい年の暮れ、どうか皆様もご自愛ください。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
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