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一日一頁:矢野久美子『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』中公新書、2014年。


再び読み終えた。

「自分たちの現実を理解し、事実を語ることを、彼女は重視」(あとがき)したが、このプロセスがない限り自動的あるいは必然的に進んでいるかのような歴史のプロセスを中断すること」はできない。一瞬一瞬の今がそのときである。

時間がなくても1日1頁でも読みないことには進まない。

 アーレントにおいて権力は暴力とは異なり、人びとが集まり言葉と行為によって活動することで生まれる集団的な潜在力だった。彼女は、思考し、自由を求め、判断を行使する人びとが生み出す力こそ、世界の存続を支えると考えていた。しかし、この潜在力は、集団としての大文字の人間ではなく、複数の個々人、一人ひとりの人間の「はじまり」にかかっている。彼女を私たちの著者にした『全体主義の起原』の末尾と、死の直前に書いたと思われる意志論の最後で、アーレントはアウグスティヌスの「はじまりが為されんがために人間は創られた」という言葉を引用し、「はじまりとは実は一人ひとりの人間なのだ」、「人間存在が世界のなかに現れるという事実にはじまりの能力の根拠はある」と書いた。私たちは考えることや発言し行為することによって、自動的あるいは必然的に進んでいるかのような歴史のプロセスを中断することができる。そこで新たにはじめることができる。アーレントにとってその「はじまり」の有無こそは、人間の尊厳にかかわっていた。

矢野久美子『ハンナ・アーレント 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』中公新書、2014年、224-226頁。

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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。