🌏序: 結局国も人だから

もっと勉強しとけばよかった

　中高生の頃はどうして５教科を必死に勉強しなければいけないのか分からなかった。テストで良い点を取るため、良い大学に行き、良い仕事に就くために必要らしいとは分かっていたけど、微分・積分なんか将来絶対使わない、水平リーベ僕の船…って元素記号を覚えたところで何になるんだと思っていた。

　でも大人になってから気付いた。将来何になるかに関わらず、どの教科もそれなりにためになる楽しいものだったらしい。

　例えば、夫は最近趣味で数学を使ってゲームを自作している。私がやってもしょうがないと思っていた微分・積分も使ってて随分と楽しそうだ。進捗を自慢されても私にはさっぱり分からんのだけども。

　友人は化学を知ってると料理が美味しくなると力説していた。ベーキングパウダーは重曹で代用できるかという話題から、昔、授業で聞いたなという単語がたくさん並ぶ話になった。半分も理解できなくて申し訳なかったけど。でも言われてみれば、確かに料理は化学反応だ。

　国語・社会・英語は、人とのコミュニケーションに使えるのはもちろんだけど、何気に音楽、本(漫画含む)、ゲームや映画やドラマなどの娯楽を嗜むのに欠かせない知識だと思う。洋楽、邦楽、ハリウッド映画、大河ドラマ、少年漫画 etc……もちろん知識なしで楽しめるものもあるが、面白いものほど背景を知っていると理解度が格段に違う。そうした娯楽に詰まったメッセージを受け取り、色々な感情を追体験することで、自分の人生もより豊かなものになっていく。

　例えば私は現在、世界的アイドルのBTSにハマっているが、彼らの楽曲にはユング心理学を知っているとより楽しめるものがある。人によっては聴いたとしても「ダイナマイトの人たちでしょ？一時期流行ってたよね」で終わるだろうし、「K-POPは聴かない」とシャットアウトする人もいるだろう。でもユングを知ってると「そういうことかぁぁぁ」とより感動できる。自分の中に新たな世界が生まれる。

　私は、ユングなんて高校の倫理で名前を覚えさせられて以来だなぁと軽い気持ちで関連本を読み始めたクチだが、中身を知るととても興味深かった。今の今まできちんと理解していなかったことを悔いた。悩める思春期に出会っていたら、もっと自分を見つめ直せる良い機会になっただっただろうに、どうしてさっぱり覚えてないんだ？

　……あぁ、そういえば高校の時の倫理の先生がものすご〜く眠気を誘う声の持ち主で、しかも生徒が居眠りしてても起こさないので、よく授業終了のベルと共に目覚めていたんだったわ…。

　むしろ、こんなに面白いはずの５教科をよくもここまでつまらなくて辛いイメージにしたもんだ、学校教育許さんぞと文句を言いたくなってくる。(まぁ、寝てたお前が悪いだろとも言えますね、はい)

　今の中高生の授業は昔より実用的になってきているという噂を聞くけど、同時にもっと過酷な競争社会になってて、勉強が苦痛なものになっているんだろうと思うと胸が痛い。

世界史は日常に生きている

　でも、そんな私にも高校時代から学ぶ楽しみを知っていた教科がひとつだけあった。それが世界史だ。

　残念ながら、きっかけは学校じゃない。単語があまりにも覚えられず、なぜか山川出版の世界史用語集に載っている全ての用語を使って小説を書いてみようと思い立った。人に読ませるためじゃない。完全なる自己満足だ。400万年前のアウストラロピテクス(猿人)の時代から現代まで約5000語。あまりに張り切りすぎだ。これが若さか。

　結局、全体のあらすじを考えるだけで精一杯だった。受験生になり本編を書き進めるどころではなくなった。古代文明までは頑張ったけど(かなり序盤)。

　それがセンター試験に役立ったかというと正直NOだ。重要単語のほとんどは今や記憶の彼方だ。でもこの経験を通して、歴史を単に教科と捉えるのではなく「人間が生きてきた軌跡」だと実感できたのは大きかった。

　教科書の味気ない一文を読みながら「私がもしこの時代に生きていたら？」「あの国側の人間だったら？」「逆にこの国側の人だったら？」と思いを馳せる。「あの指導者はどのような思いでこの決断を下したのだろう」「もしここでこういう行動を取ってたら結末は変わったのか？」と想像する。

　もちろんあくまで想像で、真実は分からない。安易に考察して、これが正史だと決めつけることはできない。たまに歴史の話をすると●だ■だとすぐケンカになる人たちがいる。確かに片方が捏造の場合もあるが、側から見てると「それ、円柱じゃない？」と思うことがある。まるで宇宙人が「地球は暑い星だ！」「嘘をつくな、私が行ったところは極寒だったぞ！」って言い争ってる感じ。地球には確かに北極もあるけど、赤道直下の国もあるんだよ。

　歴史は常にそういうスタンスでいなきゃならないと思う。公式記録さえ真実とはいえない。大昔の戦記とか自国に都合のいいことしか書いてない。記録を残したもん勝ちなところあるもん。今の世の中だって政府発表やマスコミが真実だとは限らない。結局そういうものなのだ。

　とにかく、一言で白だ黒だと判断できないものが積み重なって歴史を作ってるんだということを若いうちから悟れたのはとても良かったと思う。

　その後、私はその流れで国際関係に興味を持つようになり、一時期そのような知識を使う仕事をした。詳細は省くが、それをきっかけに実際の歴史の生き証人や社会活動家、軍人や国際機関の人と出会う機会があった。その流れでアメリカ人と結婚し、今はアメリカに住んでいる。コロナをきっかけに完全リモートワークになり、育児中心の生活になったが、それでも世界史で得た知識は無駄になってないと感じる。

　現在ウクライナで何が起こっているかを知るにも、最近のアジア情勢を考えるにも、先日アカデミー賞歌曲賞を取ったぶっとびインド映画『RRR』を楽しむにも、推しが兵役に行った悲しみを消化するにも、あらゆる場面で世界史の知識が助けになっていると言える。

世界史から学ぶ人間関係

　私は常々世界史は良い道徳教材だとも思ってきた。

　日本史が自分の親や祖父母のこと、自分自身が何者かを学べる学問だとすれば、世界史は同じ学校や職場にどんなタイプがいるか、どう動けばうまく立ち回れるかを学べる学問だと思う。そして残念なことに、失敗例のオンパレードだ。

　世界史には、学校という狭いコミュニティの中で生きなければならない中高生にも共感できる問題が盛りだくさんだ。

「●くんと△くんはどうしてこんなに仲が悪いの？お互いのどういうところが気に入らないから喧嘩するんだろう？」「■さんは何がきっかけでクラスの中で孤立していったんでしょうか」「確かに先に手を出したのは★くんですが、そもそもどうして彼があなたを殴ったんですか？」

　おかしな話で、大人も政府も、子供たちにきちんといじめの問題に向き合ってほしいと言っておきながら、自分たちはまともに自分の問題に向き合った試しがない。世界史なんていじめの事例がいっぱいだと言うのに。それをきちんと分析もしないで、臭いものに蓋をして「いじめをなくそう✨」とか「世界平和🕊」とか言ったところで何の説得力もないのだ。

　これは私の持論なので、色々な見方があると思うが、ざっくり言うと、日本はいじめの被害者でも加害者でもあった世界でも特殊な立ち位置の国だと思う。

　いじめっ子グループから目をつけられる前に上手く彼らに取り入って筋トレを重ねてイメチェンをはかり、保身のために自ら率先して虐める側に回った。やがてグループを抜け、元いじめられっ子たちを従えて独自にグループを結成、いじめっ子に対抗しようとした。それが自分が生き残る最善で唯一の道だと信じていたからだ。だが、ワンマンなやり方でグループ内から反発が起き、それが更にワンマンを助長し、結局そこを突っ込まれて、先にいじめてたはずの人たちから“正義の鉄槌”を下されることになった。

　もちろん国同士の話だから実際はもっと複雑だが、大まかにはそういうことだと思う。そう考えれば「そうしなければ自分が虐められていたんだから仕方ないだろう」「お前らが大人しく従っていれば結果は違ったかもしれないのに」という一部の日本人の意見も同意はできないが理解できる。一方で「どんな事情があろうとお前らの裏切りは一生許さん」という中韓サイドの意見も感情として分かる。諸悪の根源に思える欧米諸国にもそれぞれ彼らなりの言い分があるだろう。

　そしてこういう場合、大体一番悪いのはイギリスなんだが、現在のイギリスは開き直って「オレの親父はマジで酷かったよな〜うんうん、分かるよ」というノリなので、なんか責めるに責められない。とことんズルい。そりゃRRRでぶっ飛ばされても仕方ねぇよ(またRRRの話してる)。

　似たような感じで、ウクライナの問題は束縛の強かった夫が、妻が再婚しないことを条件に離婚に合意したけど、最近再婚したがっていると知り、約束が違うと干渉してきたと考えるとなんだか色々見えてくるものがある。朝鮮半島の問題は、幼い頃に離婚で引き離された双子のうち、兄が劣悪な環境、弟が比較的恵まれた環境で育った場合にそれぞれが抱く複雑な心境に似ている。あまりに価値観が違いすぎて深く関わりたくないような、でも血を分けた兄弟だから仲良くしなければならないような、こんなに違うことに怒りが湧いてくるけど、その怒りの矛先をどこに向けていいか分からないような。そんなドロドロしたごった煮の感情が今の情勢の陰に潜んでいるように思う。

　結局、難しいこと言ってるようで、国際問題も人間ならではのエゴのぶつかり合いなのだ。遥か遠い国の話でもなく、知的でハイソな話でもなく、私たちが日常で巻き込まれる身近な問題とさほど大きく変わらない。だからこそ私たちは政治家や専門家でなくとも、もっと歴史を知り、解決法を探っていかなきゃいけないんだと思う。歴史を知ることは人間を知ることであり、それが結果的にいじめや家庭内暴力などの社会問題を考えることにも繋がってくると思うからだ。

序章の終わりに

　最後までお読みいただきありがとうございました。今後はこのようにポツポツと世界史にまつわるコラムを書いていきたいなと思っています。今回はその序章でした。

　私は歴史研究家ではないので、専門知識を深掘りするわけでも、世界史講座をするつもりもありません。ただ、世界史にこれまで関心がなかった人、学ぶきっかけがなかった人、敷居が高いと敬遠していた人たちがもっと気軽に、身近に、自分の問題として考えられるきっかけになればといいなと思っています。ですので、元から歴史オタクの方には物足りない記事になると思います。その辺りもご了承ください。

　上で少し述べた戦争責任の話も、ウクライナや朝鮮半島の問題も、端折って書きすぎると誤解を招く話なので、後々きちんと書いていきたいと思います。今回はあくまでさわりなので、どうぞお手柔らかに。

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第一回書きました！