忘れていく箱
パタパタとレコードを倒しながらジャケを眺める。古本屋と同じでレコード屋も好きだ。生まれる前のレコードや発売されたばかりの新譜もどちらも同じくらいときめきがある。何も詳しくないけれど、たまにレコードを聴く。普段から音楽を聴くのが好きという程度で、どこのジャンルに精通しているとかそんなこともない。自分が良いなと思うものを聴いているだけで音楽に関してコアな話ができるわけでもない。
友達はアンプからミキサーからこりに凝って、いくつもターンテーブルを持ってるし頼まれDJもやってたりして家の床が沈むくらいにはレコードを持っている。旅に出た先では必ずレコード屋に立ち寄る。この前も土産だとDisc Unionのショッパーに入れてレコードを2枚持ってきてくれた。入っていたのはMe First and the Gimme Gimmesと井上陽水だった。こういうのがおもしろい。
そんな風にがっつりレコードマニアなわけではなくデジタルの音も良いがアナログも良いな、と思う程度。レコードに針を落としてぐるぐる回る盤を何を思うでもなく眺めたり、止まった針をあげレコードをひっくり返してまた針を落とす。そういうことって少し心にゆとりとか余裕が無いとできないと思っていて。敢えて自分からその時間を取りに行っている感じもある。あとは単にかっこつけかな。
書籍もそう。いまだに紙が好きだったりする。場所も取るし古くなるし管理がめんどくさいのは十分分かっていても、つい本というものを手にしたくなる。電子書籍でも読むけれど、書店や古本屋に足を運ぶこと自体が好きだ。そしてすぐ積む。悪い癖だ。
煙草も同じか、紙煙草が今だに離せない。吸える場所など限られてしまっているし、臭いと嫌われるのは承知で紙で吸いたくなる。火をつけた時のあの香りとひと口目を吸い込んだ時の感覚が何とも言えない。寝起きのそれは最高だろ。
電子は何でも便利だ。そちらに傾きがちだしそれで良いと思っている。アナログなものを声高に推すつもりもない。廃れるものはどうしたって廃れていく。そういうものだ。賭け事だって現場に行かなくてもできる。なんでもこの小さな端末におさまっているのに色んな場所に繋がっている。
不思議だな。
声が聞きたい。笑う声。少し怒ったような拗ねた声。楽しそうに話すのが好きだった。だから何って話。何もない。ただそう思っただけだよ。そんなことも思い出という箱の中にしまい込んだら、そのうち忘れる。