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海を眺めることができる根府川駅
休日の始発電車なのに、思った以上に人が乗り込んでいる。座席で横になっている人も見かけるので、夜通し待って乗っている人もいるのかもしれない。スマホが手からこぼれ落ちているのが見え、他人とはいえ少し心配になる。
私が目指すのは海を眺めることができる駅。日の出を撮りたくて、カメラバッグを背負い、三脚を手に持って空いている席へ座る。事前に天気予報を見たが、日の出を見れるかは微妙な感じだ。駅まで歩きながら空を見上げてみたが、星が見えなかったから、きっと予報通りなのだろう。
日の出の30分前に駅に到着し電車を降りると、明かりのない世界が目に入る。暗くてハッキリとは見えないが、匂いから海が近いことはわかる。ドアの閉まる音が聞こえ、次の駅へ向かって電車が走り出す。ほとんど降りる人はいなかったので、静寂の中でこの時間に溶け込もうと、見えない海を見つめてたたずんだ。
ただ、何となくざわざわしている。心がざわついているわけではない。実際に何かがあるざわざわだ。後ろを振り返ると、見慣れない寝台列車が停車している。電車にはあまり詳しくない私でも、かなり豪華だとわかる列車だった。
特徴的なのはさまざまな形をした窓だ。三角形の角を丸くしたものや、野球のホームベースのような形のものもあり、その窓からは、デコレーションケーキをひっくり返したような美しいシャンデリアが見える。乗務員が外に降りて談笑しているが、次の電車の通過を待っているのか発車する気配がない。
寝台列車を横目に改札口へ向かい駅を出る。近くをぐるっと回ると歩道橋が見えたので階段を上がって、海の方向に目をむける。雲が厚いので日の出はきっと見ることはできないだろう。でも停車している寝台列車が、夜明け前の風景に馴染んでいる。三脚をセットしてシャッターを切る。
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日の出は見れなかったけれど、こんな夜明け前の写真もまたいいなと思いながら、普通電車に乗り込み帰路に着く。そんなちょっとした偶然の時間。
この寝台列車は「TRAIN SUITE 四季島」で、ツアーの旅程で根府川駅から早朝の日の出が見れるよう時間に合わせて停車していたと分かった。料金を見ると、とても「機会があったら乗ってみよう」なんて軽々しく思える金額ではなかったので、「機会があったらまた撮りに来てみよう」と思うことにした。