七つの子(5)
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昨日と同じだ。当たり前か。
昨日のハンカチは、夜に目覚めたあと風呂場で洗った。男性用のボディーソープで洗ったので、当然ハンカチの匂いは昨日とは違う。あの匂いが消えてしまったのは残念だけど、洗って返さなければならないので仕方ない。
ハンカチを助手席のシート置いて、車のエンジンをかけた。
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あの男の子に声をかけられたのは、日曜日の午後、スーパーへ夕食の買い物に出掛ける為、子供達を車の後部座席に座らせようとした時のことだった。
「こんにちはー」
彼は気さくな笑顔で、塀の前の道路から車に近づいてきた。
「あっ はい。こんにちは」
知らない人に突然、声をかけられたので、少し戸惑い気味にわたしは挨拶を返した。
「あのー これ」
差し出した彼の手には、昨日どこかで落としてしまった娘のハンカチが握られていた。
「あっ わたしのハンカチだー」
娘が後部座席から嬉しそうな声をあげる。
「あー良かった。こちらのお嬢ちゃんのだったんですね。実は昨日の夕方、そこの道端に落ちているのを見つけて拾ったんですけど、誰かに踏まれた足跡がついちゃってたから、一度うちに持ち帰って洗濯しておいたんですよ。でも、どの家の子のなのかわからなくて。かわいいハンカチだから、落とした子も悲しんでいるんだろうなって思ってたから。みつかって本当に良かった」
少し捲し立てるようなしゃべり方が気になったけど、洗濯までして届けてくれるなんてやさしい好青年だなって思った。
「お兄ちゃん ありがとう」
「どういたしまして。お利口さんだねー」
彼は娘にハンカチを渡してくれ、娘の頭を撫でた。
「ありがとうございます。昨日からお気に入りのハンカチがないって大騒ぎだったんです。親切に届けていただいたうえに、お洗濯までしていただいちゃって」
「いえいえ、ちょうどこの道を通っていたら見つけただけの事ですから。それより随分とお気に入りなんですね。そのハンカチ。その喜んだ可愛らしい顔を見たら、ぼくの方が嬉しくなっちゃいましたよ」
そう言うと彼はまた娘の方を向き、
「じゃあ今度、この同じねこちゃんのキャラクターのぬいぐるみを持ってきてあげるね」
「わーい やったー。ぬいぐるみは持ってないんだー」
「えっ。親切にしていただいておいて、そんな。困ります」
「いいんですよ。ぼくUFO キャッチャー得意なので、それほどお金をかけなくてもゲットできちゃうんです」
「いいなー。ぼくもなんか欲しいよー」
長男まで欲しがりだした。
「もー あんたまで。ダメです。お兄さんに悪いでしょ」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。じゃっ お兄ちゃんの分もなんかゲットしてきてあげるね」
そのあと、何度か断ろうとしたけれど、子供達もその気になってしまい、彼に押しきられるかたちで話しは終わり、彼は子供達と指切りをしてから帰っていった。
少し童顔に見えた彼は、高校生くらいだと思っていたが、予備校に通う19歳だということだった。そういえばこの辺では見ない顔だけれど、どこに住んでいるんだろう。遠いとこからだと申し訳ないな。
わたしは先月買ったばかりの車に乗り込み、スーパーへと向かった。車の中は芳香剤の匂いに混じって、まだ新車特有の匂いが残っていた。わたしはこの匂いがあまり好きではない。
運転席側の窓を開けた。この季節にしては冷たいくらいの風が入りこみ、少し寒くなって直ぐに閉めた。
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子供達、かわいかったなー。お母さんもやっぱり優しい人だった。調子にのって、ぬいぐるみをあげる約束しちゃった。まあどっかで安く売ってるのを買えばいいや。
ゆーびきーりげんまん うそついたらはりせんぼんのーます ゆびきった
指切りなんてしたの、もうどれくらいぶりだろう。
それにしても〈げんまん〉ってなに。
嘘ついたくらいで針を千本のまされたら、たまったもんじゃないね。もう何回死んでるかわからないよ。あー恐ろしい。
でも、あの女の子の指、プニプニしててやわらかかったなー。ずっとさわってたかったよ。
出来ればお母さんとも指切りしたかったなー。そしたらその感触で今夜も。あっ いけねいけね。今は運転に集中しないと。
んっ そーいえば母親と指切りした記憶を思い出したぞ。そーだ。あのとき約束を守れなくて、あとで鬼のようにぶたれたっけ。あー なんか最悪なこと思い出しちゃったじゃないか。
まあ、もういない人のことは忘れよう。
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土曜日、ぬいぐるみと赤い車のミニカーを持って、あの家族の元へ向かった。
ぬいぐるみとミニカーは、月曜日の予備校の帰りにたまたま通りがかったフリーマーケットで見つけたものだ。
ねこのキャラクターのぬいぐるみは昨日まで、ぼくが抱いて寝てあげた。少し愛着が湧いてきたけど、かわいいあの子のためだ。潔くプレゼントしよう。
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【つづく】