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万人への理解からの距離を測る。 小さなお店の考える「わかりやすさ」の話

小学校の時、初めて出された国語の宿題が終わらなくて泣いたことがある。

教科書の文章を、わからない言葉は辞書で意味を調べながら読みましょう。
そんなどこにでもあるような簡単な宿題で私はドロ沼にはまり、30分もあれば余裕で終わりそうな宿題を、3時間かけても終わらせることができなかった

その理由はバカみたいにシンプル。
辞書で調べたわからない言葉の説明に、またわからない言葉が登場するため、ずっと調べ続けていたからだ。

例えば「りんご」という言葉をWikipediaで調べてみるとこんな説明がある。

リンゴ(林檎、学名:Malus domestica, Malus pumila)は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹。またはその果実のこと。植物学上はセイヨウリンゴと呼ぶ。春、白または薄紅の花が咲く。

wikipediaより引用

大人からすれば「ふーん」という説明だけど、小学校低学年のわたしはクソ真面目にこう考えた。

学名ってどんな時の名前?
バラはわかるけど、バラ科ってなに?
落葉高木樹ってどんな木?
薄紅って具体的にどういう色?

実際に小学校低学年で使用する辞書にはここまで難解な書き方はされていないだろうけど(そもそもそんなに漢字が読めない)、そもそも語彙力が足りないところに他の言葉を使って説明を重ねたところで『わからない』はねずみ講のように増加していく。

小学校低学年の私に「りんご」を説明するなら、「この前、かぜをひいた時にお母さんに食べさせてもらった食べ物のことだよ」ぐらいが一番理解を得やすいのかもしれない。

なぜ、こんな話をしはじめたかと言えば、「わかりやすい文章」というものを考える時に、この事例がすごく参考になるなと思ったからだ。
いくら正しい定義を難しい言葉で並べても、伝えたい相手に伝わらないことがある。
それはnoteを書いていても、仕事の上でも、プライベートでも誰だって直面する悩みの一つだと思う。

今回は、そんな辞書をひきながら泣いていた私が、30年近くかけて至った「私的わかりみの構造」をご紹介したい。
特にnoteを書く上で、悩んだりしている人に読んでもらえると嬉しい。

「万人への理解」からの距離を測る

多くの人に文章を読んでもらいたい。
そんな想いは自分にももちろんあるし、文章でなくともコミュニケーションにおいては「理解されたい」というのは重要視されるポイントだ。

ただ、誰にでも分かる文章というのは、「なんの変哲もない文章」と背中合わせであるように思える。

例えば、「空は青い」という文章は、日本人の多くが共感できるし、理解することができるだろう。
空が青いことは、一般常識なのだから。

だが、「空は銀色だ」と言われるとどうだろう?
意味としては理解できても、実際にそういった景色を見たことも聞いたこともない人がほとんどだから、理解してもらうにはそれなりの説明が必要になる。

でも、これだけインターネットに文章データが溢れ、流れてくる中で、あえて読むとすれば「空は銀色だ」という文章の先にあるストーリーだと個人的には思う。

『万人に理解される文章を書くこと』を自体が目標ならば、なんの変哲もない文章を書きならべるのが一番効率は良い。
けれど、だいたいの人はそこを目指しているわけではないだろう。

私なりの感性で作ったものや見つけたものを「いいね」と認められるためには、一般常識から私なりの考えに一歩踏み込む必要性がある。
ただ、「一般常識からどのくらい離れているんだろう?」という距離感は常にあった方がいいと思う。

「空は銀色だ」という言葉は、「空」も「銀色」も一般常識の中にある言葉だ。
これがヒポポタマスアザレアピンク色だ」と言われると、馴染みのない単語を前に多くの人はもはや理解できないだろう。
ヒポポタマスはカバの意味を持つ英語で、アザレアピンクは下の画像のような色だという補足説明なしには読む気も失せる。

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一般常識というと読者の想定範囲が広くなりすぎるので、「自分が発信したいSNSサービスの今の流れを読む」と言い換えてもいいと思う。
(得てしてtwitterだけで流行している言葉遣いといったものもある)
もし自分の感性の中でアザレアピンクが常識だったとしても、Twitterやnoteでよく読まれている文章を見てみて、そんなにたくさん現れない言葉なのであれば「クセが強い言葉」なんだなと心に留めて置くことで、書ける文章は変わってくる。

ただ、「クセが強い言葉」「あまり世の中で話されていない内容」に強いこだわりをもつあなたこそ、一般常識との距離感を意識した時に面白いコンテンツを発信できる可能性を秘めていると私は思っている。

「めんどくささ保存の法則」を意識してみる

エネルギー保存の法則という言葉を覚えているだろうか?

学校の物理の時間とかにたぶん教えてもらっているはずだし、どこかで目にしたことはあると思う。
ここでは物理や熱力学の話をしたいわけではないので、すごく乱暴に説明するけれど、例えていうと「コップに入った熱々のコーヒーは時間とともに冷めていくけれど、その熱さは空気に移ったりしただけで消えたのではない」というような話である。

クーラーで部屋が涼しくなった分、室外機から出される熱風で外は熱くなる的なことだと思ってもらえればこの場では十分だ。

これと同じように、コミュニケーションにおいても「めんどくささ保存の法則」というものがある。
というか今、私が作った。
もともとは、「複雑性保存の法則」という「デザイン」についての理論があって、そこから私が強引に名付けたものだ。

たとえば、「ラーメンを作る」という行為について考えた時、めんどくさいことはたくさんある。

①材料を揃える。
②スープを作る。
③麺を作る。
④具を作る。
⑤調理する。
⑥器に盛る。

実際にはこれ以上に作業は細分化できるし、足りないものもあるだろうけど、ざっと考えただけでこれだけの作業がある。
ラーメンを作るというのは手間暇のかかる大変な行為だ。

だが、この工程を圧倒的に省略してくれるのが「カップラーメン」の存在だ。

①カップラーメンを買う
②お湯を沸かす
③お湯を注いで3分待つ

どうだろう。
皆さん御存知の通り、食べる側から見れば、これほど楽なことはない。
でもあくまでこれは、食べる側で行っている内容だ。

一般社団法人 日本足跡食品工業協会のインスタントラーメンナビを気になる人は見てみてほしいが、見るまでもなく私達はカップラーメンを作るのが大変そうだなということは理解している。
すべてが史実通りではないにしても、NHKの連続テレビ小説「まんぷく」で描かれたように、食べる側がめんどくささを感じずにラーメンを作ることができるのは、メーカーがめんどくささを担当してくれているからだ。
めんどくささはどこかの山へ飛んでいったわけではなく、だれかが必ず処理しているのだ。

この構造を文章を書いたり、何かを伝えようとするコミュニケーションに例えるならば、食べる側が読者で、カップラーメンを作る側が書き手と言える。
たくさんの人に読まれるわかりやすい文章はカップラーメンにも似て、読者が「読む気」を注げば美味しく召し上がれる。
書き手側は、ただ作りたいように文章を書きなぐるのではなく、読者が読むのが「めんどくさい」と思うような障害を把握している必要があると言い換えてもいいと思う。

ただ、ラーメンだって、お湯を入れるだけで出来上がるカップラーメンだけじゃ満足できない人がいるように。
読むのが楽なだけの文章を誰もが求めているわけでもない。
私は、ここに面白いコンテンツを作るコツが隠れているような気がしている。

どうせ、表面的にきれいなものや、面白いものなんて、どこかで誰かがうまいこと手を付けて既に世の中に溢れているし、とんでもなく激戦区のレッドオーシャンだ
でも、あなたのこだわりや経験が重なって重なって重なり倒して生まれた「なにか」は、まだあなたの中にしかない

その「なにか」が、どれだけ一般常識から遠いところにあるのか。
そこにたどり着くために必要な勉強や経験といった「めんどくささ」が必要なのか。
そして、たどりついた先の景色がどれだけ輝いているのか。
その『案内』を初心者にするつもりで文章を書けば、「なにか」について幅広い人に読んでもらえるコンテンツを書くことができるだろう。
そして更に、初心者では理解に努力が必要な「踏み込んだ内容」を書けば、お湯を注ぐだけで満足できないラーメン愛好家のような人々にとっては、挑みたくなるコンテンツにもなりうる。

バズらない記事も意識すること

「めんどくささ」を誰が処理するのかを意識することで、コンテンツの狙いは確実に変わる。
多くの人に届けようとしすぎると、前述のようにあたりさわりのない内容に陥ってしまうし、「おおざっぱな言葉でわかったような気持ちにだけさせる」文章は、時に誤解も産んでしまう。

こちらのnoteで最所あさみさんが触れているのだけど、必ずしも「バズること」が全てではないし、noteというコンテンツはバズらないコンテンツをじっくりと発信するのにも向いていると思う。

どういった記事を書きたいのかは、タイミングで変わるだろうけど、その使い分けに「一般常識との距離感」や「めんどくささ保存の法則」は結構役に立つと思う。

「わかりみが深い」文章は、必ずしも万人からの共感を求めるものではなく、読み手がめんどくささを越えてでも「理解したい」というコンテンツにこそ宿るように思う。
それを意識的に組み立てていくにはこの「距離感」が役に立つと思う。
使えそうであればぜひ試してほしい。

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