無謀にも、個人のお店が1年間で「10個のオリジナルアイテム」を作って販売してみた話
「オリジナル商品を作って、在庫をもつことは怖いことだ」
誰もが知るような文具メーカーで、責任ある立場にあった方からそんな話をきいた時には、漠然と「そうなんだ」ぐらいにしか思っていなかった。
モノを作り、在庫を抱え、たくさんの人に知ってもらえるように紹介し、実際に購入にしてもらう。
その大変さを言葉にすることはこんなに簡単なのに、その実感を伝えることは難しい。
昨年、クラウドファンディングを経験してオリジナル商品を世に出した私も、ようやく在庫をたくさん持ってそれを実感することができた。
実際、オリジナルの商品が売れるかどうかなんて、だれも保証してくれない中でお金をかけて在庫を持つことは不安や恐怖を感じる。
けれども、今年に入って何度も失敗しながら商品を企画し、実現していく中で自分なりのやりかたが見えてきた。
気づけば10点を超えるオリジナルアイテムを販売することができているのは、正体のわからなかった「漠然とした恐怖」が、「なぜオリジナル商品の在庫をもつことは怖いのか」という輪郭が見え始めてきたからだと思っている。
「オリジナルのアイテムを作って、お店をやってみたい」と思っている人は多いけれど、今回は「実際にオリジナルアイテムを作ってお店をやってみた」という一年間の振り返りを皆さんに共有できればと思う。
名入れの範囲で価値を作ってみる
オリジナルで商品を企画し、全く世の中にないものをゼロから作り出すことができたら・・・。
誰もがそんなことを一度は思う。
でもまあ、世の中に存在しない道具なんてなかなか思いつくものではないし、既にあるものだって十分に素晴らしいものばかり。
それなら、その既製品にロゴやデザインを施すだけで、ちょっと切り口の新しいなにかを作れないだろうかと考えた。
DOCKET OFFICE SUPLYという企画はまさにそんな考えから生まれたシリーズ。
私自身も普段遣いしている誰もが知るメーカーの定番のペンに、うちのお店がヨーロッパやアメリカで、いろんな会社に文具を卸す事業をしていたら・・・という妄想をベースとしたロゴを入れて、販売するという試みを行った。
ぺんてるさんのサインペンや、uniさんのジェットストリームなど、定番品をただ販売するのならアマゾンでもヨドバシでもコンビニでも安く便利に手に入る。
けれど、自分のお店でわざわざ買っていただくのなら、一捻りあったほうがいい。
実際、名入れは企業のノベルティなどでも使われている方法なので、コストもそこまでかからないし、既製品に名入れするだけならばメチャクチャな量の在庫を抱える心配もない。
こんな風に名入れは、既製品を元にしながら低リスクで切り口を変える手法として取り組めるので、うちのような個人の小さなお店でも選びやすい選択肢だ。
また、うちのお店で作っている三角コーン看板 PREFAB SIGNも、既製品にカッティングしたステッカーを貼り付けているという意味では名入れで価値を作っているプロダクトでもある。
奈良県の中川政七商店さんの本店である猿鹿狐ビルヂングでも、ロゴの鹿をあしらった看板を使っていただいていて、時折建物を訪れた方の写真にコーンも映り込ませていただいていたりする。
また、東京新宿歌舞伎町にある黒Tシャツ専門店さんでも同様に、看板を普通に使うだけでなく、SNS発信の際にもご活用いただいていたりする。(実際の設置は私道)
自分のお店のロゴやイラストだけでなく、他のお店やブランドの方と一緒に名入れを活用することで、新しい価値を作り出すことができたりすることが三角コーン看板からは感じられる。
更にちょっと名入れの範疇からずれるかもしれないけれど、既製品の印刷デザインを変えるだけで新しいものが生まれることもある。
本屋さんのレジで抜かれる注文カードのようなものを、カラーで印刷注文できることを知ったことがきっかけで作ったアイテム「SLIP(スリップ)」は、今年一番名入れの可能性を感じたアイテムだ。
裏表で色を変えることで、1種類で2つのカラーを楽しめたり、書類整理の際に使うことでポストイットの代わりになったり。
SLIPは販売開始から1000枚以上をご注文いただいて、愛されるアイテムへと成長している。
もちろん、商品の背景と用途からみても本に合うし、本の販売のために作られたツールだからコストも大きくはかからない。
新しいものを無から生み出すぞと意気込むよりも、普段は気にもかけない「ふつう」のものの印刷を変えたら、なにか他のものに変わらないか・・・という視点は、商品を新たに作る際にかかる金型やプロダクトデザインの費用などを考えた時に非常にコスパもいい。
また、生産も比較的小ロットだったり、デザインの入稿フォーマットなども既に確立されていたりするので、まずは原価が多少高くとも少しの量で作ってみて、お客さんの反応をみながら展開するという販売方法にも向いている。
ゼロイチで何かを作るほどのインパクトはないけれど、切り口次第で化けるというのがこの方法の大きな魅力だと思う。
既にあるものを別のサイズや仕様で作ってみる
お店をやっていると、商品を仕入れながらメーカーさんともコンタクトをとる機会が多くある。
メールやメーカーへの訪問、展示会での商談など、お話を重ねていく中で、「この商品がこんな感じだったらいいのに・・・」という話になることもよくある。
サイズや形の簡単な変更であれば対応してくださる優しいメーカーさんとのコミュニケーションを通して、今年生まれた商品もたくさんあった。
上の写真のBOOK TAILOR for Magazineもそんなアイテムの一つで、元々は文庫本や単行本を気軽に置いて飾るための道具だった。
でも、カーサブルータスなどの雑誌が好きな私は、思わずジャケ買いしてしまった雑誌をどうしても置いて使いたくて、大きなサイズを作ってもらった。
もちろんメーカーさんの製造方法などにも大きく寄るところはあるのだけど、既存の商品のバージョン違いできちんと新しい価値を作れるのであれば、リスクもそこまで大きくならない範囲で新しいものを作ることができることはある。
「プチプチ」の商標登録をもつ川上産業さんに作っていただいたこのプチプチ袋もそのうちの一つのアイテムで、既に持っておられる技術でA4サイズの書類が収まるように作っていただいたアイテムだ。
大きな違いは、片面だけ黒いフィルムを貼っていただいて、外からみえない工夫をしたところ。
こうしたカラーのフィルムを貼る事例はピンタレストなどで海外のものをみたことがあったのだけど、日本ではなかなか見かけることがなく、ダメもとでお願いさせていただいた所、ちょうどサイズのあう資材があり、生産いただくことができた。
また、活字を指定することでオリジナルのブックマーカーを作ってくださるサービスを利用して作らせていただいたのは「活字中毒」という形の栞。
これもまた既製品をどういう形にするのかというのが企画のすべてなのだけど、4文字連結という難しい注文にもメーカーさんに快くこたえていただき完成。
活字の本が好きな人や、活字の本が好きな友人にプレゼントしたいと、面白いブックマーカーとして人気になっている。
そして、自分のお店オリジナルプロダクトであるノートカバーのサイズ変更にも挑戦した。
付け替えられるハードカバーとして、A5サイズやB6サイズのノートにつけるだけでハードカバーにできるアイテムとして販売した「IDEAL(アイディール)」という商品に、大学ノートと呼ばれて長く親しまれているB5サイズを新たに作ることにした。
商品のサイズ展開自体は、考えることは容易なのだけど、在庫を多く持たなければ利益率の確保が難しいという課題もある。
しかし、ハードカバーの人気サイズの売れ行きを1年通して見てきた中で、どのくらいのコストをかけて、どのくらいの量を発注すればいいのかというのがわかってきたというのが大きく、新しいサイズ展開に挑戦することができた。
また、自分のオリジナル商品も、他のブランドとコラボレーションすることで新しい側面を提供することができた。
左ききの道具店さんの左ききの手帳とのコラボモデルでは、左ききの方が使いやすいハードカバーというこれまで考えたこともなかったような刺激を頂いた。
また、手のひらに収まる小さなサイズで気軽に毎日持ち歩くことができるダイアログノートさんとのコラボモデルでは、小さなサイズへの挑戦を行うとともに、初めて広い面積に金箔を押したデザインにも挑戦。こちらも、大変ご好評をいただくことができ、商品のサイズや仕様を切り替えるだけで生まれる様々な可能性をかんじさせていただいた。
自分が使いたい道具を作ってみる
色々な道具を探して、四六時中セレクトしては仕入れてきても、自分の性癖や不満点にドンピシャな商品を見つけられるとは限らない。
ただ、とことんニッチで伝わるかわからないけどどうしてもほしいというアイテムほど、意外と共感をいただけて販売につながるなというのを感じたのは意外だった。
ただ、その時にすべての不満点を解消できるような夢のアイテムを作ろうとしても、なかなかうまくいかない。
例えば理想のカバンを作ろうとしても、技術もなければアイデアも不明瞭。
思いつく限りの理想を詰め込んだところで、それがカバンとして魅力的かどうかというのはなかなかうまくいかないし、商品の金額がわけのわからない額になってしまう・・・というのも試行錯誤の末学んできた。
そんな中でメーカーさんと生み出したDOCKET CHEST STRAPは、ニッチにある部分にこだわることで受け入れられたアイテムだった。
CHEST STRAP(チェストストラップ)というのは、リュックで背負う肩紐同士を胸の前でつなげるストラップのことで、ノートパソコンなどの重い荷物をリュックにいれて運ぶ際には重宝するパーツだ。
けれど、このパーツが自分の買ったお気に入りのリュックには搭載されておらず、更にはリュックが仕様切り替えでアップデートされた時に搭載されるという憂き目にあって、どうしてもこのパーツを後付したくなった。
取り付けにはフィドロックというドイツメーカーのマグネットの力をうまく利用したパーツを使って、スムーズにつけ外しができるようにし、長さ調整のベルトの滑り具合でも何度もメーカーさんに変更してもらってようやく形になってきた。
ただ、既存のアパレル用のパーツでは、チェストストラップの取り付け位置がどんどんずれ落ちてしまう問題に納得できず、最終的にはダンボールを開いたままにしておくための物流業界用のクリップを見つけてきてきたところシンデレラフィットするという奇跡が起こり、なんとか納得行くものができあがった。
おかげさまで10月の発売開始から3ヶ月で20個以上を販売させていただき、小さなお店の企画したアイテムとしては好発進をさせていただいた。
こんな風に、カバン全体を企画するのは難しくても、日常の不満を解決できる小さなパーツであれば、メーカーの力を借りながら作ることができると知れたのは本当に大きな収穫だった。
また、お店をやっている自分ならではの不満も一つの商品に形を変えた。
『Re-use Package』シールは、お店にメーカーから商品が納品された時に使われていたダンボールを、お客様へ商品を発送する際に使いたいなという想いから生まれたシールだ。
エコが叫ばれる時代に、まだ使える資材を再利用することは必要なアクションでもある。とはいっても、ダンボールは回収率も高く、リサイクルもされているものなので環境への貢献という意味ではリユースが生む効果はたいしたものではないことも分かっている。
それでも、まだ使えるダンボールを使わずに、新しいダンボールを発送のために毎回用意するのは、リユースするよりも多くの運搬コストなども含むし、使えるダンボールは経費の観点から使えるのがありがたい。
でも、リユースされたダンボールを受け取った人が、微妙な気持ちになることもまた防ぎたい・・・。
そんなさじ加減をデザイナーさんと共有して生まれたのがこのステッカーだ。
ダンボールなどのパッケージが再利用であることと、THANK YOUという感謝を端的に伝えるものになっている。
こちらも、同様に包装資材の再利用にもやもやを感じていた方を中心にじわじわと売れていて、500枚入った大容量モデルも購入いただけている。
お店で人気のアイテムを更に発展させて考えてみる
お店を営んでいると、思いもしなかった商品が人気になることがある。
ガチ勢のケーブル保護チューブとして紹介したヘラマンタイトン社さんのヘララップもそんなアイテムで、ケーブルをまとめられる効率のよさから想像を超えるnoteへのいいねと、ご注文をいただくことになった。
そんなケーブル保護チューブを、もっと多様なインテリアにマッチさせたいと考えて、鉄道や医療機器向けにケーブル保護チューブを作成するメーカーさんと協力して作ったのが「インテリアに溶け込むケーブル保護チューブ SLEEVE(スリーブ)」だった。
自分のお店で人気だったアイテムの発展型だからこそ、どの程度販売できるかの目安もつけやすい。それでも在庫を抱えるリスクを極力抑えるため、人生で2度目のクラウドファンディングに挑戦することになった。
どういった長さのチューブが人気なのかや、実際に仕様いただいた支援者の方のコメントをいただきながら、今後の店舗での販売予定も検討できるのでクラウドファンディングはとてもありがたいプラットフォームだと改めて感じられた。
おかげさまで20万円目標に対して、400%を超える達成率に到達し、成功を収めることができた。
メーカーさんと組んでオリジナルアイテムを作ろうとすれば、必ずどれくらいの数を作るのかといった問題にぶち当たる。
少なければ原価率があがってしまい、多ければ売れなかったときのリスクが大きくなる。
その問題をクラウドファンディングなら和らげることが可能になる。
ありがたいことに、SLEEVEは東京や横浜の「THE」のお店でも期間限定でお取り扱いいただくこともできて、小さな個人のお店で企画したアイテムがこうして広がっていく風景にありがたさを感じている。
2022年も新たな挑戦を
お店をはじめて2021年10月でようやく3年が経った。
はじめはオリジナル商品を作るなんて無理!と怖がってばかりだけど、なれない中で少しずつ挑戦し、爆死しないように商品を企画することもできるようになってきた。
2022年も、今年学んだことを基盤にしながら新しいことをたくさん仕掛けていきたいと思う。
もっと世の中に革新をもたらす新製品を作るべきだ!と思う方には役に立たない見識かも知れないけれど、なにか新しい一歩を踏み出したいお店の方に、このnoteが少しでも役に立ってくれたら嬉しい。
そして、今年作ったアイテムの中で、もし気に入ったものがあったらネットストアでもご注文いただければ飛んで喜びます。
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