星新一の頭の中が垣間見れるエッセイを読んだ話(『できそこない博物館』読んだ!)
ショートショート1001編を達成。星新一の著作は教科書にもある名作揃い。そんな言わずと知れた天才はどのように小説を作っているのか、興味はないだろうか。
ーー頭の中を覗いてみたいと思ったことはないだろうか。
そんな読者の望みをかなえるのが、『できそこない博物館』である。なんとこの本、著者が書いたものの実際には作品にはしなかったアイデアメモを公開し、それは何故作品化できなかったのか、どうすれば作品にできたのか、などを考察していくエッセイだ。この本で公開されているメモの数はなんと155編。星新一を読みつくした人にも、星新一を数編読んだだけの人にも楽しめる一作だ。
引用したのは一つメモを挙げたあとに嘆いている一文である。アイデアメモをこねてみると普段と変わらないクォリティのものが出来て、仕方ないと言いながらも素直に悔しがっているのが面白い。これは仕上げられないと嘆息し、あまりに短いメモにこれは何だと困惑し、SS論やらSF論、最近興味のあることを楽し気に披露する。ショートショートが淡々としていて、感情的なものが少ない分、こんな人がこうやって書いているのかと新鮮な驚きがあってこちらまで楽しい。メモと一口に言ってもほとんど完成されているものから、メモのあいだに入っていた新聞の切り抜きまでさまざま。そのメモが残された時代も、このエッセイ原稿を書いた時代からさらに二十年以上さかのぼり、月に二編書いていたころから、エッセイを書いているときのものまで。当時のことを振り返って書くものだから、ちょっとした星新一ヒストリーまで味わえる。お得だ。
さて、このエッセイの中で最初から最後まで言及されている問題。それは生みの苦しみである。冒頭からこんな具合。〈つぎのアイデアはどうしようという不安にいつもつきまとわれていた。現在までずっとそうである。これも職業。人生とは、なにもかもうまくいくようには出来ていない。〉なんてこった。あんなに面白い作品を大量に残した人でもその苦しみからは逃れられないらしい。
メモ:『ボッコちゃん』の短編集を読んだことがない人はぜひそちらから。あれほど面白い作品はなかなかない。
『できそこない博物館』星新一 新潮社 昭和54年 ISBN:4-10-109830-1