「一人電通」の仕事術。(『「ない仕事」の作り方』読んだ!)
マイブーム、という言葉はかなり一般的だ。ゆるキャラも大きく流行してからは広く普通の言葉のように使われている。しかし、覚えているだろうか。これらの言葉はみうらじゅんが言い出さなければ、そもそも存在しなかった言葉であり、概念なのであることを。
今までなかったはずのジャンルに名前を付けては、それを広めるため、企画、営業、接待を一人でこなし、一ジャンルとして実現させては成長させてきた人間。みうらじゅん。そのアイデアの出し方や、パッケージ化しての売り出し方、広めるため、認知させるためのネーミングまで、これは、その仕事の片りんを覗ける解説書である。
彼の仕事術は、発想の逆をいくようなものばかりである。例えば前述したゆるキャラ。当然のことながら、この言葉がない時点で「地方の着ぐるみになっているようなどこか緩い雰囲気を持ったマスコットキャラクターについての記事を書きませんか」などというような依頼は来ない。そこで、彼は自由にできるエッセイの枠を使って、さも「これが今熱い」というように熱量を込めて記事を書き、出版社に行っては編集者に逆接待を行って枠を勝ち取る。イベントを企画して、よくわからないが面白そうだと思ってくれる人を集め、理解者を増やしていく。わからないものをつまらないと断じるのではなく、そこが普通じゃなくていいと自分で思い込んで、好きなものを発信していく。そのうちに広まり、言い出しっぺの手を離れ、一分野になっていった。それが、ゆるキャラだそうだ。
他のこともすごい。そりゃあなかっただろうな、と思うような分野ばかりなのに、面白そうなのだ。自分の過去を昔から振り返っているところもあり、興味深い。当り前ではあるが、最初から人脈などがあったわけがない、そこからここまでやるようになった経緯は突拍子もなくて面白かった。
軽妙な文体が読みやすく、目から鱗なことも多い。この本は何か人生に気づきを与える……かもしれない。
メモ:ないなら作ればいい、というのは卑近な例ではあるが、まだまだ発展させていきたい自ジャンルにも通じるな、と思う今日この頃。でもこんな風にはできないって。
『「ない仕事」の作り方』みうらじゅん 文芸春秋 平成三十一年 ISBN:978-4-16-791166-9