見出し画像

読む順番で読後感が変わる⁈と噂の本を読んでみた(『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』読んだ!)

僕は君を可能性ごとすべて愛する。/さぁ、世界を消し去ってしまおう。こんな、愛する人のいない世界なんて。
『僕が愛したすべての君へ』/『君を愛したひとりの僕へ』乙野四方字

 パラレルワールドの存在が実証された時代。そこに生きる、違う世界の同じ人を主人公にした二つの恋愛小説。それが『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』だ。帯の文句は〈読む順番で読後感が変わる物語〉。『君を~』から読めば幸せに、『僕が~』から読めば切なく、その読後感が変化する。実験的で、感動的な、物語たちである。

 『僕が愛したすべての君へ』では遠い平行世界からやってきたというクラスメイトの瀧川和音が主人公の暦に、平行世界では恋人同士なのだと声をかけられるところから始まる。平行世界の自分は自分なのか。例えばほんの少し、朝にパンを食べるかご飯を食べるか程度の違いの人生を送っている自分ならばともかく、もっと違ったら? 大きく違う平行世界に気づかず移動して、そこで自分と恋人がキスをしたら浮気になるのか? そんなことに悩みながらも、愛を誓う二人がまぶしい。

 『君を愛したひとりの僕へ』では暦が佐藤栞という少女に出会う。思いを寄せあう二人だったが、互いの親同士が再婚。結ばれないと思いこんだ二人は、二人が結ばれる世界線へと跳ぼうとする。しかし、結果は失敗だった。事故に巻き込まれ、幽霊のような状態になってしまった栞を救うため、暦は平行世界の研究に没頭していく……。こちらが痛みを感じるほどに一途な暦の思いが美しい。

 この二つの世界は、作品内で言うところの、遠い平行世界である。朝食の選び方どころか、離婚後どちらの両親についていったか、誰にどのようにして出会うか。すべてが少しずつ異なっていて、少しずつ重なっている。何回かの平行世界間の移動でこの二つの話は交わる。ああ、ここはこうなっていたのか、と両方読むことによって分かるのも面白かった。一方ずつでも成り立っている物語だが、やはり、二つとも読むことをお勧めする。平行世界のあなたはどちらから読むことを選ぶだろうか。

 大丈夫。どちらから読んでも幸せで、切なくて、素敵な読書体験になることには変わりはない。
 
メモ:私は『君を~』から読んだ。幸せな読後感の中に残る、少しの寂寥感。いいものを読んだと思ったけれど、いかんせん恋愛小説が久しぶりだったものでそれらを凌駕するこっぱずかしさがね……。

『僕が愛したすべての君へ』乙野四方字 早川書房 平成28年 ISBN:978-4-15-031233-6
『君を愛したひとりの僕へ』乙野四方字 早川書房 平成28年 ISBN:978-4-15-031234-3

いいなと思ったら応援しよう!