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熱い演劇オーディションの話が面白かった!(『チョコレートコスモス』読んだ!)


あたしはあの芝居に出たいの。

『チョコレートコスモス』 恩田陸

 オーディションというものはなぜこんなにワクワクするのだろう。NiziUしかり、ソーイングビーしかり、アニーのオーディションしかり。困難な課題を超え、競い合い、誰が選ばれるのかを固唾をのんで見守る。その楽しさと言ったら! この作品もまた、その楽しみに溢れている。

 伝説の映画プロデューサーが鳴り物入りで始めた企画。女性二人の舞台だというその作品のオーディションは異例尽くしだった。声をかけられたものだけが参加できるそれに呼ばれたのは天才少女や、アイドル、実力派女優と個性的な面々だ。そして、彼女らに課された一つ目の課題。それは舞台上には二人の俳優、台本には三人の登場人物がいる劇を演じて見せることだった――。これは脚本家や女優達のそれぞれの目線から繰り広げられる、熱くて底の見えない群像劇だ。

 俳優一家に生まれた天才女優の響子。華奢で地味で芝居を始めたばかりだが、相手の動きを『そっくりそのまま』演じて見せることが出来る少女、飛鳥。普段の響子と飛鳥の立場が圧倒的に違うのもいい。何本も舞台をこなす若手随一のスターと、学生演劇の旗揚げ公演に食らいつく少女は対照的で、でも同じものを見ていて、あまりに鮮やかな対比である。そこに自分の魅力を自覚ししたたかに芸能界を生きるアイドル、あおいや、響子とも親しく最近頭角を現してきた葉月、ベテラン女優の徳子などが加わってオーディションはそれぞれの魅力をたたきつけるような戦いの場となる。登場人物がそれぞれに魅せられている『芝居』の面白さ、熱さ。それを圧倒的な存在として読むことが出来るのが本作の魅力だろう。芝居のシーンの描写は圧巻である。

武者震いのような、怒りのような。一瞬の閃光が頭の中を白く照らす。
ごくたまに、こんな瞬間が訪れることがある。
体の底の、普段は意識していない暗いところから、むくむくと激しい衝動が込み上げる瞬間。
何かが彼女を突き動かし、別の人間へと変わる瞬間
『チョコレートコスモス』 恩田陸 

随分と長い引用になってしまったが、すごいでしょう? 

推しを決めて読むのも楽しいだろう。私は徳子さんと響子が好きだったが、あなたはどうだろう? ドキドキしながらそれぞれの動きに目が離せない、そんな読書体験が味わえる、そんな作品である。

メモ:演劇系の話に求めるものが全部詰めになってる感じでお得感のある作品。続きがあるそうなので読んでみたい。恩田さんの作品ではこれ以外なら圧倒的に『ドミノ』がおすすめ。
 
『チョコレートコスモス』 恩田陸 KADOKAWA 平成16年 ISBN:978-4-04-371003-4

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