最高に歪で美しい親子のホラーサスペンスな小説を読んだ話(『母と死体を埋めに行く』読んだ!)
「毒親」。随分と一般的になってしまった言葉だ。テーマにした作品も多くある。これもその一つ……と言ってしまうのは容易いが、しかし、この作品は他のものと一線を画す狂気性と美しさを持っている。なんといってもタイトルが『母と死体を埋めに行く』だ。
美しい母の血を受け継いだ少女、リラは美しさに偏執する母、れい子の洗脳にも近い支配をうけながら育つ。母に対する反抗心、美しい母を自慢に思う気持ち、母への疑念、自分の美しさへの屈折した感情などを抱きながら過ごしていたリラ。ある日、彼女は母から見知らぬ男の死体を捨てに行くのを手伝うことを命じられる。その後も自分の望む進路もとれぬ中、「幸せになるために」母の命じるままに過ごしていく……。そして、とうとう母は彼女に殺人を命じる。
この作品は美しい作品だ。登場人物もそうであるが、全体的に、グロくて、エロくて、美しい。〈二分か三分のあいだ、男は床の上でのたうっていた。その姿は熱く焼けたトタン屋根の上に落ちた芋虫のようだった。〉このような人が傷つく描写だけがグロいのではない。人間が生きているだけで存在するエゴや愛憎。その書き方が気持ち悪いほどに生々しくて魅力的なのである。最初に引用した文章も美しさの描写であるけれども、その中に不穏さをにじませていて美しいだけでない。醜いものを醜く描いているのが、人間の醜さを書くようで、美しい。
この小説は、タイトル通りならサスペンスに分類するのがベストなのだろう。エロティックな描写が少々過激だから、あるいは官能小説だろうか。それとも、ラストがどうなるのか、捨てた死体が誰だったのかならミステリー? 少しやりすぎな恋愛小説……は無理があるか。とにかくいろいろな要素が含めてある小説である。しかし、これをあえてジャンル分けするのであれば、これは『ホラー』だ。美しいことはおぞましく、怖い。
メモ:そこそこ過激なエログロ描写が出てくるので慣れていない人、苦手な人は十分に注意してほしい。私はちょっとびっくりした。
『母と死体を埋めに行く』大石圭 KADOKAWA 令和三年 ISBN:978-4-04-111983-9