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六花亭で一番美味しい「1日しか賞味期限がないどら焼き」を知っているか。

今年も御容赦どらやきの販売が始まった。

私は使命に燃えている。
六花亭のお菓子の中で一番美味い「御容赦どらやき」の素晴らしさを世に伝えなければならないと、魂が叫んでいる。
冬に北海道を訪れるという旅行者も少なくないだろう。北の大地についたらこのどら焼きのことを思い出してほしい。

\ゴヨウシャ/

道産子でなくとも、六花亭をご存じの方は多いだろう。
北海道土産の定番である「マルセイバターサンド」や、フリーズドライしたイチゴをホワイトチョコで包んだ「ストロベリーチョコホワイト」などを作っている和洋菓子のメーカーだ。

北海道に住んでいる者は六花亭のお菓子に関して、みんな一家言もっているもので「やっぱり定番のマルセイバターサンドや、同じシリーズのマルセイキャラメルが美味しい」だの「シンプルでありながら極上のマドレーヌである大平原の美味しさを知らないなんて、哀れだ」だの「霜だたみは、六花亭の素晴らしい発明だったね」だの、話題を振ればいくらでも持論を語ってくれるだろう。

六花亭の美味さは、内地(本州)の人々にも知れ渡っているらしく、youtubeなんかで紹介されたりもしているようだ。

けれど、きっと皆さんの多くは知らないだろう。
北海道に住むものしか食べることが許されぬ絶品のどら焼きがあることを。
その名も「御容赦どらやき」

観よ、この輝く小豆を。

私はこの餡子を「宝石」と呼んでいる。

こんなに美しいどら焼きを見たことがあるだろうか。
このどら焼き、賞味期限が1日しかなく、したがって北海道に住むものしか口にすることはできない。

さて、この「御容赦」なる名前の由来は、落語家の十代目柳家小三治が関係しているらしいのだが、今回語りたいのはこのエピソードについてではない。

「御容赦どらやき」の素晴らしさについてだ。
さあもう一度見てもらおう、何度でも見てもらおう、この麗しき断面を。

保存して1日5回は見ろ

どら焼きを食べたり、あるいはこのように割ったりしたことがある人は多いだろうが、断面に感動した記憶がある人はほとんどいないだろう。
私も御容赦どらやきに出会うまではそうだった。
六花亭が通年で販売している普通のどら焼きはこうだ。

こっちも普通に美味しい

そして我らが御容赦どらやきはこう。

粒が見える。

こういった見た目の違いは、食感や味わいにもしっかり影響している。
この御容赦どらやき、歯ごたえがあるのだ。
食べた瞬間「あっ、小豆食ってる」という気分になる。決して小豆が固かったり、芯が残っているわけではない。
この皮が破れるか破れないかのギリギリの状態にたかれた小豆が、口の中で
ぷつんと歯につぶされる。

粒がしっかりしすぎてて箸で持てる。

餡子の甘さは控えめに抑えられていることもあり、小豆の風味がしっかりと感じられる。
「どら焼きを食べる」という体験を突き詰めていくとこうなるのか……と感じられる、体験型のどら焼きである。

私は普段あまり六花亭のお菓子を買うことはないのだが、秋口にこのどら焼きが店頭に並ぶと、花の蜜に誘われる虫のようにフラフラと引き寄せられてしまうのだ。

ここまで、大仰にどら焼きを褒めてきたわけだが、冷静に言い直せば「甘さ控えめで上品で美味いどら焼き」以上でも以下でもないのだ。
なのに私がここまで御容赦どらやきに惹かれているのは、このどら焼きに六花亭の美学や哲学みたいなものが込められているように感じられるからであろう。

最近六花亭は、こんなプロモーションをしている。

マルセイシリーズのマルセイバターケーキのコピー「すき間って 味なんです」だ。
私は食べたことがないのだが、バターの風味豊かなスポンジケーキの合間にクルミのフィリングを挟んだお菓子だろう。
このマルセイバターケーキをひとくち頬張れば、最初にすき間を通ってきたバターやクルミ、キャラメルの風味が口を駆け抜けていき、次いでスポンジの柔らかさがやってくる。最後にクルミのサクサクとした歯触りが口内を楽しませてくれるのだろうことは、容易に想像できる。
この風味と適度な歯触りを楽しめるのは、ちょうど良い大きさのすき間が存在しているからで、それゆえの「すき間って 味なんです」というコピーなのだ。

香りや質感にこだわり、単なる「甘いお菓子を食べる」以上の体験を演出することが、六花亭が目指す美味しさなんだろう、と私は思っている。

六花亭を食べなれている人なら同意してもらえるんじゃないかと思うが、六花亭のお菓子はみんな「六花亭らしい」味をしている。
別に似通った味ってわけじゃない。「ホットケーキミックスをつかったら全部ホットケーキミックスの味になる」みたいな話ではない。
どのお菓子もそれぞれ違う味なのに、食べる度に「ああ、六花亭だなぁ」と思うのだ。
北海道出身者に、伝われこの感覚。

御容赦どらやきに話を戻そう。

何度でも見てくれ。

そもそもどら焼きを食べるという体験は、いくつかの層に分かれている。
最初にやってくるのは、香りや風味。
次いで、柔らかな皮の食感。
皮が餡の蜜で湿って柔らかくなっている層を貫くと、粒あんがやってくる。
口の中で混然一体となり、最期には喉を通過していく。

御容赦どらやきは、このひとつひとつを洗練させ、我々に鮮烈などら焼き体験を与えてくる。
風味や食感、そして味わいをとことん追求する姿勢――たとえ賞味期限が1日になったとしても、目指すお菓子を作る。

これこそがまさに「六花亭らしさ」だなぁと思う。この手のひらにのるパックに六花亭らしさが詰め込まれているとしみじみ思う。

御容赦どらやきは、10月頭から3月ころまで発売されているらしい。
みんな、どら焼き食べるためだけに北海道こい。御容赦どらやきを食べるという特権を、北海道民にだけ独占させてはいけない。私はそう思う。

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