11月に観た映画のまとめ。
2023年11月。個人的には今年一番の豊作でありながら、年末商戦ゆえに文章を書く時間が取れず、しっかり一つ一つと向き合えなかった惜しい月でした。
……ただ、「この作品に触れなかったら“嘘”だろ」という思いが強いので、短めではありますが、まとめとして残しておきますね。
北極百貨店のコンシェルジュさん
薦められたままに席を予約し、原作はおろか予告編も観ずに鑑賞して、色んな意味でぶっ飛ばされた今年のダークホース枠。百貨店で働く新人コンシェルジュさんの成長物語でありながら、後半から明かされるある構図に「そういう話なの!?!?」と驚かされ、最後にはホロリと暖かい気持ちで送り出してくれる、全方位で隙のない傑作でした。
北極百貨店は何でも揃い、どんなオーダーにも柔軟に対応するコンシェルジュさんがいる。訪れた客(動物)の誰もが笑顔になる、素敵な空間。その背景に横たわる、人類が繁栄するまでに踏みにじってきた命だとか、お客様へのサービスを徹底しNOを言わない百貨店の「欲望」を満たす機能として先鋭化していく様子に、どこか薄ら寒さを感じてしまったのも事実で。
とはいえ、幼少期に百貨店の素晴らしさに目を焼かれ、そして自分がコンシェルジュになった主人公・秋乃ちゃんのひたむきさがお客様に与えた喜びや受け取った感謝は本物であり、人間から動物への「贖罪」の場として機能していた百貨店の、その素晴らしさを誰かに伝えたいという思いが両者の「共生」を促す、という物語に舌を巻いた。さらに、絶滅してしまった動物だけでなくコロナ以降苦しい立場に置かれている「百貨店」そのものへの鎮魂と継承が描かれている点についても、短い上映時間に反して奥深さを感じさせて大好きでした。
それと、個人的には「アニメーションの豊かさ」も本作の欠かせない魅力でして、後述するシャニアニと見比べても手書きとCGアニメで得意分野が違うのかな、と素人目にも思ったり。秋乃ちゃんがよくやる、「頭を下げなら後ろ向きに足早に去る」動きが最高なんです。ヒールが百貨店の床を突く音と相まって、とにかくコミカルで小気味良いアニメーション。この辺りもぜひ味わっていただきたいな。
SISU 不死身の男
今年観た暴力映画の中でも群を抜いて最高。主人公の台詞を極限まで省き、行動と意思と面構えだけで「SISUとは何か」を語る91分。我々は伝説を目撃し、それを語り継ぐために命を繋ぐのだ。
なんだろうな。この映画に関しては観ていただくしかないというか、「SISUって何?」「“コレ“だが……?」となる体験こそが真髄なので、あそこが良かったここが格好良かったとボクの口から語っても、何ら意味を為さないんですよね。
決して折れない意思の力、負けない闘志、敵を必ず射抜くという根気。言葉で表すのも限界があって、それもそのはず「SISU」とは生き様なので、それを体現する一人の男の叙事詩を観ることによってしか会得はできない。そういう意味では今年最も『怒りのデスロード』にDNAが近い作品だったと言っても過言ではないはず。とにかく観て。犬は死なんけど馬は死ぬ。
駒田蒸留所へようこそ
ウイスキー造りに心血を注ぐ若き社長の蒸留所再生物語。絵作りもリッチで、蒸留所の見学をしているような序盤のシーンが大変ワクワクさせてくれた。それ以外は……みたいな惜しさも。
ウイスキーとは難産なもので、蒸留自体に時間がかかるし、数えきれないほどのテイスティングを重ね、樽が違えば味も異なる繊細さを持ち、完成してから世に出るまで(お金になるまで)数年かかるという、普通にサラリーマンをしていたらこれに賭けようとは思えないほどの博打なんですね。その割に蒸留所は常に多くのスタッフを抱えなければいけないし、経営はとにかく大変。施設の老朽化による思いがけないアクシデントも重なり、駒田蒸留所は最大のピンチに見舞われる。
ただ、蒸留所への社会科見学という醍醐味の脇に「仕事とは何か?」というもう一つの縦軸があって、それが鈍重で観ていて辛かったなぁ。蒸留所を取材することになった若きウェブライターの青年がいるのだけれど、仕事に情熱を持てずロクな下調べをしないまま恥を重ね、関係各所に迷惑をかけまくる……というの、普通に観てらんないよ!!なんだろうな、伝えたいテーマのためにあえて愚鈍にセッティングされた登場人物という印象が強く、ようやく彼が身を乗り出して仕事するようになれば物語は「家族の再生」にフォーカスが寄っていくので、ある意味でゴジラ以上に“機能性”だけのキャラクターだったな、高橋クン。
アイドルマスター シャイニーカラーズ 第2章
TVアニメの先行上映という形で、純粋な映画として観るべきかは迷ったけれど、鑑賞記として一応。「シャニマスをアニメに翻訳するには」の勝算がようやく掴めたので、第1章よりもお気に入り。詳しくはコチラで。
首
北野武監督最新作。戦国時代、侍の矜持、戦争、建前、性愛。それら全てを苦笑しバカじゃねぇの!?と言って回るような、北野印の大作コメディ。
侍というものは誠に不可思議で、出世欲だとか天下統一という野望にしか目がなく、その裏では民草が命や家を失い続けている。そうした側面には目を向けず、策略と愛欲にまみれた生活をして、自害する時は体裁や儀式を整えて“綺麗に”死のうとする。されど、人は脆弱なので刀や槍であっという間に殺されてしまうし、第六天魔王と言えど死ぬ時は呆気なく、殺した者の首を戦利品として持ち帰らんとする彼らの、なんと野蛮で滑稽なことよ。
北野武は、それら全てを「百姓」という立場から俯瞰して、全部に馬鹿野郎!と言ってのける。さすれば、なんだかこの戦乱の世も、大掛かりなショートコントの連続のように見えてくる。会議はいつだって仰々しく、織田信長は狂人としてどんどん過剰になり、戦争は馬鹿と阿呆の知恵比べの様相を呈する。反戦映画という意味では『ゴジラ−1.0』よりも純化されたような気さえするほどに、誰かの欲のために民が死んでいくことの愚かしさだけが残り、兵士が頑張って見つけたであろう戦利品の「首」をどうでもいいんだよ!と蹴り飛ばすラストカットがとにかく最高だ。エンドロールに入る瞬間グランプリがあれば圧倒的優勝。
それはそれとして、史実の秀吉さんも性には奔放だったとは聞いているので、それを描かずして戦国BL絵巻をお出ししてくるの、なんか切り取りに作為があってここは好き嫌いかな。西島さんと遠藤さんのベッドシーンは最高。あともう一回あっても良かった。