保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)【音声と文章】
山田ゆり
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※note毎日連続投稿1616日をコミット中! 1605日目(4年余り)
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)
をお伝えいたします。
「あら~、マリさんお久しぶり~。」
銀行の2階にある融資コーナーでユミコにあった。
彼女は満面の笑みで私を見ていた。
覚えている。
彼女の笑顔は完璧なのを。
変わっていないな。
身長が150㎝ないマリからすると、バレーボールで鍛えられたユミコの体は大きくまっすぐ伸びた大木のように見えた。
「あ、ユミコさん、お久しぶりです。」
マリも彼女に負けないほどの笑顔を返した。
ユミコは最近事業を始め、その融資関係で訪れたと、聞きもしないのにペラペラと話し始めた。
地元の百貨店の中のテナントで彼女が働いているのは少し前から知っていた。
てっきりそこの従業員として働いていると思っていたが事業主だったのかと、マリは少し驚いた。
「それでマリさんはどんな用事で?」
やはりそうくるよね。
相手のことを聞きたいから自分のことを先に言う。
そういうものだよね。
マリは「住宅ローンのことでちょっと」としか言わなかった。
彼女の歯並びがよく、大きな口。
ずっと口角が上がっていて細い目が一段と細くなっている。
その笑顔で対面したら普通の人は「なんて素敵な人なんだ」と思うだろうね。
彼女は事業主で私は一従業員。勝ち誇ったような雰囲気を彼女から感じ、マリは居づらさを感じた。
少しして彼女が融資係から呼ばれ、マリはやっと解放された。
入り口に一番近い窓口の方に用件を申し上げたら担当の方が奥からやってきて、書類をお渡ししてマリは融資の出口の扉をあけた。
閉める時に向こうに座っているユミコを見た。
彼女も丁度こちらを見ていた。
マリは軽く会釈をしてドアを閉めた。
いつもは軽やかに階段を下りるのだがその時のマリは一段降りるごとに、高校生のあの頃のマリに戻っていった。
ユミコは絶対にあの事を忘れている。
忘れているのではなく、あの事を認識していなかったのかもしれない。
そうでなければ、今さら、あんな笑顔でマリに話しかけられるはずはない。
忘れられるほど「あの出来事」は彼女にとって些細な事だったのだ。
マリは地元の進学校に入学した。
創立100年以上のその女子高は、女学生の憧れの学校だった。マリはその学校に30番台で合格した。
同じ中学からはマリの他にもう一人入学しただけの難関校だった。
ひと学年が6クラスあり、勿論マリのクラスには知っている人がいなかった。
もともと人見知りが強いマリだ。
友達を作るのはうまくない。
中学の時も自分から話しかけることができずいつも独りぼっちだった。
高校では自分から話しかけるようにしようと思ったが、どうしても怖くてできない。
入学して3日過ぎ、自分と雰囲気が似ているケイコさんにだけは話ができるようになったくらいだ。
マリは曲がったことが大嫌いな性格だった。
前髪が眉毛にかからないショートヘア。
靴は市販されている靴でもよいとされていたが、マリは学校の校章が刻印された正規の学校指定の革靴を履いていた。
靴はいつもピカピカに磨いていた。
靴が汚れていると落ち着かなかったからいつも靴磨きは鞄の中に入っていた。
当時、専用のスティックのりを塗って履く靴下が流行していた。
しかし、靴下は三つ折りにする事という校則があり、マリはそれをきちんと守っていた。
彼女は校則通りの身なりをしていた。
恐らく、それが人によっては鼻についていたのかもしれない。
マリは自分からは話しかけられない弱虫だったが、いつもニコニコしていた。
いつ誰から話しかけられてもいいように、いつも笑顔を絶やさなかった。
あの日、クラス委員長を決めることになった。
マリは自分には関係のない事と思ってその時間が過ぎるのを静かに待つつもりだった。
誰もクラス委員長をするという人は現れなかった。
そりゃそうだ。
進学校のこの学校で雑用係のクラス委員長を進んでする人はいない。
すると、ユミコが突然手を挙げた。
「先生、マリさんがいいと思います!」
え!
どうして私?
ユミコは地元の有名中学卒の人。
このクラスの3分の1はその中学校卒の人で、ひとつのグループができていた。
ユミコはその中のリーダー的立場だった。
マリはすぐに立ち上がり
「無理です。私は無理です!」
それしか言えなかった。
とっさに気の利いたことが言えない自分が悔しかった。
しかし、多数決でマリが選ばれてしまった。
どういう基準でクラス委員長を決めたのか?
自分たちがやりたくないから他人に押し付けただけじゃない。
マリはそれから半年間クラス委員長という名目で様々なことをした。
しかし、マリが議長になり、何かを決めようとしても、もともと人様の上に立つことをしたことがなく、どのように話を進めたら良いのか分かっていなかったから、話し合いは全くうまく進行しなかった。
そんな時、クラス委員長に推薦したユミコが助け舟を出してくれたらなと思うが、彼女は薄ら笑いをしながら、マリを眺めているばかりだった。
やっと話し合いが決まり、マリが「では、皆さんで〇〇しましょう」と言っても彼女たちのグループの取り巻き達は知らんぷりするばかりだった。
マリはそのクラスにいることがだんだん辛くなった。
毎月、じっとしていられないような腹痛が起きるようになり、保健室で休むことが多くなった。
保健室にいる時間が多いクラス委員長だった。
やがて半年後、クラス委員長の改選の時期になった。
次のクラス委員長はユミコの取り巻きの一人に決まった。
後期のクラス委員長はユミコ達の多大なバックアップもあったお陰で、学園祭のクラス対抗の合唱も大盛り上がりで一致団結した雰囲気のクラスに様変わりした。
独りぼっちのクラス委員長だったマリはこの変わりように傷ついた。
いじめはされた側には大きな傷跡として残るが、いじめをした方は、それをいじめとは認識していない人が多い。
***
ユミコに会ってから数か月後、ユミコのお店は退店した。
その後どうなったのかは知る由もない。
***
「うん、いいわね。これでOK!」
マリは自分のビジネスを立ち上げて10年目を迎えていた。
ユミコと出逢ったあの日は、副業として小さく始めたビジネスがうまく回り始め、住宅ローンの繰り上げ返済の相談をしに行った日だった。
ビジネスを立ち上げる時は最小限の元手で立ち上げたから、ユミコのように銀行から借り入れすることは無かった。
マリは身軽な状態でビジネスを小さく回していった。
そしてある時点で突然収益が増えだした。
一度軌道に乗ってしまったらあとは入ってきたお金を新しい知識を得るための投資に回し、新しいアイディアを事業に取り入れ、事業は更に大きくなっていった。
お陰で、残り20年返済の住宅ローンを完済することができた。
どんな逆境にもくじけない。
そんな強い精神を持つことができたのは
優しくしてくださった周りの方々のお陰だが、
その他にもユミコのような、傷口に塩を塗るような方々との出会いで、鍛えられたからだとマリは考えている。
どんなことがあっても、その体験から気づきを得ようと意識すればできるものだ。
悔しくて
むなしくて
自分に自信がない。
自分なんて生きている価値、あるの?
死にたい。
でも、死んだら両親が悲しむ。
両親を悲しませたくない。
だから死ねない。
でも、苦しくて、死にたい。
そんな堂々巡りの毎日を過ごし、保健室にいる時間が多いクラス委員長だったマリに、こんな未来がやって来るとは、あの頃は思ってもみなかった。
今が辛く苦しくても、きっと答えが見つかる。
その答えは外ではなく自分の内にある。
真剣に求めればきっと見つかる。
今回は
保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。
私は愛されています
大きな愛で包まれています
失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)
をお伝えいたします。
「あら~、マリさんお久しぶり~。」
銀行の2階にある融資コーナーでユミコにあった。
彼女は満面の笑みで私を見ていた。
覚えている。
彼女の笑顔は完璧なのを。
変わっていないな。
身長が150㎝ないマリからすると、バレーボールで鍛えられたユミコの体は大きくまっすぐ伸びた大木のように見えた。
「あ、ユミコさん、お久しぶりです。」
マリも彼女に負けないほどの笑顔を返した。
ユミコは最近事業を始め、その融資関係で訪れたと、聞きもしないのにペラペラと話し始めた。
地元の百貨店の中のテナントで彼女が働いているのは少し前から知っていた。
てっきりそこの従業員として働いていると思っていたが事業主だったのかと、マリは少し驚いた。
「それでマリさんはどんな用事で?」
やはりそうくるよね。
相手のことを聞きたいから自分のことを先に言う。
そういうものだよね。
マリは「住宅ローンのことでちょっと」としか言わなかった。
彼女の歯並びがよく、大きな口。
ずっと口角が上がっていて細い目が一段と細くなっている。
その笑顔で対面したら普通の人は「なんて素敵な人なんだ」と思うだろうね。
彼女は事業主で私は一従業員。勝ち誇ったような雰囲気を彼女から感じ、マリは居づらさを感じた。
少しして彼女が融資係から呼ばれ、マリはやっと解放された。
入り口に一番近い窓口の方に用件を申し上げたら担当の方が奥からやってきて、書類をお渡ししてマリは融資の出口の扉をあけた。
閉める時に向こうに座っているユミコを見た。
彼女も丁度こちらを見ていた。
マリは軽く会釈をしてドアを閉めた。
いつもは軽やかに階段を下りるのだがその時のマリは一段降りるごとに、高校生のあの頃のマリに戻っていった。
ユミコは絶対にあの事を忘れている。
忘れているのではなく、あの事を認識していなかったのかもしれない。
そうでなければ、今さら、あんな笑顔でマリに話しかけられるはずはない。
忘れられるほど「あの出来事」は彼女にとって些細な事だったのだ。
マリは地元の進学校に入学した。
創立100年以上のその女子高は、女学生の憧れの学校だった。マリはその学校に30番台で合格した。
同じ中学からはマリの他にもう一人入学しただけの難関校だった。
ひと学年が6クラスあり、勿論マリのクラスには知っている人がいなかった。
もともと人見知りが強いマリだ。
友達を作るのはうまくない。
中学の時も自分から話しかけることができずいつも独りぼっちだった。
高校では自分から話しかけるようにしようと思ったが、どうしても怖くてできない。
入学して3日過ぎ、自分と雰囲気が似ているケイコさんにだけは話ができるようになったくらいだ。
マリは曲がったことが大嫌いな性格だった。
前髪が眉毛にかからないショートヘア。
靴は市販されている靴でもよいとされていたが、マリは学校の校章が刻印された正規の学校指定の革靴を履いていた。
靴はいつもピカピカに磨いていた。
靴が汚れていると落ち着かなかったからいつも靴磨きは鞄の中に入っていた。
当時、専用のスティックのりを塗って履く靴下が流行していた。
しかし、靴下は三つ折りにする事という校則があり、マリはそれをきちんと守っていた。
彼女は校則通りの身なりをしていた。
恐らく、それが人によっては鼻についていたのかもしれない。
マリは自分からは話しかけられない弱虫だったが、いつもニコニコしていた。
いつ誰から話しかけられてもいいように、いつも笑顔を絶やさなかった。
あの日、クラス委員長を決めることになった。
マリは自分には関係のない事と思ってその時間が過ぎるのを静かに待つつもりだった。
誰もクラス委員長をするという人は現れなかった。
そりゃそうだ。
進学校のこの学校で雑用係のクラス委員長を進んでする人はいない。
すると、ユミコが突然手を挙げた。
「先生、マリさんがいいと思います!」
え!
どうして私?
ユミコは地元の有名中学卒の人。
このクラスの3分の1はその中学校卒の人で、ひとつのグループができていた。
ユミコはその中のリーダー的立場だった。
マリはすぐに立ち上がり
「無理です。私は無理です!」
それしか言えなかった。
とっさに気の利いたことが言えない自分が悔しかった。
しかし、多数決でマリが選ばれてしまった。
どういう基準でクラス委員長を決めたのか?
自分たちがやりたくないから他人に押し付けただけじゃない。
マリはそれから半年間クラス委員長という名目で様々なことをした。
しかし、マリが議長になり、何かを決めようとしても、もともと人様の上に立つことをしたことがなく、どのように話を進めたら良いのか分かっていなかったから、話し合いは全くうまく進行しなかった。
そんな時、クラス委員長に推薦したユミコが助け舟を出してくれたらなと思うが、彼女は薄ら笑いをしながら、マリを眺めているばかりだった。
やっと話し合いが決まり、マリが「では、皆さんで〇〇しましょう」と言っても彼女たちのグループの取り巻き達は知らんぷりするばかりだった。
マリはそのクラスにいることがだんだん辛くなった。
毎月、じっとしていられないような腹痛が起きるようになり、保健室で休むことが多くなった。
保健室にいる時間が多いクラス委員長だった。
やがて半年後、クラス委員長の改選の時期になった。
次のクラス委員長はユミコの取り巻きの一人に決まった。
後期のクラス委員長はユミコ達の多大なバックアップもあったお陰で、学園祭のクラス対抗の合唱も大盛り上がりで一致団結した雰囲気のクラスに様変わりした。
独りぼっちのクラス委員長だったマリはこの変わりように傷ついた。
いじめはされた側には大きな傷跡として残るが、いじめをした方は、それをいじめとは認識していない人が多い。
***
ユミコに会ってから数か月後、ユミコのお店は退店した。
その後どうなったのかは知る由もない。
***
「うん、いいわね。これでOK!」
マリは自分のビジネスを立ち上げて10年目を迎えていた。
ユミコと出逢ったあの日は、副業として小さく始めたビジネスがうまく回り始め、住宅ローンの繰り上げ返済の相談をしに行った日だった。
ビジネスを立ち上げる時は最小限の元手で立ち上げたから、ユミコのように銀行から借り入れすることは無かった。
マリは身軽な状態でビジネスを小さく回していった。
そしてある時点で突然収益が増えだした。
一度軌道に乗ってしまったらあとは入ってきたお金を新しい知識を得るための投資に回し、新しいアイディアを事業に取り入れ、事業は更に大きくなっていった。
お陰で、残り20年返済の住宅ローンを完済することができた。
どんな逆境にもくじけない。
そんな強い精神を持つことができたのは
優しくしてくださった周りの方々のお陰だが、
その他にもユミコのような、傷口に塩を塗るような方々との出会いで、鍛えられたからだとマリは考えている。
どんなことがあっても、その体験から気づきを得ようと意識すればできるものだ。
悔しくて
むなしくて
自分に自信がない。
自分なんて生きている価値、あるの?
死にたい。
でも、死んだら両親が悲しむ。
両親を悲しませたくない。
だから死ねない。
でも、苦しくて、死にたい。
そんな堂々巡りの毎日を過ごし、保健室にいる時間が多いクラス委員長だったマリに、こんな未来がやって来るとは、あの頃は思ってもみなかった。
今が辛く苦しくても、きっと答えが見つかる。
その答えは外ではなく自分の内にある。
真剣に求めればきっと見つかる。
今回は
保健室にいる時間が多いクラス委員長(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
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