山田ゆり
最近の記事
- 固定された記事
最後の家族ドライブ【音声と文章】
出棺の時間を伝えるクラクションと共に 夫の棺が我が家を出発した。 霊柩車の助手席に私 その後ろに二女が乗る。 霊柩車の後ろに続くカタチで 長女が運転する車がついてくる。 助手席には三女が座っている。 霊柩車は信号機で後ろの車とはぐれないように ゆっくり進んでいく。 出発して最初の数分間 おしゃべりしていた二女が 「お母さん、曲、聴いていい?」 と聞いてきた。 そうだよね。 娘のお気に入りの いつものNEWSの曲を聴きながら行きたいよね。 私も聴きたかった。 ところが、娘のアイフォンから流れてきたのは ビートルズの She loves you 夫がレコードでいつも聞いていた曲が流れる。 嬉しい。 ビートルズの曲が何曲か続き、 その次がABBAのダンシングクイーンから始まり いくつかの曲が流れた。 夫がご機嫌な時にいつも好んで聴いていた曲が続く。 二女はこの時のために 夫の好きな曲をアイフォンに入れておいたようだ。 ありがとう。 夫の嬉しそうな顔が思い浮かぶ。 出会いから今日まで26年間の 夫との思い出がよみがえる。 胸がいっぱいになる。 信号機の色が涙でかすむ。 火葬場までの数十分間。 私、三人の娘たち そして夫の家族5人。 大好きな曲を聴きながら 最後のドライブを楽しんだ。
okuti(ショートショート)【音声と文章】
真っ白な世界からふわっと現実に戻ってきた。 目を閉じていても外は既に明るいのを頬で感じられた。 「ん?今、何時だろう?」 携帯電話を見る。 「ヤベッ!もうこんな時間! 僕は「kigae」を使って数秒で着替えを済ませた。 ※「kigae」についてはこちらのnoteをご覧ください^^ https://note.com/tukuda/n/n7b4d7896c978 朝ごはんは食べている時間が無い。 とにかく会社に行かなくっちゃ。 僕は黒いビジネスバックを抱えて駅に向かった。 丁度到着した電車に飛び乗った。 電車に乗ってほっとしながら窓に映る自分の姿を見た。 右側の後ろの髪が少し跳ねていた。 ネクタイが少し右に曲がっている。 髪もネクタイも右に曲がっていてダンスでもしているみたいだ。 僕は窓を鏡にしてネクタイの位置を調整した。 会社に着いた。 「おはようございます。」 受付のリョウコさんたちに僕はいつもの笑顔で挨拶をした。 会社の顔である彼女たちは誰にでも素敵な笑顔を見せてくれる。 エレベーターホールへ向かう僕にリョウコさんが小走りで走ってきた。 そして僕の顔に近づいてきた。 えっ! 何? 公衆の面前で突然キス? 僕は慌てた。 心拍数が最高値に達し脳内で蒸気機関車の大きな合図が聞こえたようだった。 しかし、 「お口、お忘れではないですか?」 リョウコさんが手を添えて僕の耳元で囁いた。 僕は口に手を当てた。 最高値だった心拍数が今度は逆の最低値になり 体中が寒くなった。 そうか! 慌ててきた僕は「口」を忘れてきたのに気が付いた。 僕はリョウスケ。 こんなものがあったらいいなとか、 こんなことができればいいなという 商品・サービスを開発する会社に勤めている。 いろんな試作品を試しているその中の一つが 「okuti」だ。 君の歯は綺麗かい? 虫歯は無いか? 結構丁寧に歯磨きしたつもりでも 磨き残しがあって虫歯になっていないかい? いっそのこと、全部の歯を口から出して それを歯ブラシで磨いた方がいいと思わないかい? そこで考えたのが「okuti」。 これは入れ歯とは違うんだ。 詳細は企業秘密だから言えないが 簡単に言うと、口の中をまるまる外に出して それを専用の洗浄機に一晩入れておくと 翌朝、真っ白な綺麗な歯になっているんだ。 オプションとして、歯列矯正も日中ではなく 寝ている時間にできるんだ。 これは入れ歯とは違い、 契約期間が終わったら自分の歯は以前のように取り出しは出来なくなるんだ。 だから見た目は何も変わらない。 入れ歯は、外すと顔のイメージが変わるが この「okuti」は、外している時でも顔の輪郭は変わらない。 だから、電車の窓に映った自分に違和感を感じなかったのだ。 でも、挨拶をして笑顔を向けたリョウコさん達には 歯の無い僕の顔が見えたのだ。 僕はその日、極力、口を閉じた笑顔をしていた。 自然に笑えない自分を笑った。 毎日note連続投稿2030日目! #ad #66日ライラン
「higengo」(ショートショート)【音声と文章】
パートのケイコさんが出社してきた。 彼女が近づいてきた。 僕は挨拶をしようと彼女の様子を伺った。 彼女のねじり上げてまとめた髪の数本が垂れてきていて それは計算されたものなんだと僕はいつも感じている。 ケイコさんは小さな声で皆さんに挨拶しながら歩き、僕の斜め前のPC前に座った。 今日は伏し目がちでやってきた。 ケイコさんは僕に挨拶をした時に目に力がなかった。 お子さんの体調でも悪いのか。上の子かな、それともまだ2歳の子かな。 もしかしてご主人と何かあったのか。 彼女のおくれ毛が今日の彼女を表現していた。 今朝のケイコさんのように、何もいわなくても、いつもより小走りに歩いている様や 伏し目がちな目線、おくれ毛の状態、PCが起動するまでの彼女の行動が 彼女の内面が見え隠れする。 僕はリョウスケ。 こんなものがあったらいいなとか、こんなことができればいいなという商品・サービスを開発する会社に勤めている。 今開発中の一つが「higengo」。 人と話している時は相手の「言葉・言語」から相手の気持ちを察することができる。 人に接する時に使う「言語」。 人はその言葉から感じられる相手の感情を受け取っている。 相手の感情を知る手段としてその他に「非言語」がある。 昔は相手と実際にあって話をするのが当たり前だった。 しかし、世界的な疫病が発生してから人と会わないことが推奨されるようになってきた。 そして、これまでとは違う習慣がいくつも出てきた。 その中の一つが、PCの画面を通して会話をすること。 多くの時間とお金をかけずに、ここにいた状態で世界中の方とお話ができる。 その技術は一部の人たちが以前から使用してはいたが、誰もが使えるようになったのはここ数年のこと。 相手と直接会ってはいないが、こちらの思いを十二分に感じて欲しい。 相手が感じていることを瞬時に受け取り、こちらがどのような態度をしたら良いのかの参考が欲しい、と、リョウスケの勤務先に商品開発の依頼がきた。 つまり、相手の声のトーンや目配り、間の取り方などから相手の心の中を知るアプリを手掛けている。 アプリに頼るほど、人は非言語の力が弱まってきているのかもしれない。 PC一つで世界中の人と繋がれる便利な世の中ではあるが 本来の人としての感情は失いたくないものだと僕は思う。 毎日note連続投稿2029日目! #ad #66日ライラン
「kigae」(ショートショート)【音声と文章】
僕はリョウスケ。 1時間おきにしか電車がこない、山がすぐ近くに見える田舎から この大都会の会社へ入社して1年が経とうとしている。 僕は色々な商品やサービスを開発する会社に勤務している。 代表的なものは「シフトドア」。 好きなところへ瞬間移動できるドアだ。 君は知ってるかい? 今、目の前にある時計も本も、「物理」と思うだろうが全て「情報」なんだ。 時計も本もあらゆるものは素粒子という「情報」の集合体なんだ。 「情報」は姿かたちが無い。 形がないということは、どこにでも行けるのではないかと考えられ 「シフトドア」が開発された。 ただ、どこにでも瞬時に行けるが、行先には一定のルールを設けられた。 行先は必ず屋外であること。 つまり、突然、お風呂場に来客が来たら君は困るだろう? だから、屋外に移動できるようにしている。 僕の勤務先の大ヒット商品だ。 朝、うとうとしながら目覚めた。 今日は何を着ようかな。 着替えが面倒だ。 誰か代わりに僕に着替えをさせてくれないかな。 そんなことをいそいそしてくれる彼女はいない。 保育園の頃は、母さんに甘えていつも前のボタンをかけてもらっていた。 そうして僕は母さんからの愛情を毎日感じていた。 大人になって自立するようになり、時々、あの頃を懐かしむ。 茜色に染まった夕陽を見ながら、保育園のカバンを斜め掛けした僕は、母さんと手を繋いでいた。 当時流行っていたTVの主題歌を一緒に歌いながら家に向かった。 途中、町内のおばちゃん達に会う。 僕は大きく挨拶をし、おばちゃんはしゃがんで僕の顔を見て 皺だらけの顔をもっとくしゃくしゃにして 「大きくなったねぇ~」と言いながら、僕の黄色い帽子の上から頭をポンポンしてくれた。 昨日もおとといもそう言われていたけれどそれは気にならなかった。 僕は嬉しくて恥ずかしくって、母さんの顔を見上げる。 ぽかぽか温かいおひさまのような母さんは、細い目をいちだんと細めて僕を見ていた。 さて、 今日は何を着ようかな。 昨日とは雰囲気が違う感じにしよう。 今日のネクタイは明るい色にしよう。 僕はベッドに潜りながら自分のスタイルを妄想していた。 うん、これで決まりだ。 「キガエ、オッケー!」 僕はベッドから起き上がり、両手を横に広げて立った。 途端に僕の着替えが終わった。 今はこの「kigae」を開発中で、僕ら数人の研究員のテスト期間である。 時に、ズボンの上にパンツを履いていたりと誤作動が起きることがあるから微調整中だ。 どうやら今日は間違いないようだ。 でも、「kigae」じゃなくて、母さんみたいな人、いないかなぁ。 毎日note連続投稿2028日目! #ad #66日ライラン
マガジン
記事
冬の感覚【音声と文章】
昨夜から今朝にかけて本格的に雪が降った。 今朝は早く起きて雪かきをすると決めて起きた。 冬の4時台はまだ真っ暗だ。 ご近所で電灯が点いているお宅はまだなかった。 庭に駐車している車の雪はらいをした。 車にはこんもりと雪が車を包んでいた。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241119_044938-scaled.jpg https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241119_045557-scaled.jpg 車の上からフロントガラスにドバドバと雪を下ろす。 エンジンをかけ、暖房を最高にしているからフロントガラスに落ちてきた雪たちは その白い服を脱ぎ捨て、溶けて水蒸気になって元の姿に返って行った。 車の雪払いは最初、吹雪の中で始まったが 気が付くと雪は止んでいた。 一時間以上かけて二台の車の雪はらいを終えた。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241119_044730-scaled.jpg https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241119_044631-scaled.jpg 玄関に向かう途中に側溝がある。 その側溝のふたのところだけ雪がない。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241119_053606-scaled.jpg つまり、雪よりも普段は冷たいと感じる側溝の水の方が暖かいということだ。 家に戻ってきた。 室内温度は18.5度。 ほんわか暖かい。 しばれて赤くなった頬を両手で優しく包まれているような安堵感があった。 雪払いが終わって一時間後にダイニングのスクロールカーテンを巻き上げた。 吹雪の中、雪をかぶった車が二台見えた。 そうだった! 雪はいつ吹雪くかは分からない。 だから早く起きて雪はらいをしても安心できないのだった。 また、やり直しだ^^ 冬の感覚を思い出した^^ 毎日note連続投稿2027日目! #ad #66日ライラン
課題の分離【音声と文章】
人さまに商品・サービスを紹介すること(平たく言うと、売るという行為)はとても勇気がいる。 普段、会話に積極的に入って行くタイプではないからなおさらだ。 言葉に注意して何度も文章を手直しする。 上から目線になっていないか。 必要以上にへりくだっていないか。 説明が長すぎないか。 何度も何度も書き直し、あっという間に時間は過ぎていく。 頭の中の工業地帯の煙突が、黒煙を出しフル回転しているようだ。 やっとできた。 まずは自分に宛てて送ってみた。 誤字脱字はないか。 変なところで改行していないか。 それらを確認してから、一人一人に文章を送った。 送信ボタンを押したから、私の課題は終了した。 私が送った文章に対しての評価は受け取った方が付ける事であり、その方の課題である。良し悪しはその方が決めること。 私の課題ではない。 あらゆる課題をひとりで抱え込まないように。 毎日note連続投稿2026日目! 音声、文章、どちらでも楽しめます。 #ad #66日ライラン
絶対的視点はない【音声と文章】
朝、目覚めたらぐっしょりと汗をかいていた。 どうしよう。着替えのシャツは用意していない。 このままシャツの上に、枕もとに置いた服を着ようか。 部屋の温度は16.9度。 上半身を起こす。途端にブルブル震え出す。 こんな寒い状態で汗で濡れたシャツを脱ぐのは無理かもしれない。 私は枕もとの服に手をやった。 しかし、一瞬考えた。 シャツをこのまま着続けると、いくら上に服を着ても 土台が冷たいから温かさを感じないかもしれない。 私は手に持った服を離し、思いっきりシャツをまくり上げた。 途端に冷気が毛穴のひとつひとつに入ってきた。 ブルブル小刻みに震えながら首でつかえているシャツを思いっきり脱いだ。 そして、シャツを着ない状態で服を着た。 シャツが最初に肌に触れるのが日常だから、シャツを着ないでいきなり服を着るのは私にとって「現状の外」のことだ。 シャツとは違い少しこわばった感覚が一瞬あったが、 しかし、シャツを脱いだことによってジトっとした感覚はなくなり 肌と服との間に空間ができて、その空間が暖かさを生んでいるようだった。 シャツを着ていなくても寒さを感じない。 このように、「これが自分にとって一番最適だ」と信じている現状がある。 「これが私らしい私だ」と思っていることでも、その現状とは違うことをしてみると 想像していたほどの不便さや不愉快を感じないことに気付く。 これは、絶対的視点がないということであり この世は空(くう)で自我がないということ。 私は何者なのか? 親から見たら二女 子ども達から見たらお母さん 姉から見たら妹 夫から見たら可愛い妻 PTA仲間から見たら〇〇ちゃんのお母さん 会社の社長から見たら従業員 お店の店員さんから見たらお客様 相手が誰かによって「私」という意味が変化する。 さて、この中で「一番あなたらしいのはどれ?」と聞かれたらなんと答えるか。 ( ^ω^)・・・ どうだろか? 多分、「一番自分らしい」のは答えられないと思う。 つまり、その時の相手によって自分の見え方が変化するからだ。 自分が何者か、それがその時の相手によって変わるということは つまり 自分が何者なのかを定義できない。 逆に言うと脳内では何者にもなれるということである。 この世は空であり、自我は無い。 自分は何者でもないから 強い思いがあれば何者にもなれるのだ。 毎日note連続投稿2023日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン
キャベツと豚肉の豆乳スープ【音声と文章】
休日の長女が作ってくれたキャベツと豚肉の豆乳スープ。 野菜なのに麺類のような歯ごたえの千切りキャベツが面白い。 バラ肉も軟らかくてほっとする。 豆乳は過熱したことで甘みが増したような気がする。 「そのままでも十分美味しいけれど、ラー油を入れたらもっと旨いよ。」 長女のアドバイスでラー油を数滴垂らしてみる。 真っ白なスープに朱色のつぶつぶが点在し、面白い絵になった。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241113_180938-scaled.jpg ほうれん草入りのパスタも作ってくれた。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241113_180945-scaled.jpg ありがとう。 いただきます。 今朝も豆乳スープをいただいた。 温かさがお腹の底に届き、お腹の中を撫でている感じがした。 今日のお弁当の汁ものは勿論、豆乳スープ。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241114_060550-scaled.jpg ありがとうをいただきます。 毎日note連続投稿2022日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン
手編みのセーター【音声と文章】
週に4~5回ズームがあるようになった。 毎回、似たような格好になっていて 最近はジャケットを着ることが多くなった。 たまには手編みのセーターにしようかな。 クローゼットの冬の棚の中から黒のセーターを取り出した。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241113_065726-scaled.jpg 大きななわ編みは私のお気に入り。 早速着てみる。 太めの糸で編んでいるから普通のセーターよりもしっとり重いが暖かい。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241113_065848-scaled.jpg 襟元が開いているデザインが気に入っている。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241113_065822-scaled.jpg 大きな手で抱きしめられているような安堵感がある。 そのままPCを開き少し作業をした。 11月中旬なのに今日も暖房は付けていない。 循環型の新居は暖かい。 少しして熱くなってきた。 まだセーターは早いかな? 私はセーターを脱ぎ丁寧にたたんでクローゼットに戻した。 若い頃、「いつか大好きな人のためにセーターを編みたい」 と思い、手編みにはまっていた時期があった。 何センチで何目、何段だから、ここの減らし目はこんな感じで、 と、自己流でどんどん編んでいった。 一年に1~2枚、編んでいた。 あの頃はお付き合いをしている人はいないのに、 まだ見ぬ人を夢見てせっせと編み物をしていた。 休日は朝から晩まで編んでいたよね。 当時は電車通勤だったから、電車のなかでも棒針でくいくい編んでいた。 とにかく早く完成させたくてところ構わず編んでいた感じだった。 それは「~したい」という、心の底からぐわ~っと湧き上がる熱い感情だ。 寝ずに朝までやってしまう強い思いだ。 結婚・出産・育児・介護。 いつの時代も私は会社に勤めながらそれを続けてきた。 そちらの方が生きるための優先度が高いから、編み物のような 時間がかかるが本当にやりたいことは諦めてしまった。 でも、そろそろ、何か趣味を持ちたい。 何をしようか^^ 毎日note連続投稿2021日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン
田舎の情報リテラシー(ショートショート)【音声と文章】
念願の会社へ就職できた。 僕は都会で働いていたが、父が入院しふるさとへ戻ってきた。 一日数本しか電車が来ないこの田舎はなかなか就職先がなかった。 年収は今までの半分以下になる。 それでも仕方ないと割り切って就職した。 給料の少なさに絶望しか感じなかったが、それ以上に会社のトップの人格には 残念というしかない。 地元の会社のトップはほとんど踏襲制だ。 生まれた時から社長を約束されているから、僕から見たら甘ちゃんしかいない。 **ひと月前 ある日、その会社の前を通ったら求人の看板があった。 かなり手の込んだものでQRコードが掲載されていた。 この田舎で求人広告にQRコードを載せる企業は珍しい。 それだけこの企業は進んでいるのかもしれない。 その会社は半世紀以上続く老舗だ。 いいかもしれない。 僕は営業員募集に応募した。 数日後に面接があり、その日のうちに採用の連絡が来た。 そして入社初日。 本社で辞令をいただき皆さんから拍手をいただいた。 そして記念撮影になった。 次に僕だけ撮影をすると言われた。 にこやかな社長が近づいてきて 「〇〇君、じゃぁ、満面の笑みでお願いします。 最近始めた会社のSNSにこの写真を載せるから!」 自慢げに社長がおっしゃった。 「あの、顔をぼかすとか何かされるんですよね?」 僕は一応、お聞きした。 「いや~、そんなことはしないよ~。 じゃぁ、ニッコリお願いします」 えっ!そ、そんな。 社長は、従業員が会社のSNSに顔を出して当たり前と思っている。 情報リテラシーは? 僕は引きつった顔で写真におさまった。 数日後、僕はその会社を退職した。 入社式の当日に感じた違和感はその後もいろいろな面で僕に「ここでいいのか」と問いかけてきた。 その会社が悪いのではなく、僕の感性が許容範囲を超えていた。 退職して数日後にその会社の前を通った。 店の前にはあの看板がまだあった。 しかし、看板は少し変更されていた。 「アドレスが乗っ取られました。 だからこちらのコードをご覧ください。」 乗っ取られたって・・・。 しかもそれを看板に書くなんて。 フッ。 僕の判断は間違っていなかったと思う。 木枯らしに吹かれこげ茶色の葉が渦を巻いて飛んできた。 今回のことは落ち葉が舞い散るくらいの、どこにでもあることだ。 僕はコートの襟を立てて足早にそこから離れた。 毎日note連続投稿2020日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン
夕焼けが見たくて【音声と文章】
夕焼けが見たくてまたここに来た。 稲が刈り取られてあとは雪の布団を待つだけの田んぼ。 西の空は朱色のかつらをかぶった夕陽がムラムラと沈む。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241111_160533-scaled.jpg 退社時刻をカウントダウンしているようで 沈む夕陽の強い意志を感じる。 そんなに急いでどちらへ? 対して東の空はのんびりしている。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241111_161023-scaled.jpg 同じ繋がっている空なのに東側はまだ昼を終わらせたくないよう。 天上には月が自分の出番を静かに待っていた。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241111_161415-scaled.jpg 冷えた体で帰宅する。 今日の夕飯は ちくわとベーコンのパスタ https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241111_174621-scaled.jpg キノコスープ 切り干し大根のマヨ和え を添えて。 https://yamayuri58.com/tyoubo/wp-content/uploads/2024/11/20241111_180136-scaled.jpg 毎日note連続投稿2019日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン
誰かがいる家【音声と文章】
シャーッ、シャーッ。 階下の洗面所の水の音で目が覚めた。 朝か。 壁時計を見る。 もうこんな時間。 今日は早朝の予定が入っていない休日。 からだが欲している分の睡眠時間を試してみたかったから 昨夜は目覚ましを意識的に掛けずに寝てみた。 少ししてクシュクシュと歯磨きをする音が聞こえてきた。 耳を澄ましてみるが特に特徴的な音は感じることができず この段階では誰か分からない。 二階の一番奥の私の部屋のドアはいつも解放しているから 階下の音は階段を伝わって筒抜けに聞こえてくる。 窓の外は既に今日の顔になりつつあった。 そろそろ起きよう。 私は身体を左にねじり、左手をつっぱって上半身を起こし 枕もとに置いてある服を着だした。 音は階段を一段一段、踏みしめながら上ってきた。 足音が少しずつ近づいて来てぴたりと止まった。 階段を上り切ったのだ。 さて、右に曲がるか左に曲がるか。 私は服のボタンを留めながら全神経を耳に集中していた。 するとタンクトップ姿の長女が私の部屋の入口に見えた。 ベッドに入って上半身だけ着替えている私と目が合った。 そうか、長女は今日、早番か。 ウサギの耳のヘアバンドでオールバック状態の メイク前だから眉毛が薄い長女が微笑む。 家族だから見ることができる、 これから戦場に向かう前の我が子の素顔が愛おしい。 私もにっこり微笑む。 「おはよう! 母さん、休日でも早く起きるのに今朝はどうしたのかなって心配になったの。 元気そうだね、じゃぁね。」 ( ^ω^)・・・ ありがとう。 誰かがいる家。 初雪も過ぎ暖房が必須の季節になったが 我が家はいつでも温かい。 ありがとう。 毎日note連続投稿2017日目! ※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む。 どちらでも数分で楽しめます。#ad #66日ライラン