ドアの向こう側(ショートショート)【音声と文章】
山田ゆり
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※note毎日連続投稿1515日をコミット中!
1504日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
ドアの向こう側(ショートショート)
をお伝えいたします。
(妄想の世界)
昼時に田舎の、ある銀行のドアを開けた。
自動ドアがほとんどの世の中でそこは手で右に開く引き戸だった。
その戸を開けると戸にぶら下げているものがカランカランと音を立てた。
喫茶店などのドアについているあれである。
戸を開けると突然、コロッケや空揚げ・味噌汁などの匂いがした。
机の配置は全員、こちらを向く形になっている。
カウンターに座っている女性がすぐに口元をティッシュで押さえた。
見ると全員、お弁当を食べていた。
なんとこの銀行は昼食を自分の机で食べることになっているようだ。
行内にお客様は私一人で
受付機で番号札をとる必要があるのかと少しためらいながら引っ張った。
すぐに私の番号が呼ばれた。
私は口紅がほとんど取れてしまった女性に番号札を渡した。
「そちらの椅子におかけになってお待ちください」
女性はにこやかに対応した。
ここは呼ばれたらカウンターに置かれている椅子に座り、終わるまでそこで待つスタイルだった。
脇には荷物を置くバスケットも用意されていた。
私は椅子に座り彼女の作業を見守った。
今どきの金融機関は私服が多くなった。
ここも同じで皆さん、それぞれ服装が違う。
一見して清楚で質の良い服装だと分かる。
給料はそれなりにもらっているだろうと勝手に想像する。
彼女のまつげはきちんと手入れされていてアイラインが「できる女」を感じさせた。
さりげなく薄めのピンクのネイルが施されている白魚のような手がテンキーの上を舞う。
お札を数えて最後にピンと音を立てた。
カランコロン。
入り口の引き戸が開き、次のお客様がカウンターに見えた。
対応した女性が後ろを振り向き担当の方を呼んだ。
その女性が向いた先は壁のキャビネットを背にした一番奥の席だった。
椅子には誰も座っていない。
ああ、どうやら席を外している。
と思って見たら
なんと机の引き出しから人が出てきた!
ように見えた。
その人はもさもさと立ち上がり、寝ぐせの髪を両手で直した。
どうやら机の下で寝ていたようだ。
この銀行はおそらく、食事をとる部屋も従業員の休憩室もないのだろう。
だから昼寝は机の下に潜るしかないのかもしれない。
私は銀行を出て我慢していたものが一気に溢れ出し腹を抱えて笑った。
全員が入り口に向かって座ってお弁当を食べている。
音を立てないようにしてカップラーメンを食べている人もいた。
あれでは美味しさが半減するだろうなぁと思いながら、でも、もしも自分だったら同じことをするだろうなと親近感を覚えた。
そして、自分の机の下にもぐって昼寝をしていたあの人は、起き上がるその姿は、冬眠から目覚めたクマさんを想像させた。
おかしくておかしくてたまらない。
涙が出てお腹が引きつるほど思いっきり笑ったらすっきりした。
そこは出張でたまたま訪れた土地だった。
そして、自動車税の納期が今日までだったことを突然思い出し、銀行に入ったのだ。
こんなに思いっきり笑ったのはいつだったろうか。
最近の僕は、会社とアパートの往復の毎日に嫌気がさしていた。
しかし、この銀行のことがきっかけで、
世の中の「常識」と思っていることは単なる自分の思い込みで形成されている気がしてきた。
もっと気楽に生きよう。
そして、もう少し頑張ってみようと思った
銀行の出口の近くにははんなり優しい顔をしたお地蔵様が立っていた。
僕は近くに咲いてあるタンポポの花を飾った。
月日は流れ、僕は、二人の娘と妻の4人家族になり、守る者ができた。
昔ほど落ち込まない性格に変わった。
正確に言うと、家族のため落ち込んではいられなくなっただけだが。
ある日、ふと、あの銀行に行ってみたくなった。
当時、駅の周りは自動販売機が一つあるだけで周りは田んぼだった。
しかし、電車を降りてみると今は
コンビニやスーパー、マンションが立ち並ぶ街に変わっていた。
記憶をたどりながら歩いてみたが
あの銀行は見つけられなかった。
あの銀行は本当にあったのだろうか。
確か、「木の葉銀行」だったような気がする。
あの時納めた自動車税。
その後、宝くじが当たったり思わぬ昇給があったりと、
何かに引き寄せられるように人生は好転していった。
木の葉銀行は、疲弊していた僕に
ひと時の安らぎを与えてくれた恩人だ。
タンポポがうっそうとしている一角があった。
その中にお地蔵様を見つけた。
優しいお顔は覚えている!
あの時のお地蔵様だ!
ニッコリ微笑んでこちらを見ていた。
今回は
ドアの向こう側(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。
私は愛されています
大きな愛で包まれています
失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+
1504日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
ドアの向こう側(ショートショート)
をお伝えいたします。
(妄想の世界)
昼時に田舎の、ある銀行のドアを開けた。
自動ドアがほとんどの世の中でそこは手で右に開く引き戸だった。
その戸を開けると戸にぶら下げているものがカランカランと音を立てた。
喫茶店などのドアについているあれである。
戸を開けると突然、コロッケや空揚げ・味噌汁などの匂いがした。
机の配置は全員、こちらを向く形になっている。
カウンターに座っている女性がすぐに口元をティッシュで押さえた。
見ると全員、お弁当を食べていた。
なんとこの銀行は昼食を自分の机で食べることになっているようだ。
行内にお客様は私一人で
受付機で番号札をとる必要があるのかと少しためらいながら引っ張った。
すぐに私の番号が呼ばれた。
私は口紅がほとんど取れてしまった女性に番号札を渡した。
「そちらの椅子におかけになってお待ちください」
女性はにこやかに対応した。
ここは呼ばれたらカウンターに置かれている椅子に座り、終わるまでそこで待つスタイルだった。
脇には荷物を置くバスケットも用意されていた。
私は椅子に座り彼女の作業を見守った。
今どきの金融機関は私服が多くなった。
ここも同じで皆さん、それぞれ服装が違う。
一見して清楚で質の良い服装だと分かる。
給料はそれなりにもらっているだろうと勝手に想像する。
彼女のまつげはきちんと手入れされていてアイラインが「できる女」を感じさせた。
さりげなく薄めのピンクのネイルが施されている白魚のような手がテンキーの上を舞う。
お札を数えて最後にピンと音を立てた。
カランコロン。
入り口の引き戸が開き、次のお客様がカウンターに見えた。
対応した女性が後ろを振り向き担当の方を呼んだ。
その女性が向いた先は壁のキャビネットを背にした一番奥の席だった。
椅子には誰も座っていない。
ああ、どうやら席を外している。
と思って見たら
なんと机の引き出しから人が出てきた!
ように見えた。
その人はもさもさと立ち上がり、寝ぐせの髪を両手で直した。
どうやら机の下で寝ていたようだ。
この銀行はおそらく、食事をとる部屋も従業員の休憩室もないのだろう。
だから昼寝は机の下に潜るしかないのかもしれない。
私は銀行を出て我慢していたものが一気に溢れ出し腹を抱えて笑った。
全員が入り口に向かって座ってお弁当を食べている。
音を立てないようにしてカップラーメンを食べている人もいた。
あれでは美味しさが半減するだろうなぁと思いながら、でも、もしも自分だったら同じことをするだろうなと親近感を覚えた。
そして、自分の机の下にもぐって昼寝をしていたあの人は、起き上がるその姿は、冬眠から目覚めたクマさんを想像させた。
おかしくておかしくてたまらない。
涙が出てお腹が引きつるほど思いっきり笑ったらすっきりした。
そこは出張でたまたま訪れた土地だった。
そして、自動車税の納期が今日までだったことを突然思い出し、銀行に入ったのだ。
こんなに思いっきり笑ったのはいつだったろうか。
最近の僕は、会社とアパートの往復の毎日に嫌気がさしていた。
しかし、この銀行のことがきっかけで、
世の中の「常識」と思っていることは単なる自分の思い込みで形成されている気がしてきた。
もっと気楽に生きよう。
そして、もう少し頑張ってみようと思った
銀行の出口の近くにははんなり優しい顔をしたお地蔵様が立っていた。
僕は近くに咲いてあるタンポポの花を飾った。
月日は流れ、僕は、二人の娘と妻の4人家族になり、守る者ができた。
昔ほど落ち込まない性格に変わった。
正確に言うと、家族のため落ち込んではいられなくなっただけだが。
ある日、ふと、あの銀行に行ってみたくなった。
当時、駅の周りは自動販売機が一つあるだけで周りは田んぼだった。
しかし、電車を降りてみると今は
コンビニやスーパー、マンションが立ち並ぶ街に変わっていた。
記憶をたどりながら歩いてみたが
あの銀行は見つけられなかった。
あの銀行は本当にあったのだろうか。
確か、「木の葉銀行」だったような気がする。
あの時納めた自動車税。
その後、宝くじが当たったり思わぬ昇給があったりと、
何かに引き寄せられるように人生は好転していった。
木の葉銀行は、疲弊していた僕に
ひと時の安らぎを与えてくれた恩人だ。
タンポポがうっそうとしている一角があった。
その中にお地蔵様を見つけた。
優しいお顔は覚えている!
あの時のお地蔵様だ!
ニッコリ微笑んでこちらを見ていた。
今回は
ドアの向こう側(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
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大きな愛で包まれています
失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています
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