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【詩】金魚のきいちゃん

金魚のきいちゃん
ある日君は、世界の狭さを思い知って
ガラスに精一杯からだをぶつけた

金魚のきいちゃん
ある日君は、世界に一人なのを怖れて
一晩中水面を鳴らし続けた

金魚のきいちゃん
ある日君は、どうして食べ物が降ってくるのか考えて
岩陰からじっと僕を見た

金魚のきいちゃん
ある日から君は、ただの金魚のように生きた
小さな水槽を悠々と泳ぎ
落ちてくるエサを独り占めした
僕の事なんか知らんぷりだった

夏がしぼんで
さらさらした風が吹くと
僕は安心してきいちゃんを忘れた
きいちゃんは大きく成長して、日常の中へ消えた

ある夏の朝、僕の家の台所は水浸し
フローリングの上できいちゃんは死んだ
死骸を妙に重たく感じたが
僕は素手でそれを埋めた

お墓の石はどれにしよう
あれはダメ
これもダメ
きいちゃんにはもっと素敵な石がいい

ふと思った
きいちゃんは遠くに行ったのか
それとも近くに戻ってきたのか

庭に作ったお墓の前で、きいちゃんは僕のこころを自由に泳いだ
五年生の僕は久しぶりに泣いた


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