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【読書】『未来国家ブータン(高野秀行)』を読み、幸せを想う
現在入院中な自分の最強のお供、それが電子書籍である。
大量に積んでいた本を消化する絶好の機会が訪れたことにある意味では感謝なわけだが、左足がほぼ動かせない状況のため、体を横にすることもできず常に仰向けに寝た状態でスマホを持つ形になる。
だが正直これはきつい体勢だ。
眠いと顔にスマホ落とすし。
(軽いスマホの存在って大事なんだな……)
さて、そんな自分が今回消化した積読本は、高野秀行氏の『未来国家ブータン』である。
こちらは辺境作家で知られる高野秀行氏が、幸せの国として知られるブータンを巡る本だ。
「ブータンの雪男情報を探る」なんていういつもながらのUMAな目的もありつつ、なんと今回は生物資源のバイオベンチャーを立ち上げた友人の二村聡さんからの依頼で、ブータンに存在する生物資源を探索するという国家プロジェクトにもガッツリ関わることになる。
(生物資源:食料、衣料、薬品など人間の生活上に必要な資源として利用される生物のこと)
果たしてブータンに住む人達の価値観とは?
いい感じの生物資源はあるのか?
ブータンにおける幸福の秘密とは?
そして雪男はいるのか!?
……まあ雪男はともかく、高野秀行氏の本はその地域のあらゆる事例を知ることができて毎回最高に楽しいわけだが、いくつか琴線に触れたものをピックアップして紹介しよう。
【ブータンにおける観光税】
高野秀行氏の本はその国に入国するまでの過程なども書いてくれているので、そこがまた楽しいし興味深い。
さて、最近のインバウンドの影響で「日本にも観光税を!」なんて動きがあるが、ブータンには昔から観光税が標準搭載となっている。
この本が出たのは2016年なので、高野秀行氏がブータンを巡ったのはそれ以前のことになるのだろうが、当時は1日あたり250ドルだったそうだ。(1日!?)
ヨーロッパでも観光税を導入している国は多いが、1泊あたり1000円も行かないのが普通な感じなので、こうしてみるとブータンはなかなかに異次元である。(これにも理由があるのだが)
ただ正確に言うと、この1日250ドルというのは『公定料金』というもので、ホテル代やガイド代や食費、そして観光税(65ドル)が全部込み込みの観光パッケージのようなものだったりする。
ある意味で、これだけ払えば一定の観光は約束されるといえるものなのだ。
……だが、実はつい最近このシステムに大改訂が加えられたようで、観光税は3倍(65ドル→200ドル)になったうえに、ホテル代や食事代などは全部個別で支払う方向に変更されてしまった。
なので現在はブータン旅行の必要経費が倍以上に膨らむことが予想される。
幸せの国は庶民にとって更に遠い国になったよ……!!
【ルンタ・ギュップ(不運状態)の概念】
ブータンにはルンタ・ギュップという概念がある。
ルンタとは直訳すると「風の馬」だが、「変動する気」という意味もあったりといろいろ使える単語だ。
このルンタが下がっている状態をルンタ・ギュップといい、意味としては『めっちゃ不運な状態』のことをさす。
なんだか最近不運すぎる事故にあってしまった自分の状況も相まって、「ルンタ・ギュップって私のことだ…」という感情が湧き上がってきたのは言うまでもない。
ブータンではルンタ・ギュップのときは坊さんに祈祷してもらって治すらしいのだが、なんだかこれは日本における厄払いや厄除けを思わせる。
まあブータンの国教はチベット仏教(大乗仏教)なので、日本と似た部分があるのも当然か。
ちなみに、お寺で行う祈祷が厄除けで、神社で行う祈祷が厄払いとのこと。
へぇ……(無知)
【国王はスーパーアイドル】
ブータンにおいて、国王は割と本気でスーパーアイドル扱いである。
現在のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は当時26歳で即位したが、アメリカとイギリスで教育を受けており、イケメンだ。
国王は政府とは別にブータン国内を隅々まで徒歩で歩き回り、政府では行き届かない部分を是正して回っている。(高野氏曰く、水戸黄門)
これができるのはブータンの人口規模が70万人ほどだからなわけだが、全国の村では「正しいことをしていれば王様が見てくださる」と信じているし、家にイケメン国王のポスターが飾ってあったりするくらい支持は熱い。
あまり語られることのないブータンの闇である「毒人間」(他人に毒を与える一族)という差別文化に対しても、国王自らが毒人間の女性から焼酎を貰って飲んで見せることで差別解消の機運を生むなど、なんかもう行動がアイドルというかヒーローである。
思えば過去に紹介した昭和の消えた仕事図鑑の記事で、「天皇陛下の写真売り」について書いたことがあった。
当時の女学生たちが本当に天皇陛下の写真を映画スターのようにうっとりとした目でみていたかは不明だが、ブータンでは実際にそういうことが起きているのだ。
高野氏は後半で「日本も明治初期まで遡ればブータン的進化を遂げる可能性があったのでは」と語っているが、確かにそういう未来もあったのかなと想像してしまう。
欧米との争いに巻き込まれなかった歴史というのはなかなか想像しにくいが、ブータンのように自然を愛し、王を愛し、国のために一人ひとりが喜んで尽くす日本。
(そういう漫画や小説もどこかにあるかも)
そんなわけで、この他にも非常に興味深いブータン事情が知れる本なので、興味が湧いた方はぜひ読んでいただきたい。
やっぱりこういうノンフィクション本は面白いなと思う。
病院に居ながらにして世界を旅行している気分だ。
ただ、ブータンは2019年の幸福度ランキングから大きく順位を落とすことになったのは多くの人が知る事実だろう。
これは情報鎖国が解かれ、国民が他の国と自分たちを比較することができるようになったことが原因と言われているが……やはり他人との比較は幸福度を下げるようだ。
そしてその後のコロナ禍、インフレ、ブータン国民の海外流出。
もうこの本の中にあるブータンからは変化してしまったであろう今のブータン。
しかしブータンならなんとかうまいことやっちゃうんじゃないかという微かな希望も感じている自分がいるのだ。
幸せってなんなんだろう。
最近まで孤独に日銭を稼いで生きていた自分だが、今や病室で多くの看護師や親の支援に支えられ、不自由ながらも不自由のない生活へと大きすぎる変化を遂げている。
もちろん看護師の方々は仕事でやっているわけだけど、本当にその仕事ぶりには毎日感謝の気持ちでいっぱいなのだ。
ある種の社会貢献しなきゃという気持ちは平常時の何倍にもなっている実感がある。
果たして自分に起きた事故は本当にルンタ・ギュップだったのだろうか?
もしかしたらこの入院は、自分の人生にとって本当に大事な分岐点なのかもしれない。
自分にとっての幸せとは何か、考えねば。
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