前回紹介した『猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦 (幼年文学 ; 第2)』だが、神アプリである『みを』のおかげでどうにか読み終えることが出来た。
猿蟹合戦の別バージョンといえば芥川龍之介のものが有名だが、今回の猿蟹弔合戦はそれとは全然違う後日譚だったので、なかなか楽しめた。
(芥川龍之介の猿蟹合戦は、カニが復讐とはいえサルを殺したため、裁判で死刑になるというお話)
さっと調べた感じでは、この猿蟹後日譚 : 一名・猿蟹弔合戦の内容を書いているサイトもなさそうなので、自分がネットの海に残しておくとしよう。
(需要はなさそうだが)
後日譚の前に、まず猿蟹合戦の内容をおさらいしよう。
実は他にも「カニが死んで子ガニが産まれて復讐するパターン」や、栗やら牛ふんやらが登場したりと色々バリエーションがあるのだが、今回は猿蟹弔合戦に合わせる形で上記のものにした。
では、巌谷小波による猿蟹合戦の後日譚を見ていこう。
あ、もちろん原文ママは難しすぎるので、独自翻訳したものです。
本物が読みたい方は、国立国会図書館デジタルコレクションに登録登録!!
そんなわけで、まさかの「柿の種」と「おにぎり」が主役だった。
確かに本家の猿蟹合戦で最序盤に出ていたのは彼ら(?)だが、これを登場人物に据えるなんて常人の発想ではない。
そして彼らは議論の末、猿蟹合戦の原因は自分たちにあるという結論に至り、「もう地面に植えられようと柿の実はつけない」ことと、「食べられても消滅しないおにぎりになる」ことを固く誓う。
前者もすごいが、後者はもう魔法である。
『消滅しないおにぎり』って何?
こんなぶっ飛んだことをさらっと書ける巌谷小波、やはり只者ではない。
もうカニのファン辞めます!!
猿蟹合戦を終えて、両者の立場は完全に逆転しているらしい。
なんかもう、カニがめっちゃ嫌なやつに変貌している。
いやもちろん当時酷いことをされたのは事実だけどもさ……!
そして当然のように柿も要求するカニ。
お前、変わっちまったな……。
無限に食べられるおにぎりが爆誕してしまった。
そしてサルは9年以上お世話しているのに、柿の木は実をつけない。
だがこれも争いをさせないための約束ゆえ。
仕方がないのだ。
……サルがめっちゃ不憫。
そして基本的に他人の力を笠に着てサルを威圧するカニ。
き、気に入らない……!
そうだった。
最初に出てきた柿の種とおにぎりのことをすっかり忘れていた。
思えば今回の事件は彼らの約束がきっかけで起こっているのだ。
どうにかカニの酷さを葉っぱがおにぎりに伝え、約束の終了と相成った。
柿の木が葉っぱを使って外出しているのは、もう魔法ということにしてスルーしよう。
(なんかもう普通に擬人化してるし)
そしておにぎりに対して、「お前も消滅すれば?」という提案を平然としているのは面白かった。
どういう仕組みなんだ彼らは?
世界のどこかに別のおにぎりが存在していれば、この場所のおにぎりは消滅しても問題ないとかそういう概念……?
「作者の人そこまで考えてないと思うよ」という幻聴が聞こえたので、ここまでにしておこう。
なんにせよ、これでサルは助かりそうである。
……いやちょっとこれ、
新感覚でなかなか良かったんじゃない?
序盤からぶっ飛んだ設定はありつつも、教訓めいたものは本家の猿蟹合戦より多かったような気がする。
「増長してはいけない」とか、「人(サル)は変われる」とか、「良い行動をちゃんと見ている人はいるよ」とか、なんかそんな感じで。
じゃあなんでこの作品が世間に全然知られていないかといえば、どう考えても本家のカニを台無しにするからだろうな、とは思う。
最初から最後まで嫌なやつだもんな……この作品のカニ。
いやしかし、元の猿蟹合戦の「早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ」というセリフからは、カニの暴力性の片鱗が見えているのかも?
そして当たり前のように作中で10年以上過ぎるのがまたすごい。
いってみれば、小学校卒業の頃に「柿食わせろよ!」と言った約束を、大学卒業後に要求してるみたいなもんである。
そしてよく考えたら10年食われ続けているおにぎりも相当だ。
ラストが食べ過ぎというのもこれまた斬新でいい。
……ああ、やはり古典はぶっ飛んでいて面白いなあ。
『みを』アプリのおかげでどうにか読めなくはないし、これからも漁り甲斐がありそうだ。
しかも最後の方に付いていた宣伝ページを見ると、何やら興味深い昔話がまだまだいっぱいあるらしい。
『舌切雀後日譚』に、『鬼桃太郎』?
おいおい……
盛りだくさんだな……!!
鬼桃太郎は国立国会図書館デジタルコレクションにも存在し、『みを』で読めそうな感じなので、そのうち読もうと思う。
みなさんも暇すぎた時はぜひ国立国会図書館オンラインを漁ってみて欲しい。
誰かが紹介したことのない古い本が、まだまだ眠っているはずだから……!