ファンタジー短歌のシェアード・ワールドを創る
はじめに
本記事は先日の「世界観構築」の記事の続編です。文学フリマ東京38で頒布した『ファンタジー短歌研究vol.1』で考察が大きく進んだため追記します。異世界を描写するには、ワールドを準備する必要がありそうです!
表現領域を拡大するために
『ファンタジー短歌研究vol.1』ではファンタジー短歌の課題点を挙げましたが、世界観についての課題を簡単にまとめると以下になります。
要するに、現実世界ではない新たなワールドを作成し、表現領域の拡張を試みようという話でした。
短歌で別の世界を書く行為は相対的に「下駄を脱ぐ」ことです。現実世界は共有済み(と思われている)の、伝達速度が速い世界像といえます。専門的な内容でもない限り、身の回りできごとは不便なく伝えられるでしょう。
現実世界の生活詠では、説明を省略し、表現の精緻化や拡張を競っているような状況です。そんな中で、世界観を説明しながら組む虚構世界の連作は、情報伝達に加え、読者側の情報処理の面でも圧倒的に不利になります。
短歌がうまい方は伝説等の、すでに文化に取り込まれた別世界のイメージを借用してきたり、現実世界に幻想的なイメージを導入して秀歌を作られています。しかし、そういった方法には限界があると感じます。
シェアード・ワールドについて
シェアード・ワールドとは複数の人々が創作のために共有する世界観です。先行事例ではH・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話等があります。
短歌関係でも、部分的に世界観を共有する事例はありました。和歌の題詠では蓄積されたイメージを用いて歌が詠まれました。本歌取りでは、先行作品の雰囲気を引いたままに、新しく作品化します。1900年に発行された雑誌『明星』では星や菫に寄せて恋を詠む「星菫調」が流行しましたが、これも一種のシェアード・ワールドと言えるかもしれません。
これらの事例では共作が行われていますが、ワールドを作成するには至っていません。
シェアード・ワールド構想
現在、各方面の資料を集めながら、2024年12月を目標にシェアード・ワールドのスタートガイドを作成しています。筆者は以前からこのワールドで短歌を詠んでいたようなものなのですが、詰めきれていない点が多いため言語化と見直しを行っています。少なくとも以下の項目は決めておかないと歌が作りにくそうでした。
今回作るシェアード・ワールドは奇抜なものにせず、「ハイ・ファンタジー」作品でよくある中世ヨーロッパをベースとしたワールドにします。知見が溜まれば別のワールドを作るかもしれません。
世界観についてのメモ
ざっくりまとめると、以下のような世界観を作成する予定です。
中世ヨーロッパについて知りたい方は、池上正太著『図解中世の生活』(新紀元社,2016)を入門編としておすすめします。図解と簡潔な説明によって理解しやすかったです。調査と資料作成を行い、なんとかテスト的にワールドを公開するところまで漕ぎ着けたいと思います!
さいごに
短歌において何か新しさを求めるとき、「作家性」を用いたり、作品に新たなジャンルの雰囲気を導入するアプローチならいくつか思いつきます。しかし、現実世界をベースにした幻想的かつ革新的な短歌の手法を提示するビジョンが、現状ではあまり持てていません。ワールドを作り上げることが、遠回りに見えるかもしれませんが、根本的な部分を変えるための近道になると信じています。
参考文献
・池上正太著『図解中世の生活』(新紀元社)2016
・辻原僚『ファンタジー短歌研究vol.1』2024
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