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認知症になった祖母が僕に教えてくれたこと


御年91歳。

長生きな方だと思う。
大きな病気もなく、2年前までは小さな手芸店を営んでいた。
ミシンを使い、ズボンの裾上げや手提げバッグを作り、
お店をやめる少し前まではそろばんをはじき、勘定も自分でやっていた。

人当たりもよく、外で会う人にも「おばあちゃんのお孫さんか!」と
声をかけてもらっていた。それだけでもありがたかった。

そんな祖母が認知症になりました。
認知症の兆候、親族間の意識の差と悩み、
自分自身の意識の変化などを残すために書いていきたいと思います。



人が変わった


2年前の夏、夏バテで祖母が2週間ほど寝込むことがあった。

同居している伯母から聞くと「高血圧にいい」と聞いてきた葉の
お茶を飲んで脱水症状になっていた。
血圧を抑えるだけでなく、利尿作用が強いために脱水症状になったようだ。

元看護士の伯母が止めても隠れて飲んでいた。
伯母が自分の部屋に入ってくるのも怒って拒否していたようだ。

何とか元気を取り戻した祖母の顔つきを見てみると、
今までとは違う顔をしている。

会話が少し噛み合わない部分があったり、
自分の要望がかなわないと駄々をこねるようになった。
他にも昔から付き合いがあった人を忘れていたり、
今までではありえない言動をしていた。

物忘れとは違っていた。
人との付き合い方が変わったと言えばいいのだろうか。

伯母から聞いた話では、
この時期にボヤ騒ぎや家内での夜間徘徊もあった。
伯母が用意してくれたご飯を拒否し、
カップラーメンを食べ始めたのもこの辺りからだ。

端的に「人が変わった」というほどインパクトがあるものではなかったが、
今まででは考えられない言動を取り始めたのがこの頃。
そういう意味では人が変わった印象を持っていた。

親族内でも薄々と「認知症ではないか?」ということを
個々に感じ始めていたのであった。



入院

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今年に入ってから「しんどい」とよく口にするようになった。
伯母が勧めても大きな病院で検査をするわけではなく、
かかりつけの病院に通っていた。

ちょうど転職前の時期。
世間もコロナが広がり始めた頃。

3月、退職金に目がくらんだ父が突然代理店の方向性を換え、
お客様の担当でいることができなくなったので、
相談させていただいた先輩に拾っていただいた。

年度末ということもあり、役員の方に面談の時間を作っていただくことも
あって自分自身も打ち合わせ等であわただしく動いていた。

その間に伯母の付き添いで病院へ行った祖母は即入院。
肺に水が溜まり、酸素吸入がなければ呼吸することが難しくなっていた。

同時に、認知症ということも診断。
心づもりもできていたので大きなショックはなかった。

この頃は徐々に認知症保険が市場に出てきたころで、
僕自身も事例などは聞いていた。
それに比べれば早い段階で発見できたということが大きかったと思う。

心配だったのはむしろ

「家に帰ってこれたとしてどう面倒を見ていくか」
「介護施設に入ったとしたらいくら必要なのか」

アドバイスする側の立場にいるが、
地域性よって金額が異なっていたり、
介護期間は平均が54.5か月であっても、10年以上かかる場合もある。
参考:生命保険文化センター「介護にはどれくらいの年数・費用がかかる?」

平均を取ったとしても
7.8万円×54.5ヶ月=425.1万円
一時的な費用69万円をプラスして494.1万円かかる。
1人につき約500万円。あくまで平均の場合である。

何より、介護等級が認定されるかどうか。
ここで大きく話が変わってくる。

これからどうする?
漠然とした不安があった。


YouTubeで見た動画と同じ光景が広がっていた

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もし、元気になって帰ってくるという話になれば、
家で介護ができる状態にしておかなければいけないので、
空いた時間に家の片づけをすることになった。

伯母と相談しつつ寝室に立ち入ると、

恐らくここで寝ていたんだろうと思われる半畳くらいのスペースと
それを取り囲む天井までの物、モノ、もの。
ホコリが立ち込め鼻はムズ痒く、
体はところどころ虫に噛まれて痒くなってくる。

認知症患者の部屋には特徴があるんじゃないか?と思えるほどに

YouTubeで見た光景と同じ光景が広がっていた。

清掃業者を雇うという話もあったが、
「30万~50万くらい」という話だった。広間と和室だけでこの値段。
寝室や仕事部屋なんかも含めると100万円超の仕事。
「認知症って介護の前にもお金がかかるの!?」という衝撃。
結局自分たちでやることになった。

ごみ処理センターに持ち込み、処理代を圧縮。
2ヶ月かけて室内の片づけは完了し、久々に床と対面した。
まだすべては片付いてはいないが、恐らく400kgくらいあると思う。

片付けていると出てくるゴキブリの卵やネズミの死骸。
全身を守りながら、マスクを着けて片付けていった。

よくよく考えてみると、祖母も買い物の量が異常だった。
例えば、箱ティッシュ計8箱を2か月に一度買い足す。
嫁姑の問題もあったので一人で使う量にしては異常であった。

「普段から片付けておけば?」という方もいるだろう。

認知症の特徴の一つに「物盗られ妄想」というものがある。
自分が置き忘れてきた財布が見つからず、
身内が盗ったに違いないと思い込むことである。

幸い、我が家ではこの妄想がなかったが、
認知症になった人は捨てられたり掃除されたりすることを非常に嫌う。
入院するまで家族が祖母の部屋に入ることができなかったのだ。

コロナのタイミングで面会に行けず、
面会できても酸素吸入を外そうとするので、会わないようにしていた。
約2か月の入院後、介護施設への入所が決まった。

僕が今の仕事を始めた頃には加入できない年齢になっていた。
淡い期待を持って家探ししても医療保険に加入していなかった。
伯母が医療費を負担してくれた。



公的介護保険制度


介護施設に入所する前にケアプランというものを作成する必要がある。

介護の利用計画書のことです。
ケアプランでは、介護サービスを利用する方とそのご家族の状況、
ニーズに合わせて自立した生活が送れるような目標が設定されます。

わかりやすく説明すると
どういった内容で介護生活を行っていくかを決める計画書のこと。

「一人で歩くのが辛いので補助が必要ですね。」や
「一人でトイレに行けないので介護が必要ですね。」
ということを医師の診断を参考に総合的に介護の方向性を決める計画。

このケアプランというものは自分で作成することも可能だが、
ほとんどの人がケアマネージャーという職業の人と相談して決める。

それに伴って要支援や要介護などの等級が決まる。

これを受けて祖母の場合は"歩行などが不安定さがあり、
日常生活に部分的な介護が必要"である要介護1だった。

というのも、祖母は
入院生活で回復し、何とか歩けるようにまで回復した。
これ自体は嬉しいことだが、待ち受けている介護生活に影響が出てくる。

下記表を見ていただきたい。

在宅居宅サービスの自己負担額

※2019年10月以降の状態と支給限度額の目安


介護等級は生活状態によって決めるもので、
身体が健康であれば給付対象から外れてしまう可能性がある。

認知症であっても一人で歩くことができれば、
要介護1までの状態になるケースが多い。

もちろん、認知症が深刻になれば要介護3以上に該当することもある。
認知症自体は介護の原因にはなり得るが、介護度を決定できるものではないと周知したい。
実は脳卒中で半身不随の伯父のほうが要介護度が高いのもこのためだ。

祖母の場合、家に帰ってきてもボヤ騒ぎや徘徊などで24時間目が離せない。
そうなると家族が付きっきりで見ないといけなくなる。

介護離職をしなければいけない家庭もある世の中で、
要支援ではなく、要介護1でもありがたかった。


誰かに負担が集中してしまう


費用が安い特別養護老人ホームには入居できるのは要介護3から。
介護等級によっては介護施設に入居することもできない。
祖母は要介護1なので費用が高い施設に入居することになる。

祖母の場合、
月167,650円を超えない額までは16,765円で介護サービスを受けられる。
食費、居住費、医療費、差額ベッド代、服飾などの生活費などは別だ。
これとは別に入居時に敷金・礼金が必要な施設もある。

祖母に貯金はほとんど残っていなかった。
保険なども探したが見つからず。
本人も覚えていない。
入っているだけだと使えないのだ。
保険営業が「最後まで担当することがどれほど重要か?」
ということを再認識させてくれた。

伯母が働いてくれているおかげで我が家は何とかなっているという形だ。
相談しても「こちらで何とかなるから」という言葉に甘えてしまった。

父が非協力的だったので
その分男手が必要な時は僕が動いている。

微妙なバランスで成り立たせざるを得ないのだ。


将来は自分に


金銭的な面を綺麗に分割できたとしても
洗濯や日用品の買い物等、
誰かに介護労働が偏ってしまう可能性が高い。

現状でもこれだけのことで頭を悩ませているのに、
「自分がその立場になったらどうなるだろう…?」
ということに強い不安を感じてしまった。

僕は一人っ子だ。
それはそれほど遠くない未来。
約20年後には父は85歳、母は81歳である。
85歳以上になると認知症リスクは2人に1人認知症になると言われている。
この場合、どちらかは認知症になる可能性が高い。

認知症推移

参考:三井UFJ信託銀行「認知症の現状と将来推計」

1人500万円として、2人ともなってしまうと1,000万円。
物価上昇を考えると2,000万円は欲しい。
現実的に難しい。そのためにも生活費以上に稼がなければいけない。

医療技術の発展によって寿命が延びるとともに、
認知症が拡大していくということに政府が警鐘を鳴らしている。

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参考:内閣府「令和元年版高齢社会白書 高齢化の現状と将来像」

20年後には75歳以上の高齢者が現在の1.2倍に増えている
現状でも高額なため介護施設への入居がかなわず、
在宅介護している方もたくさんいる。

介護に伴う悩みが行き着いた事例を紹介したい。


介護の怖いところは収入がなくなり、支出が増えていく部分にある。
上記の通り、日本の人口に対して高齢者の占める割合と共に介護に伴う
悩みが将来的に拡大していく見込みである。

時間がある方はこちらもご覧いただきたい。
介護により家族が無茶苦茶になってしまうこともあるのだ。


20年後。
介護施設や介護職員が増えているのだろうか?
増えていたとして入居できるお金を確保しているのだろうか?
そもそも現状の制度がそのまま維持できているだろうか?

以前の記事もそうだが…
下の記事は大学資金について書いてあるので、ご一読いただきたい。

僕は仕事上で20年というスパンを大切にしている。

20年と言えば親が高齢になる頃。そして、子どもが成人する頃。
現在の問題はそれがほぼ同時期にやってくることである。

「親は用意してくれているだろう。」
本当にそうだろうか?

「年金が足りない」と
定年退職しても働いている方は多いのではないでしょうか?
目の前の生活費には不安を感じている方はいらっしゃいます。

しかし、介護生活を経験したことがない親御さんは多い。
そのため、介護に関しては懐疑的な方がたくさんいらっしゃいます。

祖母が認知症を通して教えてくれたこと。
それは「自分の経験を振り返り活かすこと」だった。

未来のお子さんのためにも
今のうちに親御さんと相談する機会を作ってください。



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