コンビニ+スーパーは最強になれるのか?コンビニの次世代の姿を求めた「SIPストア」の実証実験
私たちの生活に身近なコンビニは、24時間営業や店内調理品の提供、ATMの設置など、消費者ニーズに合わせて変化し続けてきました。そして近年、消費者の生活スタイルや価値観が急速に変化・多様化する中で、また新しいコンセプトのお店が出てきているようです。
次世代に向けたコンビニの挑戦と可能性について、「販売革新」編集委員 梅澤聡さんにレポート頂きました。
日常使いへ進化するコンビニのさらなる進化
国内のコンビニ9社の店舗数は、2024年2月末時点で57,913店舗(販売革新調べ)。40,000店、50,000店を数える節目には、マスコミでは「さすがに限界では」といった声も聞こえましたが、経営革新を続け60,000店も見えてきました。
ただ、好適地は間違いなく減っていて、さらに人口減少やコストアップが懸念される中、コンビニ同士だけでなく、スーパーやドラッグストアなどとの競争も激化するばかりです。
こうした中、緊急買い、ついで買いの店との印象を脱却し「日常使いの店」へ舵をきったコンビニ。
10年ほど前には、陳列棚の高さを上げ段数を一段増やすことで、300アイテムほど品揃えを増やしました。そこへ投入したのが、コンビニが手薄だったスーパーで買われる商品です。例えば、調味料やレトルト食品、トイレットペーパーなどの日用雑貨。さらに、よく使われる野菜の販売も定着してきています。
そしてコロナ禍で一気に高まったのが冷凍食品の需要です。冷凍食品を加え、品揃えを充実させることで、スーパーに行かなくても日常必要なものが揃う店へと変化し、スーパー、ドラッグストアに本気で向き合い始めているのです。
コンビニ的なスーパーとして好調なのは、ミニスーパーの「まいばすけっと」です。都心中心に展開し1,000店舗を超え、さらに拡大を続けています。
ファミリーマートは、2014年に「ファミリーマートプラス」を出店。ローソンもスーパーとのコラボ店舗の実験的な出店を行っています。
そしてセブンイ-レブンが、ついにコンビニ+スーパーの新コンセプト店「SIPストア」をオープンしました。
イトーヨーカ堂のノウハウをプラスした「SIPストア」
「次の10年先、20年先を見据えとき、セブン-イレブンの店舗はどうあるべきか、1年半前からグループのイトーヨーカ堂の協力をもとに準備を進めてきました。オープン後、(前年同期比で)売上146%、客数140%、客単価104%と、伸長させることができました」
本年4月23日、セブン&アイ・ホールディングスが主催するアナリストを集めた『IR Day2024』の席上、セブン-イレブン・ジャパン社長の永松文彦氏は「SIPストア」の開店1カ月の状況を明らかにしました。
このSIPストアとは、本年2月29日、千葉県松戸市にオープンしたセブン-イレブンの新コンセプト店舗です。これまでセブン-イレブンは、都市型の小型店をつくったり、店内レイアウトを大幅に変更したり、店舗の形を作り変える実験を幾つか実施してきました。しかし、今回のSIPストアほど、売場も商品も、従来とは異なる姿を提示したのは、創業から半世紀を見ても、初めての試みといえるかと思います。
オープンから1週間後、筆者は再びSIPストアを訪れましたが、店内は数十人ほどのお客であふれ返っていました。明らかに業界関係者が視察に訪れています。それだけ今回のセブン-イレブンの実験は、注目度が高く見えました。
SIPストアの正式店舗名はセブン‐イレブン松戸常盤平駅前店です。売場面積が88坪で、通常のセブン-イレブン(約45坪)の1.8倍、SKU(単品)数は5,300で、通常(3,300) の1.6倍、店舗運営に要する人時数(1人当たり1時間の作業量を1としたもの)は通常の約1.5倍となり、既存店を拡大・拡充しています。
もともと既存店は直営店で、建物が地区の事務所を兼ねていたことから、その一部だった「会議用スペース」を潰したことで、これだけ広い売場を確保できました。ただし、どれだけセブン-イレブンの商品を増やしても、88坪の商品棚は埋まりません。新たな商品の導入と、それに見合う人時数がSIPストアに求められていきます。
通称SIPストアのSIPの由来は、2022年8月、セブン‐イレブン・ジャパン(SEJ)とイトーヨーカ堂(IY)が結んだパートナーシップ(Partnership)の頭文字を取ったものです。
その目的は、商品やサービスにおける相互供給、アプリを通じた相互送客などの販売促進などをテーマに、シナジー効果を模索してきました。
翌2023年3月、セブン&アイ・ホールディングス社長の井阪隆一氏は、商品や販促のみならず、シナジーを発揮するSIPストアの開発計画を発表しました。コンセプトは「コンビニとスーパーの強みを融合させた新型店舗」であり、これまでにない新しいフォーマットを考えていくとしたのです。(ただし、SIPストアのオープン時には、“新しいフォーマット”ではなく、“新コンセプト”と表現を改めています)
既存コンビニとどこが違うのか
では、既存のコンビニと、どこが違うのか、実際の売場を見ていきましょう。
SIPストアの特徴は図表中で面積の4割くらいを占める左側の売場です。イトーヨーカ堂から集めたり、新規に投入したりした食品で構成しています。グループのオリジナル商品「セブンプレミアム」のデリカテッセンに加えて、既存のセブン-イレブンでは手薄だった生鮮三品、日配品、冷凍食品、調味料、加工食品を充実させています。
どれも調理にひと手間を有する売場です。プロジェクトリーダーを務める山口圭介氏(セブン-イレブン・ジャパン執行役員 企画本部ラボストア企画部)は、既存のセブン-イレブンと異なる品揃えについて次のように説明します。
「明日の朝食用として、焼くだけでおいしく食べられる魚や、明後日の昼食に利用する冷凍食品、これらを今日の即食用のファストフードと同時に買える場を、お客様に提供していきます。その際、どんな反応を得られるのか注視していきたい」
一般的に買物行動を見ていくと、スーパーでは、少なくとも2~3日、あるいは1週間分の商品をまとめて購入します。コンビニでは1時間以内に食べたり、飲んだり、使ったりする商品を買います。そうしたコンビニの半世紀にわたる概念に変更を迫るのがSIPストアの真骨頂といえます。
近年のコンビニは、冷凍食品や冷蔵庫で保存できるチルド弁当、あるいはお皿に移し替える必要がある袋型の惣菜やカット野菜の品揃えを拡充しています。必ずしも「即食」需要だけでなく、スーパーのような利用動機を取り込んでいます。
それでも、まだ取り組みが足りないとセブン-イレブンは考えているようです。
グループ力を結集して「変化対応」
少し理屈っぽい話をさせてください。日本のセブン-イレブンを実質創業した鈴木敏文氏(2016年5月退任)は、社員に対して「変化への対応」を繰り返し述べています。お客様の立場に立ち、その変化に対応し、現状の売場や商品、サービスを革新せよ、といった考え方を社内に示してきたかと思います。
なぜセブン-イレブンにとって「変化への対応」が大切なのか。それはコンビニという業態が「お客を選べない」からです。日本の総人口をコンビニ全体の店舗数で割ると、だいたい2,000~3,000人に1店舗が成立する計算になります。
住宅地であれば、半径350m以内、徒歩5分以内に居住する人たちを対象としています。すなわち、そこに居住する、老若男女問わず、全ての人たちに足繁く通ってもらわないと、お店が存続できないのです。
ですから、1店舗が商圏として持つ2,000~3,000人の変化に対応することが、お店の生命線であり、半世紀にわたって、それを実践してきたからこそ、セブン-イレブンをはじめとするコンビニが成長し、生き残ったといえるのでしょう。
若い女性客に向けた「コンビニスイーツ」も、夕食の一品になる「パウチ惣菜」も、仕事に向かう途中で買う「コンビニコーヒー」も、世の中の変化に対応して創造した商品です。現状の売場に満足せず、日進月歩の努力があって、現在のコンビニを築いてきたと考えます。
しかしながら、長く続いたコロナ禍と、それに伴う意識の変化、深化する超高齢社会、加えて物価上昇と実質賃金の下落など、外的環境が大きく変化し、速度が上がっています。
セブン-イレブンは、今まで通りの「変化への対応」だけでは、この先を乗り切るのは困難であり、イトーヨーカ堂を含めたグループの力を結集した「変化への対応」が求められると考えました。わざわざSIPストアという実験店舗を作った意義もそこにあります。
狙いは既存店へのSIPストアのエキス注入
何を変えたのか、もう少し具体的に見ていきます。
前述のように、通常のセブン-イレブンと比較して品揃えを1.6倍に拡充しています。増えた分の2,000SKUは、イトーヨーカ堂の食品事業部と連携しました。さらに非食品分野では、グループのロフトやアカチャンホンポの商品を含めてラインアップしています。
増えた分の内訳を比率にすると、デイリー品・冷凍食品33.5%、雑貨29.4%、加工食品19.3%、菓子・アイス15.0%、酒類2.8%としています。イトーヨーカ堂の食品を導入することでデイリー品・冷凍食品の比率が大きく伸長、またロフトやアカチャンホンポの商品により、雑貨の比率も高くなりました。
商品を見ていきます。今回、既存のセブン-イレブンと違いを際立たせているのが生鮮三品です。鮮魚と精肉の取り扱いについては、23年3月に稼働したグループの工場「Peace Deli (ピースデリ)流山キッチン」を活用しています。ここで生鮮品の加工やミールキットなどを製造しています。
鮮魚(チルド・冷凍)では、食卓への出現頻度が高い魚種を選定、刺し身は2点盛を中心とした品揃えの他、時短・簡単調理の漬魚も品揃えしています。
精肉(チルド・冷凍)では、料理用途に応じた牛肉、豚肉、鶏肉をバランスよく品揃えしています。しゃぶしゃぶ用や焼肉用など、加工方法により用途を広げて、利便性を高めています。量目は少人数や単身世帯を意識しているようです。
野菜は、カット野菜を含めると約70SKU(本年2月の開店時)、そのうち常温の陳列ケースを14SKUと絞り込み、冷蔵で管理した商品を中心に品揃えしています。果物は約40SKUで、カップ入りのカットフルーツに特徴を持たせています。
冷凍食品は、既存店の80~85SKUから263SKUへと拡充させました。米飯、和洋中麺類、惣菜、ペストリー、デザートなど幅広く品揃えしています。新規に導入した冷凍食品はプライベートブランド(PB)にこだわらず、逆にNBの人気商品を積極的に導入することで、今後のPB開発に活かしていく意向です。
こう見ていくと、共働きの比率が高まる中で、職場から家路を急ぎ、途中のSIPストアに立ち寄り、夕食用の味付け肉とカット野菜、翌日の朝食用にパンと牛乳とカットフルーツ、その夜のおかずに漬け魚と冷凍野菜、甘いものが食べたい時にはプラスしてコンビニスイーツなどを、手早く購入ができるので便利なお店になります。
また、増え続ける単身世帯にとって、生鮮品の多くは1~2人用なので、スーパーより量目単位では割高になるかもしれませんが、食べきれずに廃棄する心配がないものばかりなので、使い勝手はよいはずです。
あるいは、包丁は使い慣れていないが、コンビニの弁当は割高と見る若年の客層にとって、家でご飯を炊いて、冷凍食品やミールキットで食事を済ませば、節約にも貢献できます。
コンビニと比較して、食生活の多様なスタイルに対応でき、従来は取りこぼしてきた客層にアプローチができそうです。
SIPストアの今後について永松氏は次のように述べています。
「全国に加盟店が2万1,000店舗あり、ここにSIPストアのエキスを展開していくことを目的としています。まずは通常の直営店舗で実施して、(成否を見極めて)次世代店舗として、2万1,000店舗に拡大していくストーリーを考えています」
およそ半世紀の歴史を持つセブン-イレブンをはじめとするコンビニ業態。次の50年に向けて新たな店づくりが始まっています。
※商品の金額は2024年2月のものです。
(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)
セブン-イレブン・ジャパンのSIPストアを中心に、新たなコンセプトにチャレンジするコンビニの最新動向をレポートしていただきました。コンビニの利便性とスーパーの品揃え、双方の強みを単に掛け合わせるだけでなく、イトーヨーカ堂やロフト、アカチャンホンポなどのグループ会社の強みを店舗づくりに反映させることで、独自の価値を提供しようとしていることがうかがえます。焼きたてパンやピザといった実験中の商品を陳列したり、NBを積極的に導入するなど、新たなニーズの掘り起こしや次の商品開発につなげる試みも興味深いポイントです。
この店舗はもともと事務所として使っていた敷地を活用しているようですが、これから多店舗展開するのであれば、スペースをどのように確保していくのかも気になるところです。都市型の小型食品スーパーとの差別化も含めて、次世代コンビニの新たなチャレンジに今後も注目していきたいと思います。