見出し画像

AIの使い方は組み合わせ次第?これから出てくる業界特化のAIに注目

前回前々回に引き続き、東芝テックCVCの米国駐在員としてシリコンバレーで活動する橘髙とCVC室長 鳥井へのインタビューをお届け。

ここまで、現地で感じている生成AIのトレンドなどをお聞きしましたが、今後の生成AI活用で注目していることは?そして、気になるリテール領域での使われ方は?二人に聞いてみました。

特化型の生成AIサービスに注目!

――前回、複数のAIを組み合わせて一つのサービスを提供する動きがトレンドになっているという話もありましたが、今後はどのような取り組みがポイントになりそうですか?

橘髙:自分たちで新しくLLM(大規模言語モデル)を作るのは難しいですけど、AIを活用したアプリケーションやSaaSプロダクトを作ること自体はもうそんなにハードルが高くないかもしれなくて、どちらかといえば生成 AIを有効活用できるプロダクト構造になっているかであったり、ユーザーをどのように呼び込むのかといった視点が重要になってくるのかなと思います。大切なデータをどうすれば自社に預けてもらえるのか、LLMの利用料やサーバーコストがかかる中でいかにコスト最適化し、お客さんが導入してもいいと思うような価格に下げられるか、そのあたりも今後のポイントになりそうだなと個人的には思っています。

鳥井:生成AIにもいくつかのレイヤーがあって、汎用型のLLMモデルはOpenAIやAnthropicが膨大なお金をかけて開発しているので、今から日本企業が参入してもおそらく勝ち目はないですよね。これからは、業界特化型アプリケーションを提供するレイヤーでの勝負になるのかなと。例えばファウンデーションモデルを使い、特化したデータや自分たちしか持っていないデータを集めることで高精度を実現するとか、とにかく業務効率化のソリューションならどこにも負けないとか、そういうスタートアップが出てくるんじゃないかなって思っています。

橘髙:僕が東芝テックに入社する前の2022年ごろは、AIを活用したスタートアップと聞くと投資家はエンジニアリングの力や技術力を評価基準にすることが多かったと思います。
でも今は業界特化型になってきているので、最先端のことをやっていない限りは、その業界のことをどれだけ知っているのか、なぜこのビジネスモデルで成功できるのか、といった点が評価基準として見られるようになっている気がしますね。

――そのような中で、注目している業界特化型のユースケースはありますか?

鳥井:最初聞いて面白いユースケースと感じたのは、AIがデータを入力するのにLLMを使うといったユースケースです。つまり、入力するためのデータを非構造データからコンテキスト理解して生成しているんですね。非構造データになるドキュメントの文脈を読み解いて、例えば請求処理する業務システムに入力する帳票を生成AIが自動的にデータを整理して入力する。以前はOCRで読み込んだ画像を元に「この項目は、ここのデータ」といった形で指定していかないとならなかったため、フォーマットが異なる請求書だとそれぞれに同じようなことを設定しないといけないなどの手間があったところも、コンテキストを理解してAIが判断してくれるので、そういった請求書フォーマット別での人力設定などが不要になるのです。
そういう特化型のサービスを提供するスタートアップはこれからどんどん出てくると思いますし、そうなった時にSaaSのツールに機能としてAIが取り込まれるのか、新しいAIのシステムとして販売されていくのか、そこはいろいろ起きるだろうなと思って楽しみにしています。

米国での活動でいろんな人からスタートアップを紹介されることで、「もうそんなのが出てきているの?」というのがいっぱい出てくるのが面白いところですね。

――それは今後が楽しみですね。最後に、リテール業界の生成AI活用についても聞いてみたいです。

リテール領域の生成AI活用は、今後どうなる?

橘髙:そうですね。リテール領域に関しては米国のほうがそもそもリテーラーの数と、売り先が多いこともありますし、新しいマーケティング戦略とかも打ち出していたりするので、生成AI系のスタートアップも出てきやすい環境かもしれません。ただ、蓋を開けてみると、日本にもリテールに注力したスタートアップがけっこうありますし、技術レベルに関しては日本とあまり変わらないのではないかと感じています。

正直、リテールは最先端の技術が集まりやすい業界ではなかったりするのですが、例えば、ECサイトのマーケティングで使っている技術を実店舗に応用して、カメラで取得したデータを生成AIにかけてインサイトを抽出するなど、すでにある技術の組み合わせで価値を生み出すような使い方はうまいかもしれないですね。

鳥井:最近読んだ記事で、Walmartが生成AIを使って膨大な製品カタログを更新したことで、従来の人手作業と比べて100倍もの生産性向上につながったというユースケースがありました。生成AIが製品の属性や特徴を迅速かつ正確に自動追加することで製品ページの更新にかかっていた時間を大幅に短縮し、顧客は欲しい商品をより簡単に見つけられるようになるなど、買い物体験の向上につなげているようです。

橘髙:面白いですね。だから技術自体は最先端のものでなくても、ビジネスのユースケースに適応させるという意味で最先端を走っているのがWalmartですよね。

鳥井:リテール業界だと、ECの商品情報を生成するとか、画像生成をするなどのAI活用は日本も米国も成熟しつつある印象ですが、小売のバックオフィス業務のDX領域と生成AIの相性はすごく良いと思いますので、今後いろいろな動きがどんどん出てくるような気がしています。

――ありがとうございます。今後の動向にも要注目ですね。また面白い情報があればnoteでも発信していきたいので、ナレッジをシェアしていただけるとうれしいです。本日はありがとうございました。

●第1回記事はこちら

●第2回記事はこちら