加速する調剤のデジタル化。選ばれる店になるための“患者接点DX”とは?
「処方箋医薬品」を受け取る時に利用する調剤薬局。
自宅や職場、通院先の近くの薬局だけでなく全国どこでも利用することができるようですが、最近ではドラッグストアに薬局が併設され、買い物ついでに薬を受け取ることもできるようになっています。また、Amazonがオンライン服薬指導から処方薬の配送までを利用できるサービスを開始するなど、デジタル技術を活用した処⽅箋医薬品の宅配や処方箋の事前受付による待ち時間短縮といった、様々なニーズに合わせた幅広いサービスが登場しています。こうした調剤業務のDX化は利用者へのメリットだけではなく、業務効率化としても期待されているようです。
今回は、調剤DXの現状について「販売革新」編集部さんにレポートいただきました。
調剤業務の効率化、患者サービスの向上に向けて
デジタル技術の活用で調剤業務を効率化し、品質を向上させる取り組みとして、調剤業務のDX化を進める「調剤DX」「薬局DX」が加速しています。
その目的は、主に以下の通りです。
電子処方箋を推進して医師、薬剤師の仕事の効率アップとミスを防ぐ。
紙の処方箋を電子化することで、調剤薬局の業務効率をアップするとともに、薬を受け取る患者の利便性を高める。
正確で迅速な情報のやり取り、共有を進めて説明不足や指導内容の間違いなどミスを防ぐ。
AIを用いた薬歴管理や服薬指導の支援、薬剤の相互作用のチェックを行う。
患者がオンラインで薬剤師に相談できるシステムを導入し、利便性や負担を軽減させる。
調剤DXによって、医者と薬剤師の業務効率化、患者サービスの向上、処方ミスの削減などが広がることが期待されています。
医薬分業と地域包括ケアの推進
背景にあるのは、医薬分業の流れです。医薬分業とは、診療して処方箋を発行する「医療機関(医師)」と、その処方箋に基づいて薬を調剤し患者に提供する「薬局(薬剤師)」に、業務を分ける制度のことです。それによって、薬剤師の服薬指導など患者のサポートの充実や、利便性の向上を図ることを目的としています。
特に後者の患者の利便性という点では、門前薬局と呼ばれている病院近くの薬局で受け取らなくても、住まいや職場の近くなど患者の都合のよい薬局で薬を受け取れるようになりました。
そして、2015年10月には、「患者のための薬局ビジョン」が厚生労働省から公表され、「かかりつけ薬局」が、患者の健康生活を支援するための重要な拠点としての役割を果たし、地域包括ケアを進めるといった道筋を示しました。
高齢化が進む中、かかりつけ薬局などが医療機関と連携して、医療、予防、介護、健康生活の支援を一体的に行い、地域住民が自立した生活が続けられるような地域包括ケアが重要視されているのです。
また、こうした取り組みが、自ら健康管理を行い、症状によっては医療機関に頼らず自分の判断で市販薬などを使って病気を治すなど、セルフメディケーションを推進することにも繋がるとされています。
このような動きの中で、特に電子処方箋の普及や調剤業務のデジタル化を推進し、効率的で的確なサービスを提供すること、さらに患者の薬歴や健康情報を医師、薬剤師、そして患者で共有し適切に情報を管理することで、適切な服薬相談、健康相談、予防医療、生活習慣の改善などに役立てる動きが進んでいます。
進む処方箋の電子化
調剤DXの要となるのが、電子処方箋と電子処方箋管理サービスです。
主な機能は3つです。
電子処方箋の発行と送信
患者の同意を受けて医師が電子処方箋を発行し、システムを通じて、患者が薬の受け取りを希望する薬局に処方箋のデータを送信します。処方箋の管理と共有
薬局が電子処方箋を受け取り、調剤準備を開始します。患者は、マイナポータルや電子版のお薬手帳アプリを使って、薬の準備状況を確認できます。処方履歴の保存と参照
過去の処方履歴、調剤内容がデジタル保存されることで、医療機関や薬局は必要に応じて患者の処方歴を確認できます。
こうした処方箋のデジタル化が進むことで、医療機関、薬局の業務効率のアップと患者の利便性が向上するとともに、旅先などで急に治療を受けるような際に医師が薬歴を確認することで、薬の飲み合わせなどをチェックして薬を処方できます。
なお、処方箋のデジタル化は患者の同意があって進められるもので、電子処方箋管理サービスの運用もこれからです。マイナンバーカードとの紐付けなど、いくつかの問題点も指摘されていますが、医師、薬剤師、そして患者にとってメリットは大きいものがあります。
電子処方箋管理サービスの概要
競争が激しくなる中、患者接点のデジタル化が鍵に
厚生労働省によれば、日本国内に薬局は約6万軒(令和2年の推計)あり、ほぼコンビニと同程度の店数がありますが、近年、薬局の多店舗化が進み、20店舗以上を経営する企業が増えています。つまり小売店と同じように、少しずつではありますが、チェーン化が進んでいるのです。
調剤薬局を併設するドラッグストアも増えています。ウエルシアホールディングスやツルハホールディングス、マツキヨココカラ&カンパニーをはじめとしたドラッグストアの店舗数は約2万3,041店(日本チェーンドラッグストア協会 2023年調査)で、ドラッグストアの店舗は増え続けています。調剤併設率は、スギ薬局81.8%、ウエルシアホールディングス75%と、こちらも増えています。
このように、店舗数も調剤併設率も伸びているドラッグストアですが、「かかりつけ薬局」としての方向を示すとともに、処方薬だけでなく、一般医薬品や食料品、日用雑貨にコスメなどもワンストップで購入できるドラッグストアが増えたことで、調剤専門薬局との競争は一気に過熱しています。
競争が激しくなる中で生き残るためには、サービスを充実させ、患者から選ばれる存在になることが重要になります。
そこで今、調剤DXの中でも特に注目されているのが患者接点のデジタル化です。
患者接点のデジタル化
かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師が地域に増えると、サービスに差が生まれ一般の小売店と同様、利便性や接客サービスに向けられる患者の目は厳しくなり、より便利で親身になってくれる薬局が求められることが予想されます。
特に、健康相談が増えて、24時間対応を求められるようになることも考えられ、薬局、薬剤師の負担を軽減しながら、服薬や健康に関する相談をオンラインで行うなど、患者支援サービスの充実が期待されます。
こうした中、調剤薬局を併設するドラッグストアチェーンが、処方箋送信サービスの導入や、お薬手帳の電子化、オンライン服薬指導などのシステム化を進めています。
特に患者接点でのデジタル化で注目したいのは、LINEを使った処方箋の受付です。サイバーエージェントが100%出資する株式会社MG-DX 代表取締役社長の堂前紀郎氏は次のように指摘します。「DX推進のステップとして、まず考えるべきはデジタルでの顧客接点をどのようにつくるかです。そのデジタルシフトの入り口としてまず活用したいのがLINEです。今やLINEはわれわれの生活に溶け込んでおり、利用しない日はないとまで言えます。さまざまな飲食店や小売店がLINEで顧客接点をつくり、マーケティングに活用しています。調剤領域でも、デジタル化を考える上では積極的に活用するべきです」と販売革新の取材で語っています。
LINEは、日本人口の約7割が利用し、十分に認知されているコミュニケーションツールであり、LINE公式アカウントを有効に活用することがポイントの一つになるのは間違いありません。また、LINE公式アカウントのメニューに調剤サービスへの動線を設けることで、LINEで友だち登録をするだけで、調剤機能を簡単に利用することができるようになります。
ちなみにLINEミニアプリは、LINEのアプリが持つ機能の一つであるため、すでにLINEを利用していれば、新たにアプリをダウンロードせずに利用を開始できます。
こうしたことから、調剤併設ドラッグストアでは、販促にすでに活用しているLINEを調剤でも活用する動きが広がっています。
他方、薬局やドラッグストア専用のモバイルアプリは、ダウンロードしてインストールする手間があり、またスマホの画面上に多数のアプリがある状態を嫌うユーザーも多いようです。
実際に、LINEで調剤サービスを利用したユーザーは、非LINEユーザーと比較して、来局回数が多く、中にはモバイルアプリ型調剤サービスから、LINEミニアプリに切り替えた結果、処方箋獲得枚数が1.7倍に伸びたという結果もあるといいます。
そうしたことから、ウエルシア、スギ薬局、サンドラッグなど、大手ドラッグストアや調剤薬局チェーンが処方箋受付にLINE公式アカウントを活用しています。
患者接点で進むデジタル化
リフィル処方箋がドラッグストアの追い風に
2022年4月からリフィル処方箋が正式に導入されました。リフィル処方箋は、患者が同じ処方箋を複数回使用できるようにする制度のことです。これにより、慢性疾患などで長期間、同じ薬を服用する患者が、毎回、医療機関を訪れることなく、一定期間内であれば同じ薬を継続して受け取ることができるようになります。
リフィル処方箋が広がれば、処方してもらうために病院で受診する回数が減り、診察費や通院時間の削減にもなり、また、医師や医療機関の負担も軽減され、社会保険料の削減にも繋がります。
このリフィル処方箋が普及することで、これからさらに薬局の存在意義は大きくなります。調剤を併設するドラッグストアでは患者の来店頻度が上がり、調剤による売上が増える上、その他の商品の販売チャンスも広がります。
2024年6月に行われた診療報酬改定では、リフィル処方箋の発行を促す加算が要件化されました。このリフィル処方箋が普及すれば、地域密着を図りながら分業に対応することで、ドラッグストア・薬局に好機が生まれることでしょう。
そのためのポイントがデジタル化であり、今後の成長を左右するほどの重要性があると考えられます。
(取材・文:「販売革新」編集部)
処方箋のデジタル化が進む中で、これからの薬局やドラッグストアに求められる顧客接点のDXについてレポートしていただきました。デジタル上で顧客接点を作るための手段として、国内の利用者数が多いLINEを活用している事例が印象的でしたが、スマホ画面にいろんな薬局やドラッグストアのアプリが並ぶことを煩雑に感じる人もいると思うので、顧客体験としてもLINEの活用は理にかなっていると言えそうです。
その一方で、買い物で日常的に利用されやすく専用アプリも整備されているドラッグストアチェーンは、すでに強力な顧客接点を持っていると考えることもできますし、その資産を調剤の分野でどのように有効活用していくのかが気になるところです。地域に根付いた薬局は今後どのような生き残り戦略を打ち出すのか、デジタル活用も含めて注目していきたいと思います。