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にわかに注目度を高める、もんじゃ焼き業態のポテンシャル

「昔ながらの佇まいと料理がいい」「もんじゃといえば下町」など、お店にはそれぞれ“定番”のイメージがあるかと思います。そのような定番を求めてお店を探すのも楽しみの一つですが、逆に良い意味での“裏切り”を期待したり、新しいコンセプトに惹かれたりすることはありませんか?
そのような消費者の期待だけではなく、新たな客層へアプローチするため、様々な可能性にチャレンジする飲食店が出てきているようです。今回は既存の形態とは異なる「もんじゃ焼き」を展開する2つのお店に注目し、その戦略と可能性を「飲食店経営」副編集長 三輪大輔さんにレポートいただきました。

コロナ禍以降、おにぎりやうなぎ、ちゃんぽんなど、大きな注目を集める業界が増えています。もんじゃ焼きもその一つです。今回、「もんじゃ酒場 だしや」と「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」という二つのブランドの提案と戦略から、もんじゃ焼き市場の新しい可能性を探っていきたいと思います。

立地と客層の常識を覆した「もんじゃ酒場 だしや」

「もんじゃ酒場 だしや」は、株式会社FS.shakeが運営するブランドです。同社はメインブランドの「大衆居酒屋 とりいちず」でよく知られていて、コロナ禍でも積極的な展開を行い、存在感を高めました。「もんじゃ酒場 だしや」は二本目の柱となるブランドとして、現在、店舗数を伸ばしています。池袋や新宿といったターミナル駅だけでなく、大船(神奈川・鎌倉)や蕨(埼玉・蕨)、目白(東京・豊島)、駒込(東京・北)といった住宅地に近い立地でも展開し、大きな人気を集めています。

「もんじゃ酒場 だしや」の店内の様子。席間も広く、
ゆったりと過ごせる空間を確保している

「もんじゃ酒場 だしや」の大きな特徴は、もんじゃ焼きと居酒屋をミックスさせており、既存のもんじゃ焼き店とは一線を画した業態になっている点です。象徴的なのが、もんじゃ焼き店にもかかわらず食べ放題、飲み放題を行っていることではないでしょうか。

こうした提案を行う背景には、ブランド開発の時に既存のもんじゃ焼き店が抱える課題の解決を目指したことがあります。誤解を恐れずにいうと、これまでのもんじゃ焼き店は、どのお店もだいたい同じようなメニューとドリンクを提供していて、料理のクオリティや提案の幅などで勝負をしている店は多くなかったのが事実です。そこで同ブランドではもんじゃ焼きを「鉄板料理」と定義づけ、大きな差別化を実現しました。

「明太餅もんじゃ」は“王道もんじゃ“として根強い人気を誇る

鉄板料理と定義付けて、メニューの提案を行う際、ネックになったのが一組に対して鉄板が基本的に一つしかない点です。もんじゃ焼きも食べたいけれど、イカ焼きやコーンバターなどをつまみながら食べたいと思っても同じ鉄板で焼かないといけません。そうなると一品ずつ料理せざるを得なくなり、もんじゃ焼きを食べるまで時間がかかってしまいます。そうした課題を解決するため、同店はスキレットなどを活用し、きれいな鉄板でもんじゃ焼きをしながら、つまみメニューを同時並行で焼ける工夫をしました。

その結果、看板メニューのもんじゃ焼きの他に、“隠れ名物”として「今治焼鳥」の提案を行うことができています。同社の「とりいちず」は鶏料理専門の居酒屋です。骨付鳥をはじめ、唐揚げや水炊きなどのメニューを提供していますが、その中に「今治焼鳥」もあります。つまり、もんじゃ焼きを鉄板料理と定義付けることで、同社の人気アイテムをスムーズに提案できたということです。それが集客力の強化につながっているのは間違いありません。

日本三大焼き鳥に数えられる「今治焼鳥」は
「皮焼き」「鶏もも」「ぼんじり」などメニューも豊富

もちろん、もんじゃ焼きの提案にもこだわっています。「明太餅もんじゃ」などの王道メニューだけではなく、「カマンベールチーズペッパーもんじゃ」や「大葉香るシラスたっぷりのもんじゃ」といったかわり種もんじゃの人気も高いです。また、「餅チーズもんじゃ」や「アボカドチーズもんじゃ」などのチーズを使ったメニューにも力を注ぎ、女性客の集客に結び付けています。

変わり種もんじゃは同店の名物として人気で、
特に「カマンベールチーズペッパーもんじゃ」はオーダー率が高い

なお、当初はフルサービスで、スタッフがもんじゃを焼いていました。しかし、現在はスタッフの労力を削減するため、お客様がセルフで焼く場合は100円引きにするサービスを行い、大半のテーブルが利用しています。その効果について、同社代表取締役の遠藤勇太氏は「平均組客数は3〜4人で、お客様が焼いた方がテーブルが盛り上がります。そのため客単価は下がらず、人件費の軽減につながりました」と話しています。

これまで、もんじゃ焼き店というと、目的来店のお客様が多いので、なるべく交通の便のいい駅に出店しながらも、家賃は抑えるために空中階を選ぶというモデルが正攻法でした。しかし、「もんじゃ酒場 だしや」は都心の一等地でウォークインのお客様もたくさん集客しながら経営を成り立たせています。また、固定のファンをつかみ住宅街でも安定した経営を続ける店があるなど、もんじゃ焼きという業態に新しい可能性を切り開きました。現に、池袋西口駅前店は50坪100席で月商1,500万円、調布店は50坪100席で月商1,100万円に達するほど高い売り上げをたたき出しています。

だしやはメインブランドの「大衆居酒屋 とりいちず」よりも間口が広く、家族連れでも来やすい業態です。家族で来店されると、焼き肉や回転寿司に行くのと変わらない価格にはなるので、そこだけを比べると、もんじゃは分が悪いかもしれません。しかし、月島に行って、もんじゃを食べるよりかはコストパフォーマンスははるかに高いです。

そうした背景を踏まえて、今後の展開について、遠藤氏は次のように話しています。

今後、ターミナル駅とベッドタウンで店名を分けていく予定です。ベッドタウンの店名からは「もんじゃ酒場」を抜いて、「月島もんじゃ」というショルダーを付ける一方で、ターミナル駅では、そのまま「もんじゃ酒場」で展開を行っていきます。それぞれでメニューの内容などは変わりません。ただ、エリアに合うイメージにすることで、集客の最大化を目指していきたいと思っています

Z世代に刺さる「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」の提案力

「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」は株式会社ダイナックが展開するブランドです。ダイナックというと都市部での大規模宴会に強いというイメージを持っている人は多いでしょう。しかし、コロナ禍をきっかけに社会環境が大きく変わる中、同社も大きな変化を遂げました。

その一つが、新業態の開発です。これまで同社が展開するブランドは、都心の一等地にあり、割と規模の大きな店舗が多い傾向がありました。また、アルコール比率が高く、お客様の年齢層も50代以降が多かったため、コロナ禍で大きなダメージを受けました。そうした経緯もあり、2021年からは既存業態のリブランディングや新業態開発を積極的に実施。「純けい焼鳥 ニドサンド」や「鮨ト酒 日々晴々」など、これまでの同社にはない提案を行ってきました。そうしたブランドの中に「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」もあります。

もんじゃ焼き店とは思えないおしゃれな外観で、若者から高い人気を集めている

「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」は、Z世代からミレニアル世代向けに、プライベート需要を満たす業態を開発の軸としています。最大の特徴は、だしにエビだしを使うことです。店内でエビ殻や野菜を炊いて作る、濃厚なエビだしが味の決め手となっています。

「元祖海老出汁 もんじゃ」は海老出汁の魅力を存分に味わえる、
同店の象徴ともいえるメニュー

もんじゃは1枚目をスタッフが焼き、それ以降はお客様が焼くスタイルです。焼く体験をしてもらいたいという狙いで、全てのもんじゃは二次元バーコードを読み込むと、動画で作り方を視聴できるようにしています。

メニューではもんじゃ焼き以外にも、鉄板を活かした「あれこれ巻ける たまご焼き」や「海老トースト チリソースホイップ」などを用意し、今までのもんじゃ焼き店とは一線を画す提案をしています。

つまみ系のメニューも豊富で、幅広いシーンで利用することができる

また、フローズンをたっぷりのせて、レモンやジンジャーの自家製シロップを使用した「みぞれサワー」や、パイナップルを大胆に半分使用した「えびせんのジャンボ生搾りパイナップルサワー」など、ドリンクにも力を入れています。もんじゃ焼きのお店としては、かなりアルコール比率が高く、SNSに上げている方も多いです。

運営元のダイナックがサントリー系列とあって、
ドリンクの提案は俊逸で、SNS映えするものも多い

メニュー提案の成果は客単価にも結びついていて、2人でもんじゃ1〜2枚、サイドメニュー3〜4品、ドリンク4杯で客単価は2,700円を獲得。アルコール売上比率はなんと44%を占めています。

これまで当社が展開する業態は、大規模な宴会ニーズに応えていたこともあり、たくさんの社員を抱えていました。しかし、人手不足と人件費の高騰は深刻な状況です。その中で、もんじゃのえびせんは、1枚目はスタッフがもんじゃを焼くのはもちろん、二次元バーコードを読み込むと、全てのもんじゃの作り方を動画で確認できるようにしており、少ない社員数で回すことができます。また、もんじゃは全世代に受け入れられるコンテンツで、お客様満足度を下げずにしっかりとコストをコントロールできるモデルになっているので、これまでのように東京の一等地に出店する必要がありません。郊外や沿線の駅でも勝負できます。お客様に手頃感のある価格で楽しんでもらうためにも、家賃を抑えられるメリットは大きいでしょう。

「もんじゃ酒場 だしや」と「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」の2ブランドが牽引し、従来とは異なった、新しい市場がつくられそうなもんじゃ焼き業態。これから、どんな広がりを見せていくのか、非常に高い関心が集まっています。

(取材・文:「飲食店経営」副編集長 三輪大輔)

「もんじゃ酒場 だしや」と「元祖海老出汁 もんじゃのえびせん」、それぞれのブランド戦略から、もんじゃ焼き市場の新しい可能性をご紹介いただきました。魅力的なもんじゃ焼きメニューの開発に加えて、既存の他ブランドの人気メニューを取り入れる、親会社の飲料の強みを活かすなど、自社やグループのアセットをうまく組み合わせて独自性を高めているところが印象的です。
住宅地の多いエリアや郊外で勝負できる店舗づくりや、お客様自身で焼く手間を“お得感”や“エンタメ”に変える仕組みなど、顧客満足度を下げずにコストを抑える取り組みにも創意工夫が感じられます。こうした新興勢力はもちろん、老舗も含めてもんじゃ焼き市場がどのように発展していくのか、今後も注目していきたいと思います。