リアル店舗で訴求する新商品は人の接客か、アバターか、デジタルサイネージか?
家や職場の近くに何店舗かコンビニエンスストアがあるのに、なぜかいつも行くお店が決まっていることはありませんか? 何気なく通っているお店にも、自分なりに購入しやすい・商品を選びやすいなど、ついリピートしてしまうポイントがあるように思います。
そのようなお客様を獲得すべく、コンビニ各社でもたくさんの商品が、より多くのお客様の目に留まるような工夫をしているようです。
今回はそんな各社の取り組みを、「販売革新」編集委員の梅澤聡さんにレポート頂きました。
コンビニでは毎週約100アイテムの新商品が発売されています。特に8月後半から9月にかけては、季節を感じさせる菓子や飲料、秋冬に必要な日用品など、多くの新商品が店舗に投入されます。何気なく入ったコンビニで、今日発売になったトレンドのスイーツや、有名ラーメン店とコラボした新商品をお店の人に薦められれば、つい手を伸ばしてしまいます。
コンビニ各社は新商品や重点商品をどのように訴求しているのでしょうか?
お客様との新たなコミュニケーション手段を模索
コンビニは同じお客様が同じ店に高頻度で来店します。週に何度も来店するお客様を飽きさせず、買上点数を高めていくためには、鮮度の高い売場づくりが求められます。
そこで、新商品、とりわけ重点商品を売場で目立たせて、お客様の目に留まるように工夫をします。単品のフェースを広げたり、気の利いたPOPを置いたり、入り口の上に横断幕を取り付けたり、入り口近くに幟(のぼり)を立てたりして、お客様の視界に訴えかけます。
コンビニの基本はセルフサービスです。お客様は自由に店内を回遊して商品をピックアップします。ただし、スーパーマーケットと異なり、カウンターでレジ精算をする従業員は、お客様の方を向いています。お客様の入店時とレジ精算時が、お客様と接する数少ない機会であり、売り込む意志の強いお店は、お客様に声を掛けて、新商品や重点商品をお薦めします。
そのお薦めを実施する従業員のスキルを高める一方で、最新デジタルを駆使したアバターによる接客、さらにはデジタルサイネージを用いた訴求など、お客様との新たなコミュニケーション手段が用いられています。大手コンビニチェーンの最新動向より見ていきましょう。
セブン-イレブン初の全国接客コンテスト
セブン-イレブン(・ジャパン)は2023年6月、東京・千代田区の会場で「第1回接客コンテスト全国大会」を開催しました。同社によると、本コンテストは加盟店オーナーより寄せられた「活躍されている従業員の皆様を評価する場を設けてほしい」といった多数の意見が、開催のきっかけになっています。
22年10月より地区予選を開始。研修の受講など、一定の条件を満たした3,030人の加盟店従業員の中から22人が全国大会に選抜され、お客様へのお薦め接客を実演しました。
発表の流れは次の通り。持ち時間は3分、内訳は「接客6大用語」1分、「接客」2分、レジ操作、および袋詰めはせず、接客では「私の自慢の商品1品」を、お客様に案内します。「お客様想定」 は82歳・女性・常連客・一人暮らし・少し足が不自由としました。
まずは本稿のテーマである商品のお薦めについて、全国のセブン-イレブンで接客No1.に輝いた、長岡市(新潟県)の店舗従業員、小西碧さんによる接客トークを見ていきます。
「私の自慢の商品1品」の狙いは、店員とお客様とのより良い関係性構築
コンテストの審査は、話し方や笑顔、全体の印象など、さまざまな要素が加味されるため、お薦めトークの中身だけにはとどまりませんが、高齢者への配慮を忘れず、お薦め商品のメリットを分かりやすく説明し、お客様への感謝の気持ちを、さりげなく随所に表現しています。
こうした接客の重要性について、セブン-イレブン本社の担当者は次のような趣旨のコメントをしています。
「省人化が進めば進むほど、人にしかできない仕事があります。その一つが接客であり、接客は日本が世界に誇れるおもてなし文化。海外からの観光客にも高い評価を得ているとして、セブン-イレブンは商品にしても、接客にしても、さらに磨きをかけてグローバルに展開していきます」
接客コンテストのテーマに「私の自慢の商品1品」を設定したのも、新しい商品、重点商品を売り込むには、従業員の意志が必要であり、前提としてお客様との日頃の良好な関係性を重視しているからでしょう。
アバターオペレーターが目指す、接客の質向上と効率化
もちろん、他のチェーンもセブン-イレブン同様に、接客を軸に商品をお薦めするオペレーションを組んでいます。ローソンでも、自慢の「からあげクン」や、スイーツの新商品を積極的にお薦めする光景も見られます。その一方でローソンは、アバター事業を手掛けるAVITA社と協業してCGアバターを活用した、お客様との新たなコミュニケーションを展開しています。
22年11月、東京・豊島区にオープンした「グリーンローソン北大塚一丁目店」で、アバターオペレーションによる接客を導入。23年3月、大阪・豊中市の「パークローソン千里店」、6月29日からは福岡市の「ローソン博多東比恵三丁目店」に導入し、実証実験を行っています。
店舗とは別の場所にいるアバターオペレーターが、お客様とオンライン上で接客する取り組みで、カメラに向かって、身振りを交えて話をしますが、姿形はCGアニメ、声もボイスチェンジャーで自分とは異なる設定にでき、新商品の販促を試みたり、お客様のお困り事に対応したりします。
ローソンによると、アバターの導入により時間や場所、年齢や性別、さまざまな障害といった制約のない働き方ができるといいます。また、1人のオペレーターが複数店を受け持つなどの効率的な人員配置により、人手不足の解消にもつなげていくとしています。
最初にオープンした「グリーンローソン」ではCGアバターの画面を4カ所に設置して、それぞれに役割を持たせました。一つ目はレジ操作の仕方に迷うお客様へ説明するアバター、二つ目は店舗の入り口で「いらっしゃいませ、ようこそ」といったフレンドリーな挨拶をするアバター、三つ目は店内の入り口に近い場所で案内役を果たすアバター、四つ目は「商品お薦めアバター」。オープン時はチルドデザートの什器の上で、“イチ推し商品”の紹介などを実施していました。
ローソンはチルドデザートの売上が高いので、一人のアバターがそれらの商品と訴求ポイントを熟知し、仮に数十店規模でお薦めができれば、非常に効率の良い販促になるかもしれません。コンビニの業務は多岐にわたり、従業員一人一人に商品知識が十分に行きわたっているわけではありません。一方のお客様の側も、商品知識が必要とされるような問いを発しません。
アバターオペレーターの出現によって、百貨店並みの新商品、重点商品の「お薦め接客」が、一部の商品で可能となるかもしれません。
巨大デジタルサイネージによる「お薦め」で、来店客数が増加!
新商品や重点商品のお薦めに対して、ファミリーマートはカウンターの上部に設置したデジタルサイネージで補強しています。このサイネージを「ファミリーマートビジョン」と呼び、24年2月までに累計1万店に設置する計画です。現状は来店客の視聴率は65~70%あり、この数字をさらに高めていくとしています。
ファミリーマートによると、これまでのサイネージが“人を待つサイネージ”だとすれば、ファミリーマートビジョンは、番組枠を持つことで“人を呼び寄せるサイネージ”と捉えています。実際に設置店舗と非設置店舗を比較すると、設置店舗の方が1日当たりの来店客数が2〜3人多いといったデータも出ているそうです。
販促メディアの役割としては、23年3月から売場連動企画をスタート。カウンターフーズの「ファミチキ」と清涼飲料水の併売キャンペーンを、ファミリーマートビジョンで告知して実施したところ、実施前、実施後の比較において、併売率が通常の6~7倍の増加を記録しています。
この企画に関して、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミマ独自のスマホペイ「ファミペイ」で広告も打ったところ、販売係数が高くなるといった結果が出ています。こうしたクロスメディアの効果を活用しています。
ファミリーマートに限らず、他のコンビニチェーンでも自社のアプリ上でクーポンを配信し、集客を図っていますが、リアル店舗に何気なく来店したお客様に対して、巨大なデジタルサイネージにより「お薦め商品」を告知する方法は、これまでの従業員による新商品や重点商品の「お薦め」の一部を代替する機能を有しています。
人によるリアルな接客を強化するのか、アバター接客も導入するのか、デジタルサイネージで一部を代替するのか、リアル店舗の店内販促は、さまざまなアプローチで活性化を図っています。
(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)
大手コンビニ3社が実践する、接客や商品レコメンドの新たな取り組みをレポートしていただきました。人にしかできない“おもてなし文化”の接客に磨きをかけるセブン-イレブン、アバターとロボットを導入することで効率化だけでなく、新たな価値創出を目指すローソン、カウンター上部の巨大デジタルサイネージで接客業務の一部を代替し、来店客向上やキャンペーンの併売率向上を実現するファミリーマート。同じコンビニチェーンでも注力するポイントが三社三様で異なっているところが興味深く、それぞれどのような発展を遂げるのかが非常に楽しみです。コンテスト開催やテクノロジー導入、番組制作など、いずれも費用や工数などのコストが発生すると思いますので、費用対効果やコストパフォーマンスも気になるところです。さまざまな各社の取り組みを通じて成果や変化が生じるのか、引き続きウォッチしていきたいと思います。