攻勢に転じるコンビニの令和版「業態革新」
食品から調味料、日用雑貨まで生活に必要なものがひと通り揃い、生活ニーズに対応したサービスや各社オリジナル商品を展開するなど、私たちの生活に欠かせない存在となっているコンビニエンスストア。
その一方で競争も激しく、次なる成長施策としてデリバリーサービスやリテールメディアなど新しい業態にチャレンジする動きが出てきているようです。コンビニ大手3社の新しい取り組みについて、「販売革新」編集委員 梅澤聡さんに解説いただきました。
既存の枠組みを超える業態革新に期待
チェーンストアの成長を測る上で重視すべき指標の一つが「店舗数」です。その店舗数の伸長がコンビニ業態全体で停滞気味です。コンビニ加盟店の売上と利益が伸長していれば、近くの立地にもう1店舗の出店が可能となりますが、現状は人口減少や他業態との競争激化によって店舗あたりの売上が伸び悩むようになり、創業から2010年代までのように店舗数を積極的に増やす環境にはないということです。
創業から半世紀、コンビニ業態は価値ある商品を次々と繰り出すことで、人々の支持を得てきました。おにぎり、弁当、サンドイッチ、パン、スイーツ、袋惣菜、カウンターで販売する揚げ物、肉まん、コーヒーなどが、食生活を便利で豊かにしていきました。
しかしながら、商品開発に頼るだけでは、次世代の成長が見えてこなくなりました。人口減少と高齢化、過疎化、さらに食品強化のドラッグストアやネットスーパーなど新しい競争相手が増加する中で、既存の枠組みにとらわれない、コンビニ業態の革新が求められています。その新しい取り組みを見ていきます。
7NOWの客単価は実店舗の約3倍に伸長
業態革新の一つは「お届けサービス」です。
セブン-イレブンは、お届けサービス「7NOW(セブンナウ)」を24年8月までに計26都道府県で約1万6,000店に展開、25年2月末までに、全国の約2万1,600店舗に推奨するとしています。
7NOWのサービスは、専用のアプリケーション、もしくはwebサイトから注文を受けると店舗の専用端末に情報が届けられます。加盟店の従業員は売場に出て注文があった商品をピックアップ、作業が完了すると、マッチングした配送業者が店舗まで商品を受け取りに来る仕組みにしています。
注文を受けた店舗の従業員が自らお届けするケースもありますが、配送の多くは業者によるもので、「ピックゴー」や「Uber Direct」などに登録するギグワーカーも多くを占めています。こうしたインターネット経由で単発の仕事を請け負うギグワーカーの増加が、7NOWの全国展開を推進しています。
商品は、店舗の専用端末で受け付けてから、お客のもとまで最短20分でお届けします。1年前は最短30分でしたが、オペレーションの円滑化が進み10分の短縮を可能としました。
配送エリアは店舗を基点に半径500m圏内、一部エリアによって最長2㎞くらいまでとしています。品揃えは店頭とほぼ同等の3,000アイテムを用意。切手や収入印紙といった非課税商品はオーダーを受け付けていません。
オーダー画面と実在庫の連携については「セブンCENTRAL」という既存の仕組みを使って、今まさに店舗にある在庫をリアルタイムで注文サイトと連携し、実在庫の商品の中から選択できるようにしています。お届け時間は9時から23時を基本とし、24時間対応は不可としています。エリア特性により朝7時から稼働している店舗もあります。支払いは現金を受け付けず、クレジットカードかバーコード決済としています。
懸案は価格です。お届けサービスの利用者は、どれだけのサービス料金の上乗せを許容するのか、セブン-イレブンは慎重に実験を続けてきました。
その結果、最低注文金額は1,000円(税抜)から。配送料は1回につき110円(税込)~550円(税込)、商品の価格は一物二価、すなわち店頭のほぼ2割増しの単価を設定しています。店頭より単価は割高で、加えて配送料も掛かりますが、お客のニーズは高いと見て、全国展開に向けて走りだしたのです。
7NOWの使われ方の特徴として、客単価が店頭の平均752円に対して7NOWが約3倍の2,234円。買上点数が店頭の平均3.22点に対して、7NOWは約2.7倍の8.57点となり、まとめ買いの傾向になっています(24年7月4日発表)。配送料は量に関係しないので、“まとめて購入した方がお得”といった意識が働いています。
セブン-イレブン本部が強調するのは、7NOWが新たな利用シーンを創造しているということ。nanaco会員データから見て、それまで来店していたお客が、7NOWに単純にシフトしたわけではないと認識しています。
確かに、コンビニ店舗での買物は半ば習慣化されているので、実店舗を毎日利用していたお客が、そのまま7NOWにシフトするとは考えづらいです。クイックデリバリーに価値を見いだす、新たな利用シーンを開拓していると考えられます。
お届け完了通知を安否確認にする利用者
7NOWは、お客から一番近い店舗を在庫拠点として、店内のほぼ全ての商品をお届けする仕組みです。1店舗当たり800万円前後の在庫(筆者推計)を、近隣のお客にネットを介してつなげていく試みです。
「昨今Eコマースが進んでいく中でも、特に食品デリバリーサービスが大きく伸長しています。お客様の生活スタイルが徐々に変化していき、買物行動は、どんどんスマホに移行しています。そこで、“手のひらにセブン-イレブンを!”をテーマとして7NOWのサービスを推進しています」(セブン‐イレブン・ジャパン企画本部ラストワンマイル推進部マネジャーの由井大輔氏)
では実際に7NOWは、どのようなお客に利用してもらっているのでしょうか。
セブン-イレブンの実店舗の利用客層は、男性・女性がほぼ半々、年代は40代、50代が多いことを特徴としています。一方の7NOWは女性比率が65%、年代別では仕事や子育てで忙しい20代、30代、40代が多いことを特徴としています。
利用シーンはどのようなものでしょうか。セブン-イレブンは7NOWに関するアンケート調査を実施、大きくは4つのシーンに分けて検証しています。
1つ目は「利便性を重視し、時間を買うタイパ志向の利用」(38%)です。
例えば次のようなシーンを想定しています。
単身女性が家に帰ってきて、部屋着に着替えて、化粧を落とした後に、これが欲しい、あれが欲しいとなったとき、あるいはお酒を飲み始めている途中で、おつまみが足りないので、もう少し食べたく思ったとき。着替え直して、たとえ近くてもセブン-イレブンに買物に行くには面倒といった状況で、7NOWを利用するシーンです。
2つ目は「買い慣れた商品の購入」(28%)です。普段買い慣れた商品だからこそ、ネットでも安心して購入できるといった理由から、7NOWのサービスを利用しています。
3つ目に「体調不良時の対応」(25%)です。体調不良、けが、買物困難な状況で利用しています。風邪であるとか急な発熱、小さな子どもを抱えていて、すぐに買物に行けない状態の中で、7NOWを便利に利用しているのです。
4つ目に「家族の利用」(10%)です。前出の由井氏はアンケートの中から次のような事例を話します。
関東に住む子どもが、九州に住む高齢の両親に食料品や日用品を提供するために、7NOWのサービスを利用。特に高齢の両親にサービスを利用した場合、お届け完了通知がアプリに届くので、安否確認にもなっているといいます。
「お客様の日々の生活に寄り添って、気軽に使っていただけます。“お気軽デリバリー”をコンセプトにうたってサービスを進めているのです」(由井氏)
こうした利用シーンの拡大は、価格や配送料の上乗せを超える価値を提供していると見ることができます。セブン-イレブンが唱える「近くて便利」に、新しい生活シーンが加えられています。
店頭在庫の自動連係で利便性を向上
ローソンも「お届けサービス」に本格的に取り組んでいます。セブン-イレブンが自前のシステムを構築しているのに対して、ローソンは外部のデリバリーサービスを活用し、デリバリー対応店舗を一気に拡大、6,800店舗で稼働させています(24年7月末)。
19年8月に国内コンビニとして初めてとなる「Uber Eats」による商品デリバリーを開始。24年の4月からは「Uber Eats」アプリと店頭在庫の有無を自動連携させた機能を搭載し、商品お届けの精度向上と店舗での在庫確認作業を削減しています。
この在庫連携により、デリバリー商品の拡大を可能として、24年5月から6月にかけて、配送可能な商品数を700から3,000アイテムに拡大しています。
このリアルタイムの在庫連携は、7NOWと同様に大変重要です。コンビニの店頭は多品目・少量在庫により、商品を高回転させています。アプリの商品表示と店舗の実在庫に時間差が大きければ、注文した商品の欠品が多く発生してしまいます。その際、利用者と店舗との間に「やり取り」が求められ、それが両者にとって、大変なストレスになってしまいます。ローソンは、店頭在庫の自動連携により一気に利便性を向上させて、コンビニデリバリーで7NOWと競合することになります。
ネットとリアルを融合させた業態開発に挑む
もう一つの業態革新は、コンビニの「リテールメディア化」です。セブン-イレブン、ローソンが商品デリバリーを本格化する中、ファミリーマートは「お届けサービス」への参入を示さず、今はデジタル化に注力すべきとして、大手2チェーンとは一線を画し、リテールメディア戦略をとっています。
これまで大手3チェーンに関しては、商品やサービスの横並びが常態化してきました。しかしファミマは、他チェーンが持たない自社の決済アプリ「ファミペイ」を強みに、店舗のリテールメディア化を推進しています。その意味から、こちらも「業態革新」と位置付けてみます。
目に見えて分かりやすい例は、全国47都道府県で1万店舗以上に設置した、デジタルサイネージのファミリーマートビジョン(FMV)です。店内のレジ上にある大画面の3スクリーンが、さまざまなコンテンツを配信しています。ファミマは現在、約1万6,300店を展開、そのうち1万店舗への設置により、1週間で約6,400万人にアプローチが可能なメディアに成長させています。
このFMV設置店のうちの約3,500店舗では、上部にAIカメラを設置して視認分析も実施しています。FMVを見るゾーンに何人が入ってきて、そのうち顔を向けている人が何人いるのかを「視認率」と定義しています。その視認率は約63%で、3人に2人は見ていることになります。レジ待ちの間に見ているのか、店内のどこかで顔を向けているのか、これらをAIカメラは年代と性別を見分けて、コンテンツを提供した取引先にフィードバックしているのです。
これまでFMVはファミマのPOSデータ、ID-POSによる購買行動の分析、ファミペイアンケートによる来店者への調査などの活用により、効果測定可能なメディアとして展開してきました。これをAIカメラにより強化しています。
デジタルサイネージであるFMVが、来店客に対して直接的に商品を訴求する一方で、ファミマのアプリ「ファミペイ」については、店舗の外でお客とつながって来店を促しています。実際にファミペイ利用者の多くが、在宅時間や通勤時間にトップページを開いて、どんな新商品が出るのか、今は何が割引なのかをよく見ているといいます。
リテールメディアとして、FMVではシズル感のある動画を流しながら感性に訴えます。一方のファミペイでは、どれだけお得に買えるのか、情報をしっかりと流していくことで、FMVとのシナジー効果も期待しています。
「FMVでは番組を創って、常時動画を流しています。一方のファミペイは、お客様が自分の意思により、静止画からの情報をしっかりと取っています。動画やビジョンでは伝えきれない正確な情報を読み込んで来店されています。双方のメディアに役割の違いがあるのです」(ファミリーマート デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)
ファミリーマートは、リテールメディア化を実現するため3つの事業会社を設立しています。
第1に、購買データを使ったデジタル広告を担う「データ・ワン」。20年10月に、ファミマ、NTTドコモ、サイバーエージェント、伊藤忠商事の4社の合弁で設立した会社です。ここではファミマの店頭購買データを、広告配信、効果検証に活用しています。
第2に、前述のFMVを手掛ける「ゲート・ワン」。デジタル会員基盤のデータや顧客接点を活用しながら、店舗のメディア化を推進しています。
第3に、「ファミマデジタルワン」。「外部決済」と「金融サービス」に特化した会社として、ファミペイアプリの付加価値を高めるサービスを開発しています。他にも後払いの少額ローンや、Eコマースで使えるファミペイ残高に連動した「バーチャルカード」を開発しています。
ファミマは、これらデータ・ワン、ゲート・ワン、ファミマデジタルワンという“プラスワン”の価値創造を担う会社により、リテールメディア戦略を推進していくとしています。
誰もがスマホを持ち、多くは自宅と学校、会社を行き来しています。それら全ての時間帯に、どれだけ有益なコンテンツを顧客一人一人に配信し、次の来店を動機付けするのか。さらに来店した顧客に、デジタルサイネージの動画によって、ワクワクする、楽しい購買を促していくのか。お客のマインドシェアを高める、ネットとリアルを融合させた、新しい業態開発に挑んでいるといえるでしょう。
(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)
セブン-イレブンとローソンが推進するデリバリーサービス、ファミリーマートのリテールメディア展開について解説していただきました。デリバリーサービスについては、店舗の既存顧客をデリバリーにシフトさせるのではなく、新たな利用シーンを生み出して収益につなげているところが印象的です。
最近は物価高で消費者の節約傾向が高まっているという報道もありますが、ニーズや利用シーンに合致する便利なサービスであれば割増料金を支払ってでも使われる可能性があることを示唆しているのではないでしょうか。
リテールメディアについてはAIカメラによる視認率の計測やPOSデータ、購買データ等を活用した分析などによって、効果測定できるメディアへと進化しているのが興味深い点です。
デリバリーサービスもそうですが、データやテクノロジーを活用することで、いかに顧客体験の向上につなげるか、そして従業員に負荷をかけないオペレーションを確立できるかが今後も重要になりそうです。店舗数の拡大や商品開発だけに頼らない、コンビニの新たな業態革新の動きについて引き続きウォッチしていきたいと思います。