2021年 読書感想 「死者の奢り・飼育」
この記事を読まれる方は『まちライブラリー』をご存知でしょうか?
まちライブラリーは民間の図書館のような感じで、寄贈された本を借りることができます。また、利用者がまちライブラリーに本を寄贈することもできます。
ちなみに本のジャンルは小説、ライトノベル、子ども向けの絵本、雑誌、漫画、画集等々… お気に入りの本との出会いは一期一会ですが、色んな本を発見できる楽しさが魅力です。
まちライブラリーのホームページ
https://machi-library.org/
そして、まちライブラリーの醍醐味の一つとして、それぞれの本には『みんなの感想カード』が挟まっていて、読書の感想を自由にコメントすることができます。一番初めのページには、寄贈した方のコメントが記入されているので、「この方の一押しポイントは○○なんだなぁ~」とか、「こういう雰囲気のストーリーなのか」と思いながら読み始めたりします。
あえて感想を先に読まずに、読後に読んでみるのもアリです。
そんな感じで利用していたまちライブラリーですが、気づけば2015年からかれこれ6年間も通っていたことに気づき、、読んだ本の感想のなかで『みんなの感想カード』に収まらなかったことを、ぼちぼち書こうかなぁと思っております。
前置きが長くなりましたが、今回は最近読んだ本の中で、大江健三郎著の『死者の奢り・飼育』をおすすめしたいと思います。この小説は短編集で、「死者の奢り」「他人の足」「飼育」「突然の唖」「人間の羊」など、どれも閉じられた環境と人間の醜い面を描き出した物語となっています。
表題の「死者の奢り」は、大学生が、医学部の死体保管室にある広大なプールから死体を運びだすアルバイトを体験する話。アルバイトに応募したのは主人公の青年と、訳ありでお金が必要な女学生。二人はぶっきらぼうながらも自らの仕事に誇りを持つ管理人と出会い、生きた人間から「モノ」になった死体たちと対峙し、作業を開始します。しかし、彼らを待ち受ける結末は意外で、衝撃的なものでした。
また「他人の足」は、身体が不自由な子供たちが暮らす施設に、足を悪くした青年がやってくるところから始まります。青年が現れるまで、施設の子どもたちは外の世界を知らず、施設の看護師は子どもたちを性の捌け口にするような描写もあり、まるで施設内は快楽と諦念に満ちた楽園のような世界でした。しかし、青年は身体にハンディがあったとしても。世の中を知り、政治に参加すべき、と子どもたちを励まし、啓蒙してゆきます。そんななか、青年の足は次第に回復し、施設を出ることになるのですが…。最後に残る無力感が余韻を残します。
「飼育」「突然の唖」は、どちらも日本の閉塞的なコミュニティに、異質な存在である外国人が突如現れるストーリー。現代のように(まして当時の時代を考えるに)多様な文化を理解するだの、翻訳アプリでなんとか会話するだの、ともいかず、異質なものは異質なものに過ぎず、好奇の目を向ける一方で無関心な村人の冷酷さにぞわぞわとします。
「人間の羊」は現代に置き換えると、「SNSでヤバい人に絡まれて無視してたら『なんで通報しないんですか?』と別の粘着系クソリプ攻撃を受ける」みたいな気持ち悪さのあるお話です。当然ながら本編にSNSなんぞは出てこないので、読んだ人で私の言わんとしていることが解ってくれたら嬉しいです。
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