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[アーティスト田中拓馬インタビュー6] 田中拓馬が思う怖い作品とは!?

このページは、画家・アーティストの田中拓馬のインタビューの6回目です。今回は、“怖い作品”について田中拓馬に語ってもらいました。
(これまでの記事は、記事一覧からご覧ください。)

今回の内容
1.フェルディナント・ホドラーのすごい絵!!
2.フランシス・ベーコン/内面の鬱々としたところが面白い!
3.画家はなぜ怖い絵を描く?
4.田中拓馬が怖いと思う絵は実は…

 ー ムンク以外にも、怖さを感じさせる画家っているかな?
拓馬 スイスの画家で、ホドラー(※)っていう人がいるんだけど、すごい絵があって、(タブレットを見せて)これこれ。「夜」っていう作品ですね。亡霊みたいなのが、寝ている人のところに襲い掛かるみたいな絵なんだよね。
(※ [フェルディナント・ホドラー]  スイスの画家。19世紀末に活躍。象徴主義の代表的作家。世紀末芸術の巨匠と言われる。)

ホドラー_夜

フェルディナント・ホドラー《夜》ベルン美術館

 ー これは怖いね。
拓馬 これは面白い絵ですよ。力作中の力作で、ホドラーの代表作だね。ホドラーはこの絵を描いたことで、美術展から締め出されたんですよ、こんな気持ちの悪い絵を描きやがってっということになってね。それで、頭にきて、自分で場所を借りて展示したんだよね。そうしたら、そっちの方が美術展よりも入場者が多かったという話がある。
 ー それは素晴らしいですね(笑)
拓馬 素晴らしいよね(笑) そんな力があるんだ、ホドラーすごいなって思った。
 ー この絵の寝ている人に覆いかぶさっている黒いのは何なんだろう?
拓馬 亡霊みたいなものですよ。夜に寝ているところに襲い掛かってくる亡霊みたいな。
 ー うーん。
拓馬 これはすごい問題提起が強くて、人間の不安心理というかね。「夜」ってそういうところじゃないですか、怖いじゃないですか。そういうことに関する作品だという気がする。
 ー なるほど。
拓馬 多分、ムンクよりホドラーの方が技術的にはうまいんだろうけどね。それだけじゃなくて、「夜」みたいな絵は面白いと思いますね。
 ー うん。

拓馬 つながってくるんだよね、ムンクとかホドラーとか、それから、ベーコンとか。
 ー ああ、フランシス・ベーコン(※)。
拓馬 ベーコンも、後期になると落ち着いてくるけど、初期の作品とかは、なんか気持ち悪いからね。(タブレットを操作しながら)ベーコンの絵を出そうとしたら、肉の画像が出てきちゃったよ(笑)
 ー (笑)
拓馬 肉のベーコンじゃなくて、フランシス・ベーコンね。こういう、教皇を描いた絵がある。
(※ [フランシス・ベーコン]  アイルランド生まれのイギリス人画家。。鑑賞者に不安感や孤独感を与える作風で、20世紀後半において最も重要な人物画家と言われる。)

ベーコン_教皇の習作

フランシス・ベーコン
《ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作》
デモイン・アートセンター

拓馬 これは気持ち悪いでしょ。これ見ちゃったら、他の絵は怖くないよね。
 ー 気持ち悪いねえ。
拓馬 恐怖心というか、内面を描いている感じね。要するに普通の平常心の時にはこういう絵は見たくないだろうけど、人間は明るい面と暗い面がないまぜに生きているんでね。問題提起ということでは、この絵にはシンパシーを感じますね。
 ー うん。
拓馬 だから明るい絵もあるけど、どっちかっていうと人の暗さというか、怖さというか、なんかこう、内面の鬱々としたところというか、そこを描いた方が面白いね、僕はね。
 ー そうなんだね。
拓馬 ピカソなんかも青の時代があるでしょ。青の時代の作品の方が良かったりするし、実際、一番値段が高いのは青の時代だからね。ホームレスの人たちを描いたような青の時代の作品の方が、鬱々とした感じが出ていて、問題提起になっていると思うよ。
 ー なるほど。

 ー そういうのを描く人の心境ってどうなんだろうね。
拓馬 こういうのはね、けっこうね、当時は売れてないんだと思いますよ。
 ー 売りたいと思って描いてないんだろうね。
拓馬 ないと思う。
 ー ヤケなのかな(笑)
拓馬 ヤケっていうか、自分の内面的なものを正直に描きたくなるんじゃないの。
 ー なるほど。
拓馬 そこはなんか、作家って、ギャラリーとか仲間とかの周辺で動いていることが多いんで、あまりいろんなことに媚びへつらう必要はないんだよね。これが例えば宮崎駿さんみたいに多くの人を相手にするんなら、過激な表現はできないかもしれないけどね。
 ー じゃあ、この時代のベーコンとかは、あんまり大衆のこととかは気にせずに描いているのかな。
拓馬 画家は気にせずにできる。少ないお客さんに絞ることができるからね。そこが画家であることの魅力だよね。

 ー ちなみに、絵画セラピーのような要素はあると思う?
拓馬 あると思うよ。自己治癒はあると思う。
 ー まあでも、暗いものばかり描いていたら、どんどん自分も暗くなっていきそうな気もするけどね。
拓馬 それは難しいね。

 ー 君の場合は、さっきのベーコンの作品とかを観ると、どういう風に感じるの?
拓馬 なんとも思わないんだよね。
 ー 参考にしようとか、そういう発想になる?
拓馬 参考にも思わないね。別に、あっそうっていう感じだよね。
 ー はあ、そうなんだ。君から見て怖い絵ってあるの?
拓馬 もう無いよね(笑) ベーコンでも感じなくなって、あとあるのかな。
 ー もう、感情的な感じでは絵をみれなくなっちゃっているのか(笑)
拓馬 麻痺していると思うよ。あまりにも辛い香辛料を食べて、分かんなくなっているっていう感じがあるね。
 ー それは大丈夫なの?(笑)
拓馬 それはそれで困っちゃうんだけど… でも、北斎なんかには、有るかもしれない。北斎もお化けみたいなのをたくさん書いてるけど、僕が怖いと思うのは別の絵なんだよね。
 ー ほお。
拓馬 北斎の一番怖い絵は、これだね。「富士越龍図」。

北斎_富士越龍図

葛飾北斎《富士越龍図》北斎館

拓馬 これは怖いね。
 ー そう。なんでだろう?
拓馬 煙みたいなのが立っているじゃないですか。で、そこに龍がいるんですよ。それで、白黒じゃないですか。北斎の富士っていうと、青で極彩色に描いたのがあるでしょ。あれと真逆で、色がないんだよ。しかも煙の中に龍がいて、なんかね、薄気味わるいんだよね。
 ー うーん。
拓馬 死を思わせるね、これは。富士も死んでいるし、龍も死んでいる。龍はこんなに小さく描かれているしさ。龍って、もっとめでたいものっていう感じじゃないですか。それがこんな風に煙の中にいるってね。
 ー 確かに。生き生きしていないね。
拓馬 生き生きしていない。これはなんかこう、怖いよね。
 ー これは、今見ても感覚的に怖いって感じるの?
拓馬 これは怖いね。
 ー これは怖いんだね。ベーコンとかとは違うんだね。
拓馬 ベーコンとかは直接的なんですよ。なんか、うわーっていう怖さね。
 ー なるほど、うわーっね(笑)
拓馬 だから、怖さって、薄気味悪い怖さが一番怖いんですよ。忍び寄ってくる怖さというかね。そういうのが一番怖い。見えないものとか、感じにくい所を感じられちゃったりとか、そういうぎりぎりのところが怖いんですよ。
 ー なるほどね。

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今日はここまでです。[アーティスト田中拓馬インタビュー6]を最後まで読んでいただきありがとうございました。ぜひ次回もお楽しみに!

これまでのインタビュー記事はこちらからご覧ください。

田中拓馬略歴
1977年生まれ。埼玉県立浦和高校、早稲田大学卒。四谷アート・ステュディウムで岡﨑乾二郎氏のもとアートを学ぶ。ニューヨーク、上海、台湾、シンガポール、東京のギャラリーで作品が扱われ、世界各都市の展示会、オークションに参加。2018年イギリス国立アルスター博物館に作品が収蔵される。今までに売った絵の枚数は1000点以上。
田中拓馬公式サイトはこちら<http://tanakatakuma.com/>
聞き手:内田淳
1977年生まれ。男性。埼玉県立浦和高校中退。慶應義塾大学大学院修了(修士)。工房ムジカ所属。現代詩、短歌、俳句を中心とした総合文芸誌<大衆文芸ムジカ>の編集に携わる。学生時代は認知科学、人工知能の研究を行う。その後、仕事の傍らにさまざまな市民活動、社会運動に関わることで、社会システムと思想との関係の重要性を認識し、その観点からアートを社会や人々の暮らしの中ににどのように位置づけるべきか、その再定義を試みている。田中拓馬とは高校時代からの友人であり、初期から作品を見続けている。

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今回の見出し画像:「ギャングネコウサギ」(作品の一部のみ)
技法:油彩
サイズ:42×31(cm)
田中拓馬にも怖さを感じさせる作品は多くありますが、今回はその中でも、ちょっとユーモラスな感じが気に入っている作品を見出し画像に使ってみました。

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