モーゼに割られた海の気持ち【文フリ広島 当日編】
東京から夜行バスで12時間かけて降り立った広島で、まさか自分がこんな気持ちになるとはまったく想像していなかった。
一週間前の記事では「めっちゃいい位置!イエーイ!」とか書いていたのに、お客さんたちが、私たちを真ん中に綺麗に両サイドに流れていく。
なすすべもなく見ていると、モーゼに割られた海のような気持ちになった。
よりにもよってなぜここを干上がらせようと思ったのだろうか。
目の前でお客さんが左右に分かれていくモーゼ状態とはいえ、ちょろりちょろりと私たちの横を通ってくれる人はいる。
そんな彼らに無料配布を手渡し商品紹介に持ち込むいつもの撒き餌作戦を試みるも、絶対に逃すまいというこちらの圧が強すぎてお客さんはにゅるりと遠のいてしまう。ちょっと待って、怖くないよ……!!
そもそも私たちの前ががら空きなので、お客さんたちはブースからかなり距離を取って慎重に商品を眺めている。まるで警戒心の強い猫のように。
「ホームだと思ってたのは、私だけだったのかもしんない……」
肩を落として、ぽつりとこぼすとき子さん。
弱気になってしまうのも無理はない、いままで私たちは開店から閉店までそこそこに忙しく過ごしていたのだ。
あの盛り上がりはお客さんとして来てくれるnoterさんやXやWebカタログで予習してくれた人たちが作ってくれていたもので、そういうお客さんのいないところでは私たちってこんなにも孤独なのねと思い知る。
いじけた気持ちで周りを見るとモーゼ仲間のはずの両隣はけっこう繁盛していたりして、なんでだよ!猫じゃらしあげるからこっち来てよぉ!と地団太を踏みそうになる。両隣の商品説明に耳を澄ませるとやっぱりすごくおもしろそうで、そりゃ欲しくなるわけだわとひそかに唸った(買いました)。
まったく売れていないわけではないんだけど、圧倒的にわっしょいに欠けている。
いきさつはわからないけれど、出店者の男性が突然声を荒げて会場の空気がピシリと凍った瞬間もあった。すぐに運営さんが飛んできて事なきを得たものの、いままで経験したことのない事態にしばらく動悸が収まらなかった。
そんな空気ががらりと変わったのは、後半戦に差し掛かったころだった。
救世主あらわる
「とっきー!久しぶりー!!」
とき子さんのお仲間が手に手にお土産を持って現れたのだ。
総じて惜しみなく華やかオーラを放ち、しなやかに姿勢がいい彼女たち。フラダンスやヨガのパワーだろうか。もしも『ウォーリーを探せ』的なノリでとき子さんの友だちを会場内で探すことになったとしても、みんな雰囲気が似ているからかなりの高確率で見つけられそう。
そんな素敵なお仲間の登場に、私たちの気分は一気に華やいだ。さっきまで海の割れ目でもがいていたのが嘘のよう。
しかも、来てくれただけでも十分に嬉しいのに「あなたがつるちゃん!とっきーから聞いてるよ!」と私の本まで買ってくださる。
「友だちの友だち」ってだいぶ他人じゃないかと私なんかは思ってしまうのだけど、とき子さんの周囲ではそうではないらしい。人類みな同級生!みたいな勢いでにこにこ本を買ってくれる。ありがたさが半端ではない。
とき子さんの仲間以外にも、素敵なお客さんはたくさんいた。
見本誌コーナーに出していた本を読んで来てくれた人や、「noteで読んだ結婚指輪を買いに行った話がすごく好きで」と目をキラキラさせて感想を伝えてくれた人、かつて私が投稿した『純猥談』の読者の人もいた。
『純猥談』に載せてもらった「4年経っても、手を出してこない彼氏のことがけっこう好きだ」を「一番印象に残ってたやつ!漫画化もしましたよね!この本で後日談が読めるんですね!」と勢いよく『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』を買ってくれた人が何人かいて、「純猥談と違ってこっちはエロくないんです、大丈夫ですか?」と余計かもしれない心配をしてしまう。どうしよう、そろそろエロい話も書いておいた方がいいのだろうか。
フィンランド人に英語を習っていた鳥好きのお客さんが来て、『羽ばたくセット』を買ってくださる。「フィンランドの昔話には脱腸を投げるじじいが出てくるんですよ!」と、嬉々としてとんでもねえプレゼンをしてしまう。気に入ってくれたらいいな。
うろうろ買い集めた本
とき子さんと店番を交代して買い集めた本。
交流のあるnoterさんや気になりすぎるお隣さんの本、Webカタログで気になっていた品等々。これから読むのがとても楽しみ。
つるるとき子書店の販売数
さてそんなこんなで、文学フリマ広島での販売数やいかに。
売れた冊数:77部
売上:40,500円
最初のモーゼタイムからは想像できなかった大健闘。
人生ってうまくいったりいかなかったりするよね、という先人の教え的なやつを一日で体感できたような日となった。
一番人気だったのは今回の新刊『つるる&とき子の本を作る理由』で、出店している人もいつか出店してみたいという人も買ってくれたのがありがたかった。
5部用意していった『羽ばたくセット』が4部羽ばたいていったのもしみじみと嬉しい。
『羽ばたくセット』、ネット販売はじめます!
さて、そんな『羽ばたくセット』はネットショップでも販売を開始します。
セット詰め用の袋の枚数の都合もあり、とりあえず5部限定でスタートさせてください。
内容は、
①『羽ばたく本棚』
②イヌワシのつがいステッカー(by 橘鶫さん)
③乙姫つるるポストカードセット(by KaoRu IsjDhaさん)
④『別冊「羽ばたく本棚」』
の四点セットです。
『別冊「羽ばたく本棚」』には、座談会中に鶫さんとKaoRuさんが名前を挙げていた本を紹介するエッセイを書きました。
・背徳のホームズ、忘却のワトスン(シャーロック=ホームズシリーズ)
・「何かが起こり狂う小説」は好きですか?(巨匠とマルガリータ)
の二編です。
表紙は鶫さんの描いた、ホームズ帽をかぶったミミズク。
似合いすぎてかわいすぎる。
さらに扉絵としてKaoRuさんのMargarita(2009)を使わせていただいております。
小冊子の『ぬか床日和』や『本を作る理由』の絵を見て「かわいい~」とはしゃいでいたお客さんに「この方が書いた小説はこちらです!」と『その名はカフカ 1』を指したらそのギャップに驚かれていたのだけれど、マルガリータの絵を見たらきっとさらにびっくりするかも。
ネットショップのご案内
最後にネットショップのご案内。
つる・るるるのネットショップはこちら。
私のエッセイのほか、橘鶫さんのイヌワシのつがいステッカーや、KaoRu IsjDhaさんのポストカードもここで取り扱っています。
とき子さんのネットショップはこちら。
『なけなしのたね』『にじいろの「はなじ」』はこちらからお求めいただけます。
KaoRu IsjDhaさんの『その名はカフカ 1』のご注文に関してはこちらの記事をお読みください。
橘鶫さんのオフィシャルサイトはこちら。
とき子さんのレポートはこちら!!!
とき子さんのお友だち、あっちゃんのお家で盛り上がった文フリ前日譚はこちらです。