ヨモツシコメに感謝した日【文フリ大阪 当日編】
9月10日、文学フリマ大阪当日。
とき子さんの旦那さんが、駅まで車で送ってくれることに。
忘れものはないよね?と何度も確認して家を出てきたのに、車に乗る直前でとき子さんが「あっ!!」と叫んだ。
交通系ICカードを忘れたというのだ。
あ、あぶねえ……!出発前に気づいて、本当によかった。
慌てて部屋に駆け戻るとき子さんを見守りながら、旦那さんがものすごく得意そうに笑った。
「ときちゃんはなぁ、いつかのときも、何かを忘れたんよ!!!」
「いつかのときも、何かを」ですか……。
「さすがときちゃんや。やっぱりときちゃんや」
日頃のお返しとばかりに喜色満面で頷く旦那さん。
そうしてバタバタと、私たちの怒涛の一日が始まった。
【我々の一日】
地下鉄を降りて会場のOMMビルに入り、KaoRuさんと合流する。
つるるとき子Tシャツの、明るいグリーンが似合っていて素敵。
「私たちもバッチリ着てますよ!」と露出狂の要領で着ていた上着をバッとまくってニヤニヤし合う。
長蛇の列に並んでしゃべること20分、列がどどっと動き出した。
手続きを済ませてブースの場所に向かうと、お隣のウミネコ制作委員会のぼんやりラジオさんがぼんやりの欠片を一切見せずにスーツケースを開いて準備を始めていた。
それを横目で見ながら私たちも準備に取り掛かる。前日の集中力のなさが嘘のように、サクサク進む。私たち、やればできる子だったのね……!
「とき子さぁーん!!!」
突然遠くから柔らかな叫び声が聞こえたと思ったら、全力疾走で駆けてくる女性が。
Marmaladeさんと、穂音さんだ。
お二人は『ウミネコ』の執筆者で、今日はお隣で販売する。さらにウミネコチームにdekoさんも加わり、ブースは着々と完成へと近づいていく。
よかった私たち、今回はすごくゆとりをもって準備できたんじゃない?
そう喜び合っていたら、突如アナウンスが入った。
「10分前倒しでスタートしますー」
!!!
なんで!?!?
去年、一昨年の私だったら「間に合わないっ…!」と白目をひん剝いていたかもしれない。
三度目の出店で、よかった。残りの準備を一気に片づけて、ブースの写真を撮る。
我々のブースにはramさん作のコーヒー豆氏と、Marmaladeさん作の私の妹ゐゑすちゃんが飾られ、お隣のウミネコブースにはやはりMarmaladeさん作のジンジャーさんとおそろいのウミネコバッジを付けたスタッフが並んでいる。
ふふふ、モコモコふわふわした並びでかわいい。
かっきり10分後、開催のアナウンスが入った。
けれど、私たちの周りはしばらくシンと静まり返っていた。
それもそのはず、今回は『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』で知られる小説家の万城目学さんが出店しているのだ。
お客さんの大半はきっと、万城目さんのブースに一目散に向かっているのだろう。
それでも開始から少し経つと、ぽつりぽつりとお客さんが来てくれるようになった。
最初のお客さんお二人が中身をまったく見ずに「これを」と言ってくれたのでどこで知ってくれたのかと尋ねると、Twitter(X)で試し読みを読んでくださった方と、noteでフォローしてくださっている方だった(お名前を出していいか聞きそびれてしまったので、ここでは控えさせていただきます)。
すごく嬉しかったのに嬉しさが空回りして、「わーん!ありがとうございます!ありがとうございます!」と無駄に両手を上げ下げして、たぶん鶫さんのポストカードを渡すのを忘れた。
ポンコツにもほどがある。
しばらくしてちょっと気持ちが落ち着いてきたころに「しまった!さっきの方に渡してないかも!?」と気づいて、血の気が引いた。
まだこのあたりにいらっしゃったらなんとかして引き留めなくてはと目を皿のようにして流れるお客さんを凝視していたものの、結局お渡しできなかった。ごめんなさい。
そういえば、去年も私はまったく同じミスをしている。
開始一時間ほどの間、「みんなに食べてほしいから、購入特典として持っていきますねー!」とさんざんあちこちで書いてきた株式会社おいしいのアーモンドクッキーを渡し忘れたのだ。
これはもう、渡しそびれないように事前に本に挟んでおくとか、「忘れっぽいのでもし渡し忘れていたらお声がけください」って胸に貼っておくとか、新たな対策を練った方がいいのかも。
そうこうしているうちに、カニさん、いぬいゆうたさん、そして紫乃さんが到着。
勢いづいた私たちは、無料配布のチラシや栞を次々に配りつつ、立ち止まってくれた人には内容を紹介した。
もちろん、みんながみんなもらってくれるわけではない。チラシをやんわりと断られるたびにKaoRuさんが「あ、いらないですかそうですか……」と低く呟くのが、めちゃくちゃツボに入った。心の声ダダ漏れか。
私は『春夏秋冬、ビール日和』をどこかで見かけたという人に「もしかして有名な方ですか?」と聞かれて、「これから有名になる予定です」とドヤ顔で答えてしまったことをとても後悔している。なんなんだ、調子に乗りすぎだろう。
お客さんでとりわけ印象的だったのは、何といってもモハメド・オリ!!!あ、アリじゃないんです、オリなんです!
とき子さんのお友だちで、あかねこベーグルの店長さん。
とき子さんの記事でそのお人柄とベーグルのおいしさは知っていたけれど、まさかお会いできる日がくるなんて!
オリさんはいかにもとき子さんの類友で、華やかな笑顔が素敵な方だった。
すんごくお忙しいなかブースに来てくれただけでなく、おいしいシフォンケーキまで差し入れしてくださって。
写真を撮る前に食べてしまったので、気になる方はKaoRuさんの記事をご覧ください。
とにかくおいしくって、くたくたの身体に染みわたりました。
【東京・大阪の客層の違い】
そんな文学フリマ大阪、私はほかに東京しか出たことがないのだけれど、地域差のようなものをうっすらと感じた。
特に感じたのは、「事前にブースの予習してきた人」の割合だ。
過去二回(+ミムコさんのお手伝い)の出店で出会った東京のお客さんは、事前にnoteやTwitter(X)で試し読みやブース紹介を見る人、ウェブカタログをチェックしてきた人が圧倒的に多く、初見の人はそれほど多くはなかったように見えた。
対する大阪のお客さんは、体感としては初見の人、見本誌コーナーで見て気に入ってくれた人が多く、それに次いでnoteやTwitterで事前に知ってくれていた人、それにウェブカタログをチェックしてくれた人が続くような雰囲気だったように思う。
私たちの知名度によるものかもしれないけれど、わざわざモノレールに乗って会場まで出向かなくてはならない東京と、地下鉄かつ駅直結でフラッと立ち寄れる大阪というアクセスの違い、それから出店数の違いも大きいのかもしれない。
「何が何でも気に入った本を手に入れねば、事前にほしいものをリストアップして効率的に回らねば」という強い意思の見える人が多い東京に比べて、大阪ではふらっと立ち止まってくれた人が「これは小説ですか?」「どんな内容なんですか?」といったふわっとした質問をしてくれることが多かった。
ちなみに「私もミッチーのファンなんです」と言って買ってくれた人は、二人いた。
「ミッチーの私服って、何着てるんですか?」と聞かれたので「昔はカーテンみたいな柄のツルツルしたシャツを着てたそうですよ」と言うと、「わかるー!着てそう!似合いそう!」とブンブン頷いてくれた。
【見本誌コーナーの威力】
note繋がりの人はすでに私の本を買ってくれている人が多く、初対面の人にどうやって手に取ってもらうかが課題だった今回、強力な味方が現れた。
見本誌コーナーだ。
見本誌コーナーとは、ブースがひしめく大部屋の向かいの小部屋で、各店が出している作品を各自読めるスペースのこと。
私が文フリに出た2021年、2022年にはコロナの影響で中止されていたので、私にとっては今回が初の見本誌提出だった。
どのくらい効果があるのかわからないけど、何人かは興味を持ってくれたら嬉しいねぇととき子さんと話していた。
すると。
「いま読んでいる町田康さんの作品にヨモツシコメが出てきまして。パラパラ読んでいたらこの本にもヨモツシコメが出てきたので、せっかくだから買おうと思って」
なんとヨモツシコメをきっかけに、『春夏秋冬、ビール日和』を買ってくださる方が現れた。
逃走したイザナギを捕まえようと追ってきて葡萄に目を奪われちゃう、チャーミングな彼女。お客さんを連れてきてくれてありがとう。いつか葡萄を奢ったげるよ。
普段『ビール日和』を紹介するとき、ヨモツシコメはわざわざ推さない。
たとえば10人に「この本にはヨモツシコメが出てくるんですよ!」と紹介したとして、何人が興味をもってくれるだろう。
「一週間分の洗濯ものを入れたら洗濯機が荒ぶってしまった話」
「部屋に出たゴキブリを豆腐の容器に閉じ込める話」
「蛍光灯を替えようとしたらびっしり虫が死んでてウッてなった話」
内容を聞かれたときには、そんな一人暮らしのあるあるネタを紹介していた。
見本誌コーナーに置いていなかったら、たぶんこの方は手にとってはくれなかったろう。
そしてその方を皮切りに、見本誌コーナーで読んで気に入ってくれた人が次々に現れた。
同じく見本誌に出したとき子さんの本も「読みました!おもしろかったです!」とするする売れていく。
「こりゃ見本誌の提出は必須だね!」
そうとき子さんと頷き合ったものの、我々は致命的なミスをおかした。
見本誌の回収に出遅れたのだ。
見本誌は、指定された時間までに回収に行かないと「同人文学誌について研究し、また作品の収集をしている日本大学藝術学部文芸学科資料室へ収蔵され」てしまう。
私たちは見本誌をしっかり回収して、次の東京に使い回す気満々だった。
実は『春夏秋冬、ビール日和』は在庫が18冊しか残っていないのだ。
重版するとしたら100部くらい刷らないと採算が合わないため、よっぽどのことがないかぎり重版するつもりはないし、私をフォローしてくれている人はすでに『ビール日和』を持ってくれている。
そんなわけで一度在庫が切れたら、次はいつ重版できるのかがまったくの未定の商品。
売り切れたら本じゃなくて電子版になるかなぁともぼんやり思っているから、現存する本はある意味まもなく幻の本になるともいえる。
そんな貴重な一冊が資料として回収されてしまったのは、かなり手痛い失敗だった。
閉会後に「そういや見本誌を回収せねば!」と見本誌コーナーに小走りで向かったらすでにスタッフが見本をダンボールに詰めている最中で、「これ開けちゃダメですか?回収したい本が入っているんです」と頼んだら「もう箱に入れちゃったものは諦めてください。もとに戻すのも大変なので、すみません」と断られてしまった。
そりゃそうだ。「決して開けてはなりませぬ」って言う側のはずの鶴が次々にダンボールを開け始めたら、スタッフにとってはたまったもんじゃない。それはもう、全然違う物語になってしまう。
そう頭ではわかっているもののあまりにも悔しくて、すべてを片づけて地下鉄に乗るあたりまで「ミホンシ……」と未練がましく呟く呪われた生き物みたいになってしまった。
【売れた冊数】
そんな悔しい事件はあったものの見本誌コーナーのおかげもあり、つるるとき子書店の売上は103部。
私が15部ずつ持っていった『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』は完売、『春夏秋冬、ビール日和』は12部売れ、『つるる&とき子のぬか床日和』も35部と上々。
ちなみに丸腰で初出店した2021年秋が24冊、二度目の出店の2022年秋が60冊。
すごいわ私たち、出るたびに着実に部数が伸びている。
今回の反省を踏まえて、次の東京に向けてますます羽ばたきたい。
【買えた本】
守屋SHIGE美さん『泳ぎ疲れてきみはくらくら』
藤岡みなみさん発行『超個人的時間旅行』
谷じゃこさん『短歌/川柳 鯖のいる情景』
宮田秩早さん『Et Mourir De Plaisir』
ウミネコ制作委員会さん『umineko No.2』
【お会いできた人たち】
最後に、お会いできた方々をご紹介。
漏れていたら本当にごめんなさい。
ぼんやりラジオさん
隣接配置を快く(と信じてる)OKいただき本当にありがとうございましたー!心強さが全然違った!
そして間近でウミネコチームの連帯感を浴びてほっこりしてました。
Marmaladeさん
もう、妖精のようなかわいらしさがたまらない!いただいた手作りクッキー、とってもおいしかったです♪
そしてまさかゐゑすちゃんとお家に帰れるとは思ってなくってびっくり。ありがとうございました。
穂音さん
事前宣伝の動画がかわいすぎて羨ましい!
打ち上げで聞かせてもらった小説の書き方が目からウロコでした。
またお会いできる日を楽しみにしています。
dekoさん
バタバタしていて全然ちゃんとご挨拶できずごめんなさい!
チャーミングな笑顔とテキパキした接客が眩しかったです。
カニさん
今日も今日とてオシャレパワーが光りまくり!立ち姿も座り姿も美しい。
打ち上げのお店の予約等々、カニさん、紫乃さんにお任せしてしまってすみません!
ほんっとにありがとうございました。
いぬいゆうたさん
いぬいさんがいるだけでその場が超アットホーム空間になるのはなぜなんでしょう。
存在の安心感がすごいのなんの。
圧巻の文フリレポ、執筆の早さも読み応えもすごい!
SHIGE姐さん
字が綺麗!お着物素敵!気づかいの神!
そりゃあ人気出るわの納得の大繁盛でしたよね(人だかりがすごくてなかなかブースに近づけなかった)。出店お疲れさまでした!
紫乃さん
ますますカッコよく、煌びやかに登場した紫乃さん。まさか大阪で会えるなんて~!
私の本を手に取って悩んで悩んで「ま、次回もどこかで会えますよね」と棚に戻してしまったお客さんがいたときに、ゆうさんが後ろで「買え!買わんかい!」って小声でオラオラしてたのがめちゃおかしかったです。
碧魚まりさん
ディズニープリンセス感がすごい!またお会いできて感激~!
いつか一緒に文フリに出られる日を楽しみに待ってます!
東のテツさん
ついにお会いできて感激でした。ぬか漬けの話、家庭菜園の話、聞きたいことがたくさんあったのに!ついついはしゃいでしまって全然聞けなかった~!またお会いしましょうね!
へんいちさん
トイレから戻ってきたらブースにいらっしゃって、なんだかちょっぴり気恥ずかしかったんですよう(笑)
次回、ぜひとも飲みましょう!
とき子さん
全然お初感のない初出店!
ほんとに楽しい三日間をありがとうございました!
とき子さんとなら、何度だっててっぺん越えたい!
KaoRuさん
KaoRuさんの落ち着きっぷりが、きっと私たちにも落ち着きをもたらしてくれたんだと信じてます(笑)
つるるとき子Tシャツもめちゃくちゃかわいかった~!
チェコに渡った羊毛豆氏の活躍に、これからも目が離せない!
鶫さん
はるばる応援、ありがとうございました♪
次回の東京ではついに『羽ばたく本棚』お披露目ですね!
まだまだロスにはならずに済みそう~!
そして最後に、お立ち寄り、ご購入いただいたみなさま。
本当にありがとうございました!
(後日編へ続く)
前日編はこちら。
お読みいただきありがとうございました😆