サンデーはパフェ日和
さっわ~ や~か~な 日曜〜
ふっり〜 そ〜そ〜ぐ 太陽〜
ヘーイ ヘーイ ヘイ!
イッツァ ビュリホーデ〜〜♪
(「ビューティフル・サンデー」田中星児 )
なんて高らかに歌い歩きたくなるような、ビュリホーでワンダホーなサンデーのこと。
友人と二人で爆風にあおられながら荒川で楽器の練習をしたあと、アウトレットのケーキ屋さんへ行った。
どら焼きの皮、カスタードプリン、ロールケーキにクッキー……。
ずらりと並んだ素晴らしくお得な訳あり商品のなかに、一際目を引くコーナーがあった。
スポンジの切れっぱしがビニール袋にぎゅうぎゅうに押し込められているのである。
「ケーキの端っこって妙においしいよね〜」とはしゃぎつつ値札を見て、言葉を失った。
なんと、たったの50円なのである!!
目をかっぴいて他の袋を見たら、そちらは200円。おそらく最初に見たスポンジよりも原形をとどめているからだろう。
それにしても、どちらもかなりの量。
そして、消費期限は二日後の3月16日。
とはいえ、この大特価を見逃すことができようか。
私は50円のほとんど原形をとどめていない方のスポンジ詰め合わせを買い、贅沢にパフェ三昧としゃれこむことにした。
「内容量:一袋」というパワーワード
【1食目】 パフェ
帰りにさっそくスーパーに寄り、ヨーグルトとレーズンを購入。
プリンの空き容器にスポンジとヨーグルト、レーズンと自家製オレンジピールを飾れば、即席パフェの完成だ。
本当は一瞬、生クリームを買おうかと心が揺れた。
けれど、一人暮らしで生クリームを消費するのは至難の業だ。最終的にはホットケーキだのココアだのカレーだのシチューだのに投入し、かなり無理やり消費する羽目になる。
「昔は家族の誕生日にいびつなケーキを焼いて、ぶ厚くペタペタ塗りたくっていたのになぁ…」と過去を振り返って、少し切なくなる。
生クリームはきっと、家族の食べものなのだろう。一人暮らしでは、どうしたって持て余す。
さて、肝心のパフェですが。
甘いスポンジにヨーグルトやフルーツの酸味が合わさって……なんだかとっても健康的なお味。
おいしいんだけど、たしかにおいしいんだけど……うーむ、どうもこれは求めていたパフェではない。
なんかもっとこう、器を洗うのを躊躇してしまうくらい、こってりしたものを欲していたんだけどなぁ。
【2食目】 サバラン
こってり系を求めて勢いのままに2食目を作る。
ちょうどウイスキーが残っていたので、サバラン風にすることに。
豆腐の容器にスポンジをぎゅっと押し込めて、上からウイスキーを染み込ませる。
カポっと器にひっくり返してレーズンをあしらうと、なんだかとてもサバランっぽい仕上がりに。
といっても、私がサバランについて知っている情報は「酒浸りのパン」ということだけだ。
少しパサついたスポンジも、ウイスキーをまとえばあら不思議。するするとスプーンが進んで、ついおかわりしてしまった。
【3食目】 サンデー
15日。
ここでパフェのリベンジかと思いきや、やっぱりサンデーを作ることにした。
パフェとサンデー。
その違いを私は勝手に「生クリームorソフトクリームぐるぐる巻き=パフェ」「アイスがメインでケーキも凍り気味=サンデー」だと思っていたのだけれど、この理解であっているのだろうか。
ふと不安になって調べてみたのだが、
パフェは背の高いグラスに入れられ、サンデーは平たい皿に入れられると言われるが、平たい皿に盛られたパフェもあれば、背の高いグラスに盛られたサンデーもあり、器による違いはない。 パフェは昼間のデザートで、サンデーは夕方以降のデザートとも言われるが、昼と夕方以降で呼び名を使い分けている店を見かけない。
とあまりにも心許ない(「違いがわかる事典」より)。
おそるおそるさらに読み進めると、この呼びわけは両者の起源の違いにあることが判明した。
パフェがフランス出身で、サンデーがアメリカ産なのだそう。
知らなかった。
けれど、そう言われてみるとたしかにパフェはフランスっぽいし、サンデーはアメリカンな感じ。
となると、私の「サンデー=アイス」説はいったいどこから?
つらつら思い返してみるに、どうも森永のサンデーカップが発端となっているような気がする。
https://www.morinaga.co.jp/ice/sundae/
ともあれ、私は私のサンデーを作ろう。
スポンジの上に抹茶アイスをふんだんに乗せて、上に飾るはそばぼうろ。
あたたかな春の朝に、のんびりと冷たい和風サンデーを平らげる。
このくらいの気温の日が一番じっくりとアイスを味わえて、しみじみと嬉しい。
【4食目】 そのまま
16日。
消費期限だ。
とはいえまだ半分くらい残っている。
消費期限も賞味期限も、実家を出てからほとんど守れたことがないように思う。
スーパーはまだまだ、ひとり者に高飛車だ。
せっかくなので、今日は何もかけずにそのまま食べた。
喉につかえるモサモサ感はほんのりと懐かしくて、子どものころ想像していた『ぐりとぐら』のカステラも、たしかこんな味だったなと思い出した。
【5食目】 蜂蜜がけ
17日。
冷凍するとおいしさが損なわれてしまうので、このまま食べ進めていくことにした。
今日は蜂蜜をかけてレンジであたためてみる。しっとり、ふわふわ。
5食目にして、ようやく正解にたどり着いたみたいだ。とてもおいしい。
【6食目】 再サバラン
17日、夜。
かなり気に入ったので、サバラン再び。
今回はゼリーのカップに詰めて、円形に整える。
機嫌よく写真に収めて彼にLINEしたら、「え、なにこれは」との返事。
「サバランだよ」と返すと「サバランってなに」。
ごめん。正直、私もよく知らない。
【7食目】 フレンチトースト
18日。ついにこの日がきてしまった。
5日間にわたって楽しんできたスポンジ生活も、今日で終了。
袋の中は、もうほぼ粉しか残っていない。
有終の美を飾るべく、フレンチトーストにしよう。
オリーブオイルに卵、蜂蜜、ヨーグルトを混ぜて、そこに残ったスポンジ片をすべて投入、ざっくりと混ぜ合わせる。
タッパーを2分半レンチンして、友だちがくれたお気に入りのお皿に移す。
上からシナモンパウダーを振れば、ちょっとおしゃれな装いに。
スポンジは卵と完全に一体化していて、ただの甘い卵焼きみたいになってしまったけれど、けっこうおいしかった。
久しぶりにドリップコーヒーを淹れて、優雅に朝ごはんを楽しんだ。
それにしても、まさか50円でここまで楽しめるなんて。
まるで小学生みたいな、でも小学生の頃の自分では思いつきもしなかったような、50円の味わい方。
「今夜は何を作ろうかな」と自転車をすっ飛ばす帰り道の高揚感も、「わ、おいし!」とひとり呟く感動も、曲がりなりにも自炊スキルを高めてきた今だからこそ得られたものなのだろう。
切れっぱしのロマンがわかる大人になって、本当によかった。