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八王子にて、ミッチーを浴びる

台風一過の6月3日、私は黄色い人になった。
黄色いシャツを着て黄色いスカートを履き、黄色いさくらんぼのイヤリングをつけながら、ミッチーこと及川光博氏の動画を食い入るように観ていたら、部屋を通りかかった夫が怯えた。

「踊れなかったら会場からつまみ出されたりするんか?」

つまみ出されたりは、しない。
でも、なるべく予習は入念にしておきたいじゃないか。

「王子だから八王子でライブするんか?」
ひっひ、と夫が自分のだじゃれに笑った。
王子然としてはいるものの、ミッチーはすでに王子を卒業している。
背後でうろうろする夫を、そっと部屋から追い出した。

及川光博ワンマンショーツアー2023『踊って!シャングリラ』。

去年はベイベーの方からのお誘いがあまりにも突然で誰かを誘う間もなく一人で飛び込んでしまったけれど、今年は長らくおうちベイベーとしてミッチーを見つめ続けてきたnote友だちのramさん志麻さん母娘と一緒にJ:COMホール八王子に行くことに。
この二人の決断力は、ものすごい。

予定が合ったら、今度一緒に行こうね
職場や友だちとの遊びの場や、ネットでのコメントのやり取りなどで、そんな約束と呼べるのかも不確かなほどの淡い約束を結ぶことがあると思う。

「こないだ話したアレ、いつ行きます?」
相手の本気度を探りながらそんな連絡を入れるのが、私はとても苦手である。
社交辞令かな、本気かな、あの人の「近々」って、私の「近々」とどのくらい近いかな。
内心おっかなびっくり、表面上は「行っても行かなくてもどちらでもいいよ」という軽い雰囲気を醸しつつ、脇汗をぬぐいながら、何度も読み返した文章を送る。

そんな遠慮がちな探り方を、私はこの二人に対してはしたことがない。
なぜなら、「予定が合ったら、今度一緒に行こうね」と誘った次の言葉が「この日なら行けますよ!」だからである。思い切りがすがすがしい。

西日暮里BOOK APARTMENTでたまたまお二人にお会いしたときに、「今年はみんなで行きましょうか」という話になり、その場で日程を合わせ、あれよあれよという間に志麻さんがゴーゴー!シートのチケット(5500円)を取ってくれ、そして当日。

前日の豪雨が嘘のように、ぴかぴかに晴れていた。
八王子に向かう電車に揺られていると、ひとりまたひとりと黄色い人が乗ってくる。

今回のテーマはイエローで、コンセプトはオリエンタル
テーマ・コンセプトにドンピシャのアラビアンな衣装(もはや私服と呼んでいいのかわからない)をお召しの女性たちが乗ってきて、思わず目が吸い寄せられた。

もしも「アラビア帰りですか?(コール&レスポンス風)」と呼びかけたら「アラビア帰りでーーーす」と返ってきそうな風格が漂っている彼女たち。しっくりと似合っているのもまたすごい。

車両内の黄色い人を数えているうちに電車は八王子に着き、ramさんたちと無事に落ち合った。
もう周りにいるのは、今にも踊りだしそうな黄色い服を着た人ばかりだ。
みんな、まるでインド映画にやたら出てくる黄色い粉を浴びた直後のようだった。

ミッチーのワンマンショーは、毎年テーマカラーが変わる。
このベイベー・男子のみなさんは今年はインド映画の大衆みたいになっているけど、きっと家のクローゼットのなかは虹色なんだろう。

無事にポンポンを買って軽食を食べ、ポンポンを開く作業に。
去年私は、このポンポン作りにとんでもなく苦戦した。

あのときは説明書の「しっかりねじりながら」が理解できなくてとりあえず立ち上げてしまっていたけれど。
ramさんの手もとを窺うと、根元まで上げたセロハンを左右どちらかの方向にキュッとねじり上げていた。
ねじっていない私のセロハンは油断した隙を見計らって元の場所に戻ろうとするが、きっちりとねじり上げられたramさんのセロハンは観念したように新天地から動かなかった。
初見のはずなのに、すごい。

なんとか三人とも丸くポンポンを整えたところで、ショーが始まった。
じわりじわりと幕が開くと、黄色い人たちが一斉に立ち上がる。
もう、見渡すかぎり黄色い絶景である。黄ピクミンの大量栽培所みたいだ。
この空間で、いつもTwitterでお世話になっているベイベー・男子の方々が一体となって揺れているのだと、ひどく感動的な気持ちになる。

ステージで歌い踊るミッチーは、相変わらずキラッキラにきらめいていた。
去年の反省を活かして、私は小学生のころ親が誕生日にくれた小さな双眼鏡を持っていった。
双眼鏡は古いためか持ち手のゴムがベタベタしていたが、そんなことが気にならなくなるくらい、ミッチーは圧倒的に美しかった。

なんでこの人のこと、夫に似てると思ったんだろう。
いや、うつむいた横顔はちょっと似てるかも。
そういえば最近暑くなってきたのに、夫は日焼け止めを塗っていない。
顔が茶色くなってしまったら、どんどんミッチーから遠ざかってしまうのに。
家に帰ったらミッチーの色の白さをみっちり伝えて、日焼け止めを塗らせよう。

そんなことを考えながら、流れる音楽に合わせて身体を揺らす。
事前準備としてCDを何枚か聴いて臨んだために、「これ、進研ゼミでやったとこだ!」と目を輝かせる学生のごとく、「これ、CDで聴いた歌だ!」と私は興奮した。
ベテランなramさん志麻さんは「懐かしい!」と小声で喜びながら踊っている。

休憩を挟んで、「愛と哲学の小部屋」。
「休憩入るんだ!?」と志麻さんが驚いていた。
私はミッチーのライブしか行ったことがないので知らないのだけれど、ほかのライブでは休憩がないものもあるらしい。膀胱にやさしいライブでよかった。

さて、「愛と哲学の小部屋」。
アルプスの少女ハイジのテーマをバックに、両手の甲を外側に向けてスキップして登場するミッチー。53歳とは思えないキュートさである。
人生相談や職場での振る舞い方など生き方に関する質問もあれば、久しぶりの『相棒』出演で意識したことはあるかという質問や寿司の魅力をプレゼンしてほしいという要望もあった。

寿司の話が出たときに、昨日夫と交わした会話を思い出した。

「ミッチーたちは、ツアー中は近くのホテルに泊まっているのかな」
ショーの前日、真っ黒な雲を見上げて夫が呟いた。
そうなんじゃない?と返すと、「今夜八王子周辺の寿司屋とか入ったら、ミッチーに会えるんかな」と彼は続けた。
そりゃ居合わせたらラッキーかもしれないけど。
この豪雨のなかミッチーを探しに寿司屋の引き戸を開けまくることはできない。
ていうかそもそも、寿司屋じゃないかもしれないじゃない。
そんな反論をすると彼は、「俺、ショーには行かなくていいから寿司食べてるミッチーが見たい」というやや特殊な告白をした。
私とは生ミッチーに求めるものが違うらしい。

寿司屋のよさは職人の仕事を感じるところだと熱く語るミッチーの姿に、きっと彼は日々あらゆることから自身の生き方や魅せ方に通じるものを吸収しているのだろうと思わされた。
前回の文学フリマの感想記事で彼の推し(星)としての安定感を称賛し、「そういう人に、私もなりたい」なんて書いてしまったけれど、今となっては何言ってんじゃいという感じである。

こんなに寿司大活躍なショーではあったものの、最終的に心に残ったのは「エビドリア」だった。
今回のコール&レスポンスが、私たち3階席は「シャングリラですか?(シャングリラでーす)」、2階席が「シャンデリアですか?(シャンデリアでーす)」、1階後方の席が「シンデレラですか?(シンデレラでーす)」、1階中央席が「サイゼリヤですか?(サイゼリヤでーす)」、そして1階前方の席が「エビドリアですか?(エビドリアでーす)」だったのだ。
「だったのだ」と言われましてもという感じだけれど、1階前方の方々は エ ビ ド リ ア だったのだ!

昨年まんまとニラ炒めの魔力にとりつかれてスーパーへ急いだ私は、今年は翌日友だちとサイゼリヤに行った。
メニューを端から端まで見たものの、エビドリアはなかった。
消沈してプリンとティラミスを食べて、夜Twitterを見ていたら、ベイベーのぼっこさんが「みんなー! サイゼリヤのエビドリアは、平日ランチメニュー限定だよ!」とツイートしていた。

そうだったのね……!!!

さて。
ramさん、志麻さんと行ったワンマンショーは、一人で行くのとはまた違った楽しさがあった。
ミッチーと同年代のramさんはデビュー当時のことも詳しく知っていて、志麻さんはハマったきっかけの「ポン酢・ポンザー・ポンゼスト」を語ってくれた。
座席の隣が友だちだと、心強さが違う。
帰る道すがら「あのときのミッチーって!」と感動を延々と分かち合えるのも楽しい。
しかも私たち、5月にたんぽぽハウスで一緒に黄色い服も調達したのだ。
普段は一人で寄る店でわいわい服を選べたのも、久しぶりで心躍った。

「予定が合ったら、今度一緒に行こうね」に「この日なら行けますよ!」と返してくれるこの二人と、来年も一緒に行けたら。
楽しさがバージョンアップする予感しかしない。

今年はわりと丸く作れたポンポン
締め切り当日にプリントしたイナコさんの作品。

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たんぽぽハウスへのお誘い。


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