たぐり寄せる物語
短編小説を書きはじめたのはごく最近、今年の初夏の「ピリカ☆グランプリ」への応募からだった。
リーダーのピリカさんはもちろん、shinoさん、カニさん、戌亥さん、ねじりさんと私が普段楽しく読んでいる方々が主催だったので、思い切って創作の世界に踏み出してみたのだ。
思えばさわきゆりさんの文章に出会って「こんなに短い文章でこんなに濃いものを伝えられるのか!」とびっくりしたのも、このグランプリがきっかけだった。
ここで参加しなければたぶん一生小説書く機会はないぞと自分を追い込みながら、お題を何度も眺めながら物語を考えた。
最大1200字と、字数は限られている。
どんな風にお題を膨らませようか。
誰を登場させようか。
どのシーンを切り取ろうか。
いつも書いているエッセイとは、全然勝手が違った。
普段は何か書きたい出来事が起きて、それを中心に据えて思い出や妄想を足したりして書いているから、ほとんどメモを取ることはない。
でも小説となると、起きる出来事やら登場人物やらを全部自分で考えなくてはならない。
エッセイは何かが起きるのを待っていればよいけれど、小説では自分で能動的に気持ちや状況を作り出さないといけない。
むむむ、どうしたものか。
小説初心者の私は、この時一つの方法を編み出した。そして今まで4編、この方法で書いている。
それは、お題を中心に置いて連想ゲームのように関連する記憶をたぐり寄せて、そこからいい感じにまとまりそうな話を物語として整える、というものである。
幸いにしてこれまで私が参加した企画は、どれも身に引きつけて書きやすいお題ばかりだった。
今日は備忘録も兼ねて、これまでに書いた短編小説を振り返ってみたい。
【ピリカ☆グランプリ】
お題は「睡眠に関すること」。
タイトルは「カルピスの寝息」。
モデルは私の4つ下の弟と私自身だ。
とはいえ私は夏休みスタートと同時に宿題の半分くらいを一気にやっつけて、残りの日数で計画的にトロトロ消化していくタイプだったので、この主人公のような焦りを経験したことはほぼない。
弟に対して、こんなに優しい対応をしたこともない(ごめんね)。
【絵から小説】
二作目に書いたのは、会いに行く画家として名高い清世さんの企画。
お題は、三枚の絵から一枚選び、その絵からイメージした物語や詩を書くというもの。
タイトルは「サルビアの君」。
選んだのは、高校生くらいの女の子二人の絵。左側のちょっと勝気な感じのする女の子が、友人に似ていたからだった。
彼女の突拍子もない発想に振り回された記憶を軸に、友情や恋バナを盛り込んだ結果、失恋した友だちを慰めにいく女子高生二人の話になった。
【グリフィンの物語】
三作目となったのは、鳥の絵、物語ともに大活躍中の橘鶫さんの企画。
タイトルは「所沢のグリフィン」。
ここまで書いてきて、タイトルが全部「◯◯の☆☆」になっていることに気がついた。これは、あれだ。『トム・ソーヤーの冒険』『進撃の巨人』『パリの異邦人』みたいなパターンだ。
で、「所沢のグリフィン」は「孤独なグリフィンになんとかして幸せになってもらいたい」という切実な願いと、「ていうかグリフィンの身体って、どこまで鳥でどこからが獅子なの?」という単純な疑問が合わさって生まれた。
彼らが幸せに暮らせる場所を所沢に定めた時点で一気に日本の妖怪たちがガヤガヤと加わり、「どこまでが鳥?」という失礼な話は全部部長に引き受けてもらうことになった。
【ピリカ文庫】
お題、タイトルともに「チョコレート」。
「カルピスの寝息」同様、これもわりと実話寄りだ。
雨の日に父が、車でデパートやゲーセンに連れて行ってくれたこと。
時々一人200円くらいのお菓子を買ってくれたこと(母は絶対に100円の壁を崩さなかった)。
弟とお菓子のオマケを見せ合ったこと。
そんな昔の思い出をもとに、実家を出る直前のなんともいえない寂しさや家族への愛しさみたいなものをエモく書けたらいいなあと思って書いた。
実際の父は閉店間際のスーパーで惣菜を買い占めてドヤ顔決めたり、パチンコ店でもらった趣味の悪いお守りやえげつないカロリーのクッキーを得意げに持って帰ってくるただの陽気なオヤジなんですけど。
お題をいただきたてほやほやの段階では、こういう話になるとは思っていなかった。
最初の連想メモには、「じゃんけんの“グリコ”をして鳥取砂丘に行く話」や「江國香織のエッセイにあった“よその女にチョコレートをあげないで”という言葉から始まる、なにか大人の恋愛めいた話」もある(「よその女にあげてほしくないもの」がさきいかしか浮かばず、そのまましぼんだ……)。
そんななかで結局一番ちゃんと膨らんだのが、昨日上げた家族の「チョコレート」だった。
メモの右上をご覧いただければおわかりの通り、バレンタインからは早々に撤退した。悲しいことに経験が乏しすぎたうえに、想像力の枝葉も伸びなかったからだ。
私のバレンタインの思い出は、教師の父親が同僚や保護者からもらってきたチョコを、弟たちと奪い合った記憶ばかり。
だからxuさんのもどかしくて切ない「チョコレート」を読んで、ひょ〜!と心が一気に熱くなった。
こんなバレンタイン、ていうかこんな恋してみたかった!
いや欲をいえばチョコ渡して両想いになりたいけれど!
でも一度くらいこんなにじれったい経験をしたら、その後の恋に向き合う力や姿勢もだいぶ変わってきそう。
おんなじテーマで書いているのに、こんなに雰囲気の違うお話になるんだなぁと感動するやら、キュンキュンするやら。
今回ピリカ文庫に参加したことで、小説のもつ世界の広がりにあらためて感銘を受けた次第であります。
これが朗読されたら、またさらに広がるんだろうなぁと今からワクワク。
素敵な機会をいただき、本当にありがとうございました。
いつかは自分とまったく立場の異なる人を主人公に書いてみたいなぁ、俳句のような凝縮された世界観にも挑戦してみたいなぁと夢を膨らませている、今日この頃です。