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「おいしい文章」に憧れて
昔「本棚を見たらその人となりがわかる」と本好きな友人が得意げに言っていた。誰か有名人の受け売りらしい。
当時の私はその言葉に素直に感心して、私もいつか「私らしい本棚」を持とうと夢を膨らませていた。
その夢は、一応、叶った。
引っ越すときに本を詰めた、二箱のダンボール。
これが私の本棚である。
誰が何と言おうと、本棚ですよ。
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左の箱が実用書やA5判以上の本で、右の箱が文庫や新書、四六判までの本だ。
右の箱は左上から時計回りに、漫画(文庫)、エッセイ(文庫)、小説(文庫)、小説・エッセイ、その他アンソロジーや文芸書などとジャンルごとに詰まっている。
皮肉なことに友人が言ったとおり、このダンボール本棚はまさに私の人となりを表している。
見た目の美しさや機能性よりも、とにかく値段や量を最優先。
「いつかちゃんとしたい」と思いながら、そのいつかがわからずにとりあえず間に合わせを使って先延ばしにするうちに、次第にその間に合わせで十分に満たされてしまう。
「ダメになったらまた手に入れればいいや」と軽い気持ちで雑に扱っているわりに、気がつけばずっと一緒にいる。
この本棚をはじめ、私の身の回りはそうしたもので溢れている。
「本棚を見たらその人となりがわかる」
彼が言った「本棚」は棚そのものじゃなくて並んでいる本のことだとわかっていながらも、またみみっちいことを書いてしまった。
それはさておき、もうひとつ私の「本棚」を紹介したい。
今の家に置いている本棚(自称)はこのダンボール二箱の他に、すぐ読める場所にもう一箱あるのだ。
この箱に置いている本こそを、「わたしの本棚」として紹介したい。
この本棚には、現在進行形で読んでいる本や寝る前や電車で気軽に読める本、感想を書きたいと思っている本、そして個人的な課題図書が並んでいる。
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「個人的な課題図書」は、「いつかこんな文章が書けるようになりたい」と思っている憧れのジャンルを研究するために読んでいる本のこと。
最近の私の課題は、「おいしい本」である。一つ前は、「恋愛もの」だった。
「おいしい本」を研究しようと思ったきっかけは、「ベーグルで、初心を噛み締める」でパン屋あかねこさんのベーグルの魅力を伝えようとして、「語彙力が足りない…!このおいしさを十分に言い表せない…!」ともどかしさを感じたからである。
私は飲食描写が素晴らしい、匂いや食感が伝わってくるような本に出会うとついついわくわくと買い込んでしまう。
なんなら時々おかず代わりにご馳走描写を読みながら米だけかっ食らっているし、白湯を片手にデザート代わりの一編をしみじみ味わうこともある。
こんなにおいしい文章が生活に密着しているにもかかわらず、私自身は「おいしさ」を表現するのがすこぶる下手である。
そもそも書き終わったあとで「あれ?こんな話が書きたかったんだっけ?」と首をひねることもしょっちゅうだ。
たとえば。
もともとは「奮発してアフタヌーンティーに行ったよ!」と自慢したくて書き出したはずが「彼氏の白シャツが下着にしか見えなくてウケた」と猛アピールしてしまった「ジョゼフの罪とティータイム」。
初めてスターバックスに入った大学生の頃の初々しい思い出を書こうと思ったのに、「こだわり注文への緊張感」に重点を置きその恐怖を切々と訴えてしまった「はじめての、スタバの話。」
そして50円で手に入れたカステラスポンジをおいしく食べたよ!という話を書こうと思っていたのに、写真を見ても文章を読んでも荒涼としたみみっちさしか伝わってこない「サンデーはパフェ日和」。
大好きなぬか漬けに関しても、「それぞれの味覚、それぞれのぬか床」とか「ぬか暮らしは続く」とか、なんか表を作ってごまかしている感がすごくある。
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本当は食べものそのものにきちんと向き合って、そのおいしさを丁寧に、匂い立つように表現したいのに。
どうしても私は目先の事件やお得感をノリノリで書いてしまうクセがある。
ほんとに書きたかったのはこれじゃねぇんだ!と、書き上がってからよく歯がゆさに悶えている。
それに比べて、いま課題図書として味わっている本は食べものの存在感がどっしりしている。
本棚から、いくつかご紹介したい。
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①吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(小説)
仕事を辞めて映画館に通う青年がおいしいサンドウィッチ屋に出会い、スープ作りに熱中する話。
②川原泉『空の食欲魔人』『美貌の果実』(漫画)
『空の食欲魔人』にはカレーやアップルパイ、お魚やみそ汁などが登場する。
『美貌の果実』はワイナリーや畜産など、背景に散りばめられたマメ知識が素敵。
③平松洋子『おもたせ暦』(エッセイ)
実在の手土産を情感たっぷりに紹介するエッセイ集。お土産選びガイドとしても重宝する一冊。
④杉浦日向子『4時のオヤツ』『ごくらくちんみ』(掌編小説)
『4時のオヤツ』は「うさぎやのどら焼き」「デメルのザッハトルテ」など、実際に買えるオヤツが効いてる掌編集。
『ごくらくちんみ』は『4時のオヤツ』のちょっとビターな姉妹編。珍味とお酒と大人の情趣。
⑤アクセル・ハッケ 著/ミヒャエル・ゾーヴァ 絵『ちいさなちいさな王様』(小説)
実は小学生のころ、生まれて初めて自分のお小遣いで買った本。挿絵がとにかく微笑ましく、グミベアが食べたくなる。
じんわりとお腹にあたたかさが広がっていくような本もあれば、わははと笑いながら気がつけばその食べものが食べたくてしょうがなくなっているような本もある。
実際に手に入る銘菓もあれば、その本の中にしか存在しない名店もある。
でも、どれも目から舌を滑って腹に落ちてくるような、味わいのある本ばかり。
そんな本を開いて、いつかこんな表現ができたらなぁとよだれを拭いながら読んでいる。
「本棚を見たらその人となりがわかる」
私の本棚には今、憧れのおいしさが詰まっている。
これを私の人となりだと思われてしまうと、ウルトラ食いしん坊のようで少し恥ずかしいのだけれども。