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『春夏秋冬、ビール日和』ができるまで

少し前に、祖母から「本を作らないのか」と背中を押されて第33回文学フリマ東京に出店することになった話を書いた。

今日は、その続きのお話。
備忘録を兼ねて、本ができるまでの工程を順を追って書いてみようと思う。

①体裁を考える

まず最初に考えたのは、本の体裁だった。
90を超えている祖母が読むから、重くならないように並製(ソフトカバー)にしよう。持ち運びやすいし、A6判(文庫サイズ)がいいかな。

そうと決まれば手元の文庫本を開いて、1行あたりの文字数と1頁あたりの行数を数える。

45字×16行=1頁あたり720字。
実際には段落や改行が入るのでここまで文字をびっちり詰めることはないけれど、一つの目安として考えてみる。

そのまま計算すると、全体を100頁にするなら72,000字弱必要ということだ。
実際にはここに見出しや扉なども加わるので、60,000字くらいでも十分だと思う。

ここまで計算した当初、私は100頁弱の本にしようと思っていた。
ところが、そう上手くはいかなかったのである。


②原稿を準備する

総字数の目安が決まったところで、原稿の用意だ。

ワンルームでの一人暮らしを春夏秋冬に並べる」という構成にしたがって、それに当たるものをnoteから淡々とWordに抜き出していく。
ひと通り作業を終えて全体を見渡して、私は二つの問題に気づいた。

1.季節のバランス問題
2.写真に頼りすぎ問題

まず、季節のバランス問題から。
春夏秋冬に分けて並べてみると、圧倒的に春夏の原稿が多かった。
夏は特に、ゴキブリやゴーヤ、花火に風鈴と話題尽くし。

対する秋は、ほぼなかった。
だって一瞬なんだもの。
おかげで書いた時期は秋なんだけど、いまいち季節感がない原稿が秋に集結することとなった。しかもそうした原稿を加えても、秋のスカスカ感は拭えない。
そこそこ調整に努力してはみたものの、バランスは諦めることにした。


次に、写真に頼りすぎ問題について。
これはもう、私の力不足としか言いようがない。
noteはFacebookやInstagramと違って入れたい場所に写真を入れられるから、ついその力に頼ってしまう。

その結果、「見てくださいよこれ!(以下、写真がドーン!)」みたいな写真頼みの文章となり、文字だけでは意味が通らないものがいくつか生じてしまったのだ。
でも写真の代わりに言葉を補うのは、なんか……面倒だなぁ。

結局写真の便利さから足を洗うことができずにいくつかの文章を削ったものの、「夏支度、風鈴日和」だけは頑張った。
個人的にお気に入りだからである。

そんなこんなであっぷあっぷしていたら、最初の想定よりもだいぶ字数が増えてしまった。
まあいいや。読み応えが増すのはよいことだ。

次に手をつけたのは、今回の本のために新しく加える話。
結局「はじめに」「あとがき」含め、14,000字ほど書いた。
そのうち3,000字が母のエッセイ「お気楽手術日記」である。

掲載ラインナップはこんな感じ(タイトルはちょこちょこ変えてます)。

はじめに
 部屋探しの旅(New!
  ようこそ、カルシファー
  ピーターたちの遺産
  おいでよやくぶつの森
  誕生日に、蛇を踏む
  タイムカプセルを仕込む
 夏支度、風鈴日和
  「とりあえずビール」なんて。
  イカロス
  ゴキブリブギウギ
  キュウリ夫人の仲間入り(New!
  お気楽手術日記……生涯ピアノ弾き(New!&母
 金木犀と惰眠の休日(New!
  洗濯機の激震
  さようならハーゲンダッツ
  あの女子高生は、予言者だったのかもしれない
 眠れぬ夜は、旧友を抱いて
  疑惑のコッペさん
  オンライン飲みで、虚無とバトル
  いとしのふきのとう
あとがき

③デザイナーさんと打ち合わせ

だいたいのイメージができたところで、デザイナーさんと打ち合わせ。

本文の組版や表紙のデザインまで全部自分でできる人もたくさんいるのだけれど、私は驚異的に不器用なので早々にプロに頼むことにした。
前回も書いた通り、大学時代から付き合いのある編屋さつきさんだ。

本文の組版から表紙や扉のイラストまでまるっと彼女にお任せできるのは、本当に本当にありがたかった。
もうね、大船に乗った感がすごいのである。
お引き受けいただいた時点で私の仕事ほぼ終わったと安堵しながら、体裁や読者対象、目次案などを説明する。
そして一頁あたりの単価や装幀料の相談をし、カルボナーラ専門店のカルボナーラを食べた。

その後はちょいちょい連絡を取りつつ、ゲラのやり取りやスケジュールの確認を進める。

ちなみに私たちは、こんなスケジュールだった。あくまで一例としてご覧いただきたい。

7月25日 第一回打ち合わせ
8月21日 ざっくり原稿をもとに第二回打ち合わせ
9月7日 タイトル決定(後述)/表紙ラフ
9月29日 原稿完成
10月12日 初校
10月25日〜11月1日 表紙ほぼ完成/初校戻し→再校→再校戻し/ページ数確定
11月6日 本文、表紙入稿
11月23日 第33回 文学フリマ東京 当日

そして完成した表紙がこちら。

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母に送ったら速攻で「美化されすぎてて笑う」とLINEがきたけれど。
この表紙、私の部屋の細やかに再現してくれているんです。

ベランダのゴーヤや玄関の暖簾、インドで買った象の壁掛けなど、私の部屋に遊びにきたことがある人が見たら「あっ、これは!」と気づくであろうものが散りばめられていて。
つい見るたびにニヤけてしまう、素敵な表紙なんです。

【こそっと宣伝】
もし彼女へのお仕事依頼を検討される場合は、私までご連絡くださいませ。窓口としてお繋ぎいたします〜!


④タイトルを決める

今回一番悩んだのが、タイトルだった。
noteをまとめてあっさりと本文を完成させたものの、なんだかんだバシっとまとまるキーワードが見つからず。
タイトルにふさわしい言葉を探して、何度も原稿を読み返した。

一言で内容を説明すると、「埼玉のワンルームで一人暮らしする話」なのだけれど、それをそのままタイトルにしたら「あぁそうかい」って素通りされる未来が透け透けで。
もっと他に私のエッセイの特徴ってなんかないんかい!と血眼で探していた時に見つけたのが、「全編にわたってほぼビール飲んでんじゃん!」という衝撃の事実。

かくして決定したタイトルは、『春夏秋冬、ビール日和』。
細かいことを言うとビールと言っても第三のビールだし、ウィスキーの日もあるのだけれども、まあよしとしていただければと思う。


⑤価格と部数を決める

かくして製本の準備は整った。
次に取りかかるべきは、本の価格決定である。

今回の私のように趣味で本を作る場合。
元を取ろうと思っているわけでも、儲けようとして作っているわけでもないので、好きに自分で値段をつけることができる。

とはいえ5〜600円の本が多い文フリ(勝手なイメージ)で、こんなポッと出が高い値段で売っても絶対売れないよなぁ。
参考として、一昨年文フリで500円で買った同じ判型の本を見てみた。
92頁か。

対する私の本は152頁だから、その価格設定に合わせると826円。
800円くらいでどうだろう。

母に相談したら、「私のお母さん、末広がりが大好きなのよ!いろんなパスワードを“888”にしてたくらい」と亡くなった祖母の話をしてくれた。
パスワード888はヤバすぎんか。祖母にあやかって、本の価格は800円にすることに決めた。

本を作るきっかけをくれたのは、父方の祖母。
価格を決めたのは、母方の祖母。

私たちの本なのに、おばあちゃんたちのキャラが濃すぎてほとんど乗っ取られそうな勢いである。
でもまあ、彼女たちが喜んでくれたらそれでいいや。

部数は、70部刷ることにした。
noteで連絡をくれた方々の分と、私と母の友だちや親戚への贈呈分、それから文フリで売る分。
正直50部くらいで十分だったような気はするけれど、また文フリには出る機会があるだろうし。
ちまちま売っていこうと思う。


⑥ブースの準備

さつきさんから入稿の連絡をもらい、ひと安心。
あとは当日に向けての準備を整えるべし。

10月26日に届いた文フリの案内状を確認し、ブースの位置や持ち物を確かめる。私のブースは、テ-13である。

そして今回、さつきさんが音頭を取って作った本も販売します(私は本名で書いてます)。

ちなみに私のお隣のテ-14ブースは、今をときめくきりえや高木亮さんだ。

(下のインタビューがとにかくかわいいので、ぜひお読みいただきたい)


きゃーー!なんという偶然!
……ではない。

出版社の了解が得られれば商業出版の本も売ってよしという文フリの規定を見た私は、高木さんにお声がけして『きりえや偽本大全』を売ることにしたのだ。
だって、文学好きな人たちにこそ読んでほしいんだもの。

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以下、高木さんのブースの紹介文である。

きりえ作品をもとにした、偽本=パロディブックカバー(文学編・映画編あわせ約200種)や豆本、カレンダーなどを販売します。「かわいくて、おかしくて、すこしだけ寂しい」世界。ねこ・うさぎ・かえるなど、動物成分多めです。どうぞよろしくお願いします。

動物成分多め」!とても楽しみ。


当日までに準備しておくべきものは、さつきさんから参考サイトを送ってもらった。


まだ全然手をつけられていないけれど、今来週の土日にしっかりと整えていく所存である。
よーし、がんばろう。

【おまけ】

軽いノリで原稿を頼んでしまった母から、「軽いノリで受けちゃったけど、普段エッセイはあまり読まないから書くのがけっこう難しい」と連絡がきたことがあった。

そうか。
読むものと書くものが連動しているのかどうかはわからないけれど、考え方の型のようなものは読むものによって作られていくもののような気はする。

ミステリー好きな母は、テレビドラマの展開を予想するのが得意だし、時代小説好きな父は説教する時に過去の偉人を持ち出すのが好きだ。
けっこう乱暴に決めつけてしまったけれど、どの読者も多かれ少なかれ好きな本の影響は受けていると思う。

それをふまえて、母と好きな作家を三人ずつ挙げてみた。

【母の好きな三人】(敬称略)
敬愛するのは、本多勝一
幼稚園の時から弟子入りしたいと願っていた、中川李枝子
重厚な推理小説家の、横山秀夫

どんな人が好きなのかと聞いたら、とにかくチャラくない人が好きとのこと。
「文章には結局、考え方や生き方が全部出るから」と名言っぽいことを言っていた。

【私の好きな三人】(敬称略)
しなやかに大人のお手本を見せてくれた、杉浦日向子
いかにも生きにくそうな独特の世界観を持つ、岸本佐知子
すごく笑えるのにさらりと大切なことを握らせてくれる、星野博美

いずれもあまり人生がうまくいっていない時に読んで、心を撃ち抜かれた人たちである。
彼女たちは私に、うまくいかないことは笑い飛ばしてしまえばいいと教えてくれた一方で、痛いものは痛いと言っていいと伝えてくれた。

そんな文章がいつか書けたらいいなと思うけれど、今の私の目標はもう少し気楽なところにある。
電車に乗る時に選んでもらえるような、気構えずに読めるような本にしたい。
特に役に立つことも書いていないし、特に心を揺さぶるようなことも書いていないけれど。ちょっと手持ち無沙汰な時にふらっと開いてふふっと笑ってもらえるような、そんな本にできたらいいなと思う。

以上、意気込みでした!

*書籍紹介*
『春夏秋冬、ビール日和』
つる・るるる 著
A6判並製152頁
800円
第33回文学フリマ東京ほかで販売予定

さらにその続き!ネットショップができました。


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