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「うちの社風に合った人材」ばかりを登用する会社の末路

中小企業の中途採用での面接場面です。

「ウチの会社の社風にあうかな?」
「社内の皆とうまくやれるかな?」

このような思いをもって面接をしている役員や社長は多いように思います。この思いの根底に「カルチャーフィット」があります。

※ カルチャーフィットとは「Culture = 文化」と「Fit = 適合」からなる造語。採用活動では「企業文化への適応性」という意味。(価値観マッチングと表現されることもある)




1.カルチャーフィットは確かに理に適っている

カルチャーフィットは、自社の価値観と求職者の価値観が適している状態を意味します。適する人材でないと、主に考え方の違いから「居心地の悪さ」や「働きづらさ」を感じて、早期離職になると考えられています。

現実、中小企業の中途採用では、早期離職を避けるためカルチャーフィットしない人材を不採用とする、いわゆる「カルチャーフィット切り」も行われています。



このことは"人手不足"という課題以上に"価値観の齟齬"の方が苦難という問題意識をもっていることを物語っているわけです。

さらに、離職に至らなくても肝心な「会社の方針」や「事業の戦略」に対する足並みが揃わない、といった結束の乱れを強く危惧する心理もあるでしょう。

だから、会社の価値観と同じか、近い価値観をもった人材を揃えたがる。当然と言えば当然ですね。経営の円滑化と事業の促進化の観点から考えれば理に適っていますので。




2.カルチャーフィットのメリットとは?

一般的に考えられているカルチャーフィットの具体的メリットは主に4点です。

・定着率の向上
・社内コミュニケーションの活性化
・生産性の向上
・エンゲージメントやモチベーションの向上

これらのメリットはよく言われることです。実際、私自身も経営者として35年以上、このカルチャーフィットにこだわってきました。

そして、思惑どおり価値観を共有でき、同じベクトル(社の方針など)を合わせることが容易となり、経営がやり易い、事業が進め易いといったことを体験しています。

ですので基本、カルチャーフィットは間違ってはいない。特に中小企業の経営にとって、と同時に中途採用において。



3.カルチャーフィットにも落とし穴がある

でも、この考え方には落とし穴があります。盲点と言いましょうか、明らかにデメリットと言えるものです。

デメリットの核心にあるものは

「組織の硬直化」

です。私が経営している社内にも起こりました。

硬直化とは、組織が経営環境の変化に対応できない状態を指します。



では、なぜ硬直化するか?

その会社の企業活動において独自の慣習、社風がつくられる。それは社長の価値観に始まります。そして、その価値観がその組織内に同質化を強要し、いつの日か企業文化として確立してしまう。これが「組織の硬直化」をまねくのです。

つまり、強固なカルチャーフィットが上塗りされ、組織が変質し凝固してしまい柔軟性を失うのです。



その主たる背景は?

それは会社の価値観(根源は社長の価値観)と同じ価値観をもつ人材ばかりを集めた結果であり、時にはメンバー相互に同調圧力が作用し合うことによって「組織の硬直化」は加速すると言えます。明らかに、この現象は会社の発展性を阻む弊害です。



一つの事例を紹介します。

営業主体の会社があるとします。その会社の社長は学生時代、スポーツの部活に所属していた。そこで根性論を叩き込まれた。そのため自社の営業活動は「根性」が肝と考えている。その結果、

体育会系出身の人材を集めたがる

といったことになる。

このような事例は今でもあると思います。



確かに、上下関係のわきまえと礼節、集団行動による結束。そして、目標に向かって自己犠牲を最大限払いプレッシャーに打ち勝つ。必然的にこのような企業文化が醸成されていくのです。

まさしく上位下達が当たり前の世界で生きてきた社長が、同じ価値観をもつ人材を採りたいのは当然であり、カルチャーフィットを積極的に実行するのは分かります。

でも、何か違和感を覚えませんか?

この会社のように「本当に会社の価値観にあう人材ばかりを採用した方がよいのでしょうか?」



4.カルチャーフィットにこだわり過ぎない

私は、「一定の割合によって」さらに、「社内の職種に応じて」、カルチャーフィットの考え方を適当に用いるとよいと捉えています。

全社員が会社の価値観と同じでなく、一定の割合で異なる価値観の人材も歓迎する。また例えば、社内の人事・総務・経理職などでは、会社の価値観と敢えて異なる人材にするとか……。つまり、

臨機応変にバランスを重視した方がよい

と言いたいのです。その上で、基本的な採用における指針は、

「カルチャーフィットにこだわらり過ぎず、多様な価値観をもった人材を受け入れる」

ことが賢明と考えています。




この「カルチャーフィットのバランス化」の参考となるケースがあります。国家という組織においての事例になりますが、例えば、アメリカは世界一の「人種のるつぼ」(Melting Pot)と呼ばれる多民族国家です。それでいて世界一の経済大国なのです。

この事実をどう解釈しますか?




多民族ということは、多価値観ということです。多価値観だからこそ、異なる考え方、異なる感情がぶつかり合う。ときに摩擦となる。がしかし、このぶつかり合いや摩擦が、功を奏してシナジーを生む。

いわゆる、弁証法に従った発展性を生み出す訳です。



もっと言えば「更なる次元に昇華する」といった付加価値が生まれるのでは!企業で言えばイノベーションそのものを意味するでしょう。
ですから、カルチャーフィット採用にあまり固執しないで欲しいのです。



はっきり言えば、デメリットも多分に含まれている。

しかも企業の成長・発展の根幹に関わる点で。



私の実体験から確信をもって言い切れます。私の経営者としての採用戦略は「老若男女」そして、「ダイバーシティ&インクルージョン」です。

※ダイバーシティ&インクルージョンとは?
ダイバーシティは多様性。性別や年齢、国籍、文化、価値観など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材を活用すること。インクルージョンは受容。社員がお互いの価値観を認め合いながら一体化を目指す組織のあり方。





5.カルチャーフィットの注意点は4つ

カルチャーフィットには実際のところ注意を払うべき点が4つほどあります。デメリットと言える部分です。




1. 多様性の欠如
カルチャーフィットに重きを置き過ぎると、同じような考え方や背景を持つ人材ばかりが集まり、チーム内の多様性が欠けてしまい、新しい視点や斬新な着想が生まれにくくなります。

その結果、具体的には業務改善や組織再編などのときに同質の価値観ではどうしても、既存の方法や考え方にとらわれがちとなってしまいます



2. 偏見の強化
無意識のバイアスが働きやすく、採用プロセスで偏見が強化されるリスクがあります。何故なら自分と似た価値観を持つ人を優先してしまうことがあるからです。



3. イノベーションの低下
異なるバックグラウンドやスキルを持つ人々が集まることで生まれる創造的なアイデアが減少する可能性があります。その結果、事業の開発や刷新が必要なとき、新規性、斬新性に限界が生じてしまいます。



4.公平性の問題
カルチャーフィットを重視するあまり、公平で透明な採用プロセス、及び入社後の人事プロセスにおける平等性が損なわれることがあります。本人のもつ実際の能力や適性ではなく、決定者側の主観的な「フィット感」で判断されることになりかねないからです。



もし、どうしてもカルチャーフィットを重視するのであるば、これらの注意点を踏まえて、常に"バランス"を考慮すべきでしょう。

このような、デメリットと言えるリスクを回避するためにも多様な価値観をもつ人材が必要と考えます。

例えば、同質の価値観と異質の価値観の比率を概ね6:4にするとか。



まとめ

カルチャーフィットを進めていくための心得は、

『経営における人事政策は適材適所をもってしてダイバシティを意図していく』

ことが高いパフォーマンスに繋がるのです。

政治で言えば与党対野党みたいなバランス感覚を指す。会社の統治機構からして、このぐらいの「バランスがファンクション・フィット」(組織機能への適応性)になると思います。

旧態依然の社内体質を脱却し新たな時代にフィットした新体制、いや新体質を手作りでつくるためにもカルチャーフィットはバランスよく「中庸の精神」をもっとして臨むのがベストでしょう。



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