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『知と熱 ラグビー日本代表を創造した男・大西鐵之祐』(藤島大・著)

 昨年の秋、フランスで開催されたラグビーの第10回ワールドカップは、南アフリカが2連覇しました。
 日本の決勝トーナメント進出が期待されましたが、惜しくも1次リーグで敗退しました。

 人気も実力も高まった日本ラグビーですが、それを育てた「」を初めて知りました。
 昨年8月の成幸読書で届いた図書『知と熱 ラグビー日本代表を創造した男・大西鐵之祐』(鉄筆文庫)です。
 成幸読書の紹介で、清水店長は

 この大西鍵之祐さんって、ラグビーをやっている人には有名で、その人のことを藤島さんっていう人が書いている本だね。いや、これは読んでいて、この時代に本当に大切なことだと思ってね。
 ラグビーで試合に勝つか負けるかで、綿密に戦略を立てたり、相手の弱点を探して分析したり、「知」を使うんだけど、実際に人と人がぶつかる時には、往々にして「知」通りにはいかないと。合理的にはいかなくて、必ず不合理が生まれてくるわけ。その、合理と不合理の「際(きわ)」を見つけ出さないといけないんだけど、それは体験の中で出てくるものなんだよね。
(略)
 今は、誰もが、あまりにも便利過ぎて、何もかもが出来上がっている中で生活しているから。でも、いつも簡単で安くてコスパのいいものばっかり食って喜んでいるような、そんなガキみたいなことはやめろよと。(略)

と述べていました。
 出版社は、

 世界に真剣勝負を挑んだ「最初の男」は、寄せ集めの代表チームを、いかにして闘争集団「ジャパン」へと変革したのか――。
 戦場から生還後、母校・早大のラグビー復興と教育に精力を注ぎ、日本代表監督としてオールブラックス・ジュニアを撃破。ラグビーの母国・イングランドに初めて臨んだ代表戦では3対6の大接戦を演じた、戦後ラグビー界伝説の指導者・大西鐵之祐。闘争のただなかから反戦思想を唱え続けた男の79年の生涯を描いた傑作。第12回「ミズノスポーツライター賞」受賞作。カバーデザイン/Kotaro Ishibashi

との紹介で、大西氏を知っていたり、ラグビーの歴史などに興味がないと手に取らないかもしれません。

 清水店長の注目する“合理と不合理の「際」”が何であり、どのような場面なのか、そして、大西氏がどのように「」に向かっていったのか、興味をもって本書を手に取りました。

 日本ラグビーを“世界に挑む”ものに成長させた大西鐵之祐氏の“熱さ”に打たれ、そして“精神”に震えました。
 これからの日本ラグビーの見方が変わっていくような気がします。
 そして、今の社会そして生き方を考えました。
 お薦めの一冊です。


 読書メモより

○ 大西鐵之祐は、ジャスティスではなくフェアを説いた。机の上の札束は法にかなおうとも汚いものであり、競技規則とは別に、「してはならない」と「しなくてはならない」は存在する。そのことを語り続けた
○ 「スポーツとは何か」は現代社会における大切な主題である。
 簡潔にまとめれば、最初に記した「スポ―ツ遊戯論」が有力とされている。(略)
 しかし大西は「遊戯としてのスポーツがあってもいい」と考えた。そして、「遊戯ではないスポーツもありうる」とも繰り返した。
○ 「デューイの影響を受けながらも、それが離れてあるのではなく、現場にいかしていく。問題を発見して解決する。そこで、すでに『読み換え』が行われている。(略)」
 一方通行ではなく、いつでもラグビーの現場とつき合わせる。
科学と非科学の統一
 大西の終生の主題だった。
○ チャンス、ピンチ、またチャンス。渦のごとく交互に訪れる緊急事態に、刹那、最もふさわしい判断を下す。こんなに勝ちたいのに、汚いまねはしない。机の上の「五億円」には手を出さない

 2015年9月19日、全世界に打電される正規の番狂わせが起こりました。
 その日は、大西鐵之祐の没後20年目の命日でした。
 大西氏が“精神と実力”を選手に与え、それを実らせ、通過点にしたのでしょう。

   目次

 プロローグ
1 インゴール組 楕円球にしがみついて
2 戦前のラグビー 「ゆさぶり」対「押しまくり」
3 ま、銃で撃つんだが 「闘争の倫理」の原点
4 「展開、接近、連続」 オールブラックス・ジュニア戦勝利まで
5 歴史の創造者たれ 母国イングランドとの死闘
6 接近の極致 横井章
7 テツノスケに教わったんや 小笠原博
8 デューイを突き抜ける 勝負の哲学
9 大西アマチュアリズム 決闘の渦中から
10 体協の名場面 モスクワ五輪ボイコットをめぐって
11 鉄になる ドスの青春
12 愛情と冷徹、信頼と独断 魔術の実相
 エピローグ

 主要参考文献
 大西鐵之祐 年譜
[付録1 最終講義] 人間とスポーツ
[付録2 最後のインタビュー] 勝負の哲学
 あとがき
 文庫版のためのあとがき
 鉄筆文庫版のあとがき
 解説  釜谷一平


【関連】
  ◇大西鐵之祐(あの人に会いたい File No.393 NHKアーカイブス)
  ◇日本代表「ラグビーワールドカップ2015」南アフリカ代表戦 レビュー(日本ラグビーフットボール協会)

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