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『ひむろ飛脚』(山本一力・著)

 近くでも、遠くでも、「○○の連絡しよう…」と思ったら、電話やメールなど”すぐにできる”方法があります。
 昔の“伝えたい”ことや時には、すぐ”にすることはできず、時間のかかる”ものでした。
 そのなかにあって、江戸時代の「飛脚」は、手紙や金銭、小荷物などを遠くまで速く届けていました。物語や映画に登場する飛脚の正確さ、速さに感心します。
 その飛脚が題名にある『ひむろ飛脚』(新潮社・刊)です。

 そして、飛脚が運ぶのが“ひむろ”です。これは「氷室」のことのようで、飛脚がを運びます。

 黒船来航前夜。藩の窮地を救うため、飛脚たち最後の激走が始まる!
 嘉永六年元日の加賀藩は苦悩していた。異例の暖冬で氷が作れず、しかし今夏行う将軍への「氷献上」に失敗は許されない。窮状を知った御用飛脚宿・浅田屋は氷の入手、献上日の変更、他藩への協力要請、保冷箱開発と次々現れる難問に知恵と情熱で立ち向かう。
 江戸最後の忠義を圧倒的展開で描く「大江戸プロジェクトⅩ」誕生!

 図書紹介にある「氷献上」は、江戸時代、加賀藩の前田家が将軍家へ献上していたと言われる有名なものです。

 暖かい冬、雪不足で“氷ができない”という未曾有の状況でも、「今年はできません」と言うことはもちろん、「自然のことですから…」との言い訳はできません。
 失敗は許されない、“命がけ”の氷献上です。


 を運ぶ御用飛脚宿 浅田屋の当主、頭取番頭、飛脚頭、そして加賀藩 前田家の次代当主、上屋敷用人の覚悟と判断、それぞれの矜持に、わくわくドキドキしました。

 嘉永6年(1853年)の正月、御用飛脚宿 浅田屋から始まり、旧暦6月1日の「氷献上」までの半年、“その時、その場”に「プロ(一流の人)」が登場します。
 走りのプロ、商売のプロ、交渉のプロ、製造のプロ、調整のプロ…
 それぞれ一流の技を持つ者、お互いを尊重し、それぞれの意見を尊重する。身分の違いが明確な世にあって、その上下を超え、関係なく、「氷献上」の成功に向かっていくプロ達です。

 夏の氷を、飛脚とともに運んでみませんか。


 読書メモより

○ 「ひとはともすれば、集めるべきときに、離れることをしでかしてしまう。古来、人心を離散させたがためのしくじりは山ほどある。(略)」
○ 「肚を括っての談判に臨むときは、口のなかをすっきりさせとくのがでえじだ」
○ 「職人の本分は仕上がりが上手か下手かじゃねえ。ひたむきに向きあったか軽く渡したかを、てめえに問い続ける気概をなくさねえことだ」
○ 「ひともあろうに謹厳居士のあの徳右衛門さんから、まさかの落ちを聞かされて、とことんのところ、身体の凝りがほぐれやした」
○ まさに「新たな目でものごとを吟味する」とはこういうことか。
○ 「義理で一両を払った面々が、自慢げに小枝と風呂敷を手にして江戸中を歩いてくれます」
○ 「千人を招くのは難儀至極だが、ただ人数を調えただけでは、ことは運ばぬ。年齢の異なる男女を漏れなく集めること。身なりも暮らしぶりも多様な町人、とりわけ、こどもを集めるのが肝要だと心得たい」
○ ひとのえにしを結ぶことの大事を、英助は実感して走っていた。
 小人は縁に気づかず
 中人は縁を活かせず
 大人は袖すり合う縁も縁とする

【関連】
  ◇氷室氷と加賀飛脚(石川県トラック協会)
  ◇江戸幕府に最高の贅沢を提供した、加賀藩の氷室。(金沢・箔一)


【参考;山本一力氏の本】
  ◇『花たいこん』(山本一力・著)(2023/06/04 集団「Emication」)
  ◇『落語小説集 芝浜』(山本一力・著)(2016/10/29 集団「Emication」)

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