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『旅の作法』(高萩徳宗・著)

 6月の成幸読書で届いた図書で、清水店長が「 この本、本当に面白かった。旅行会社だから、旅のことについて語っているんだけど、これ、人生の作法と言ってもいいんじゃないかな。」という『旅の作法』(エイチエス・刊)を、愉しく読みました。

 著者は、鉄道会社、旅行社勤務を経て、有限会社ベルテンポ・トラベル・アンドコンサルタンツを創業し、障害者や高齢者の旅をサポートしています。
 そうした旅と旅行者、その出会いや思いが語られています。

 最初、はじめにあたる「旅の作法」で、著者が主宰している旅行倶楽部の旅人心得を、

1 旅を3度愉しむ
2 自己責任 自己決定
3 旅への備え トラベルはトラブル
4 買う 飲む 食べる
5 現地のふれあい
6 日本人であることへの誇りと責務
7 土地の人への感謝とお礼
8 他社への尊敬 お互いさま

と 8つを載せ、それぞれを解説しています。
 旅の作法は、誰かに押し付けられるものではなく、旅人の心の奥底から湧いて出てくるものだと述べています。
 そして、「86歳のパラグライダー」の旅に出かけます。

 でも、やっぱり自信がないわ。
 旅に行きたいけど勇気がないの。
 揺れる気持ちを吐露するのは、今日初めて会った86歳の郁代さんだ。

 身体の障害や高齢などで、旅に行きにくい方々が、当たり前のように旅に出られる世の中を目指しての提言です。
 バリアフリーについて、その理解を深めてもらうために、カレー屋に例えて話をすることを紹介していました。

 お客が健常者なら、野菜カレー、ヒレカツカレーなどすべてのメニューから選択できる。当たり前すぎて誰も疑問に思わない。ところが車イスユーザーが来店したら、
「あ、お客さまはこの『障害者カレー』しかオーダーできません
といわれているのと一緒だということだ。

 障害者用、高齢者用と用意していることで“良し”とされてしまっているが、当たり前の“選択肢”が与えられていません。
 知っている、分かっているつもりでしたが…。


 旅をして、読書をして、人に会い、視座を広げるヒントが溢れてています。
 若者にお薦めの一冊です。


 読書メモより

○ 「お身体が不自由であるがゆえのお気持ちはよくわかります。とはいえ、世の中には「かけていい迷惑とかけてはいけない迷惑」があります。
○ 自分の人生なんて、誰かに見せるためめのものではないし、失敗の言い訳を誰かにする必要もない。その日その日を生きた自分の納得感が何より大切なはずだ。
○ 不安を山ほど抱えた旅が成功することはない。障害者が旅をするとき、必要なことは不安の解消ではなく、必要な配慮を可視化することだと考えている。
○ アレルギーでケーキを食べられないお子さんのお母さんも、おそらく何年もケーキを食べていないはず。
○ 社員から社長までがいつでも休める状態にするのが、実は最大のリスクマネジメントではないだろうか。
○ 私がイメージする理想の旅の姿。それは、高齢者が楽しそうに、幸せそうに旅をしている姿を、若い世代や子供達に見せることに尽きると考えている。
○ 1つは「人的な手間をかけない仕組み」。(略) 障害者だろうが健常者だろうが、スタッフが面倒臭くないサービスマニュアルを徹底して作ったという。
 2つめは「採算性」だ。どんなによいことをしても、経営陣への稟議が通らないバリアフリーはダメだ。

  目次

旅の作法
86歳のパラグライダー
旅は不要不急じゃない
……
ごめんね子供たち
休もうよ ゆっくりしよう
……
旅の成功に障害は関係ない
お風呂よりもバリアフリーよりも大切なことがある
……
マイノリティ・ツーリズム
旅行代理店がなくなる日
我慢して生きるほど人生は長くない
旅の途中


【関連】
  ◇高萩 徳宗・ベルテンポ (@beltempo_taka)(Twitter)



 図書と一緒に届いた冊子『清水克衛の成幸読書』の解説にある「読み合わせにおススメの本」は次の本でした。

  ◇『大衆の反逆』(オルテガ・著/佐々木孝・訳/岩波文庫)
  ◇『まなざしの地獄』(見田宗介・著/河出書房新社・刊)
 一冊目の、スペイン思想研究者の訳者、佐々木孝さんは、執行草舟社長おすすめの訳者です。注目すべきは「満足しきったお坊ちゃんの時代」の章です。現代は、様々な便利な物に囲まれて、我々、みんな満足しきっている時代ですよね。そんな「大衆」から一歩出て、歴史や物事も、その裏側を想像したり、観察したりできる視点を養い、実際に行動まで持っていくためのヒントがつかめる内容です。
 二冊目は、永山則夫事件の善悪を問うのではなく、時代背景というものを考えさせられる内容で、先月号の選定本『21世紀の突破口』の中でも紹介されていた一冊です。50年以上前の事件とは言え、その社会学的考察は今の時代にも通じる内容で、社会の波、時代の波に流されず、一度立ち止まって自分自身の「まなざし」を、あらためて見直すきっかけにもなることと思います。歴史から学ぴましょう。


【読書のすすめ「成幸読書」】
 ☆最近紹介した本
  ◇『高校生と考える21世紀の突破口』( 安藤宏 他・著)(2023/06/14)
  ◇『不思議の国 ニッポン』(ヤマザキマリ・豊田有恒・著)(2023/03/29)
  ◇『小さき者たちの』(松村圭一郎・著)(2023/03/05)
 *これまでに紹介した本は、カテゴリー「読書のすすめ」から

  ◇成幸読書選定本
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