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『ようこそ!富士山測候所へ』(長谷川敦・著)

 2023年は暑かった! そして2024年も。
 その“熱さ”は、異常気象となっており、その原因は、エルニーニョの発生や温室効果ガス濃度の高まりなど挙げられます。
 気象観測や予報の技術が向上、高度化していますが、原因・要因が複合的に関わり合い、“異常気象”の発生頻度が高まっていることの解明は難しいようです。


 天気予報では「ひまわりの映像を見ますと…」と、気象衛星の情報が利用されます。個人でも、リアルタイムで確認ができます。
 以前は「富士山レーダーによると…」と、山頂に設置された機器から気象庁に届く情報ででした。それより前は、台風が近づいていても、気象情報が届かないものが多かったようです。
 富士山レーダーにより飛躍的に、気象情報の精度が上がったといいます。

 富士山で観測する、山頂に観測所を造る…、その歩み、それを支えた人達を綴った『ようこそ!  富士山測候所へ――日本のてっぺんで科学の最前線に挑む』(旬報社・刊)を読みました。
 富士山測候所については、1985年に発行された『カンテラ日記―富士山測候所の五〇年』 (ちくま少年図書館 90)に、その厳しさ、そして所員の方々の苦労が描かれていました。
 子供向けの図書でしたが、数十年にわたって書き継がれた日記の内容は、初めて知ることばかりで、驚かされたことを思えています。

 表紙を開くを、富士山山頂のイラスト、続いて測候所などのカラー写真があり、イメージがとらえられます。
 本文には、下部に“富士山”が描かれ、読みながらいつも目に入り、富士山を意識させられます。描かれた富士山は、章ごとであるような、少しずつ違うような…。

 PART 1 に 野中 至、千代子 夫妻が登場します。野中氏の強い思い、行動がなければ、気象観測の精度は上がらず、天気予報の進歩は遅れたでしょう。
 野中氏に続く、関係者の行動から、富士山測候所の歩みが述べられています。

 富士山の山頂、日本で最も高い場所にある「富士山測候所」を知っていますか。
 富士山での気象観測は100年以上前から始まりました。
 その後、人工衛星など最新技術の発達でその役割を終え、測候所はいずれ解体される予定でした。そのとき科学者たちが「ここでしかできない研究」を続けるため、富士山測候所の存続に立ち上がります。


 富士山測候所が閉所され、山頂レーダーが解体されたとき、ニュースで大きく取り上げられていました。

 しばらく前の情報番組で、閉所した施設を利用する研究者達のいることを知りました。測候所も解体されて、何も無くなったのかと思っていましたが、そうではありませんでした。
 富士山の山頂だからできること、山頂でないとできないこと…、そのために“重要な役割をもった施設”でした。
 本書に、そのことが書かれ、PART 2 に研究者が登場し、研究の内容や価値が述べられています。


 先人の熱い思いと行動、そして未来に続く現代の研究者達の取り組み、それを多くの人に伝える図書です。
 読みやすい図書ではないかもしれませんが、みなさんにお薦め一冊です。

   もくじ

はじめに
PART 1 富士山測候所の歩みと、測候所に関わってきた人たち
 1 富士山のてっぺんで気象観測が始まった
 2 富士山を台風から日本を守る「砦」にする
 3 富士山測候所職員の大切だけど、大変な仕事と生活
 4 富士山観測所を守れ! 立ち上がった科学者たち
PART 2 富士山測候所は日本一高いところにある研究所
 5 人間のおこないが地球にどんな影響を与えているかを知るために、富士山頂で二酸化炭素を計測(野村渉平先生)
 6 国境をこえて飛んでくるオゾンを富士山頂でキャッチ(加藤俊吾先生)
 7 富士山の空でマイクロプラスチックを発見!(大河内博先生)
 8 微生物が雲をつくっている!? 富士山頂で氷晶核を測る(村田浩太郎先生)
 9 「富士山に登ると人の体はどうなる!?」を科学する(山本正良子先生)
 10 富士山測候所は世界で最先端の雷研究ができる場所(安本勝先生)
おわりに

【関連】
  ◇よみがえれ富士山測候所 認定NPO法人富士山測候所を活用する会

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