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『カモナマイハウス』(重松清・著)

 表紙から裏表紙にかけ街中の家が描かれる『カモナマイハウス』(中央公論新社・刊)です。

 表紙には2階建ての家があり、玄関を出る男性、2階から見送る女性、そして通路を松葉杖を使う若者がいます。裏表紙は瓦屋根の平屋があります。
 中表紙には、花の咲く庭が美しい洋館がありました。
 ここに描かれるが、本書の主人公であり、舞台でした。

 空き家の数だけ家族があり、家族の数だけ事情がある――。
 不動産会社で空き家のメンテナンス業に携わる孝夫。両親の介護を終えた妻・美沙は、瀟洒な洋館で謎の婦人が執り行う「お茶会」に参加し、介護ロスを乗り越えつつあった。
 しかし、空き家になっている美沙の実家が、気鋭の空間リノベーターによって遺体安置所に改装されようとしていることを知り……。
 元戦隊ヒーローの息子・ケンゾー、ケンゾーを推す70代の3人娘「追っかけセブン」など、個性豊かな面々が空き家を舞台に繰り広げる涙と笑いのドラマ、ここに開幕!

 題名の「マイハウス」は、“自分の家”でしょう。でも、その前につく「カモナ」は何か思い当たるものがありません。読んでいけば出てくるかと思いましたが、最後まで分かりませんでした。
 それば、記事を書く前に改めて表紙を見ると…。
 「Come On - a My House」と、オレンジ色の文字で小さく書かれていました。
 ──「さあ行こう」と、○○が言って…。
 ──「おいで」と、○○が呼んで…。

 最初に登場する水原孝夫は、満58歳の誕生日に役職定年となり、出向した不動産会社で「空き家」のメンテナンスをしています。
 孝夫の妻 美沙は、実家の両親を看取 り、介護ロス気味です。
 二人の息子 ケンゾーは、アルバイトをしながら忍者ミュージカル劇団を主宰して、31歳になる元戦隊ヒーローです。
 この家族の行動、言葉で、“家族”のこと、「実家」の問題、「空き家」の問題が語られていきます。

 柳沢と孝夫が訊き返すと、まとめて──。
「持続可能なオヤジをつくるんです」
「はあ?」「へ?」
「定年とか子どもの巣立ち程度で落ち込まれると、邪魔で迷惑なんですよ。イバれなくても奥さんと仲良くやってもらわないと、ただの動く不燃ゴミじゃないですか」

 オヤジ、動く不燃ゴミと辛辣な言葉を吐くのは、不動産会社を取材するウェブメディア記者 マッチ(西條真知子)です。物語に深く関わるキーマンの一人です。

「どうせやることがなくて暇だから、会社に出てるだけだよ」
 だが、還暦が視野に入った五十八歳の独身男性の「暇」を、額面どおり「やることがなくて」につなげるほど、マッチも無邪気ではない。この歳の独り者の「暇」は、「孤独」や「寂しさ」を言い換えただけなのだ。

 家で泣いたことありますか、追っかけセブン、もがりの家、うつせみの庵……
 空き家対策、実家の思い出、家の処分……


 水原家の家族、出会う人とともに、気づくと自分事として読んでいることでしょう。
 現役の方、還暦を迎えた方、高齢者の方…、みなさんにお薦めの一冊です。

   Contents

第一章 マダム・みちるのお茶会
第二章 お父さん、家で泣いたことありますか?
第三章 空き家には悪だくみがよく似合う
第四章 追っかけセブン、登場
第五章 もがりの家
第六章 マダムの正体
第七章 時代の荒野を駆け抜ける男
第八章 うつせみの庵へ、いつか、ようこそ
第九章 アラ還夫婦の結婚記念日

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