映画『くれなずめ』へらへらしてても。
男子高校生のノリのまま最後まで走り切る作品なのかと思っていましたが、こんなにも心を持っていかれるなんて。
松居大悟監督が主宰する劇団「ゴジゲン」の舞台「くれなずめ」の映画化です。
「君が君で君だ」の松居大悟監督・脚本。主題歌ウルフルズ。2020年製作。日本映画。
高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まりました。
余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代の思い出を振り返ります。
(映画.com参照)
<6人の仲間>
吉尾(成田凌)、欽一(高良健吾)、明石(若葉竜也)
ソース(浜野謙太)、大成(藤原季節)、ネジ(目次立樹)
<吉尾が大好きなヒロイン>
ミキエ(前田敦子)
俳優陣は年齢にもばらつきがありますが、観ているうちに、そんな細かい事はどうでも良くなってきます。
高校時代の制服姿もそのまま演じていますし、頭でいろいろ考えずに6人のアラサー男子に起こったこと、起きていることをそのまんま感じ取る作品だと思いました。
披露宴会場での打ち合わせの後、6人がカラオケボックスで思い切りふざけるシーン。
帰り際、成田凌演じる吉尾が神妙な面持ちでなにか言いかけるのですが、あとの5人は必死の大声でかき消します。
「あれ、もしかして、そういう事か」と観ている私たちもなんとなく察しますが、映画はあれこれ説明しません。
披露宴での赤フンダンスの余興は大きくすべり、やるせない気持ちの中、それぞれの思い出が頭をよぎります。
今も地元で働くネジは、東京の大成の部屋に吉尾と泊まった日を思い出します。
吉尾がウルフルズを聴くこと、好きな人の話。
暗闇の中で三人がわちゃわちゃする懐かしい時間。
劇団を主宰する欽一は仙台で吉尾とおでん屋で飲んだ日を、俳優の明石は吉尾と出会った高校時代をそれぞれ思い出しています。
6人全員でいる時のノリとは異なる、一対一の関係での想いの強さがとても心地良く描かれていました。
高校時代に吉尾と共に清掃委員だったミキエ。前田敦子がとてもいい。ミキエ役、振り切れてました。
彼女はとんでもなく熱心に清掃活動に取り組んでいて、その情熱は滑稽でもありますが、吉尾は彼女に恋心を抱いています。
披露宴の後の吉尾とミキエ。湿っぽくならず素晴らしかったです。
一方、欽一主宰の劇団で役者をやっている明石は、5年前に仙台に帰る吉尾の電話にでれなかったことを今も後悔しています。
過去に対する気持ちを変えたいと、5年前を皆でやり直すシーンのあたたかさ。
いろいろ心に抱えているからこそ、無理にはっきりさせようとせず、へらへらと生きる。それでいいじゃないか。人生は大丈夫だ。そう言ってくれているような心底優しい作品です。