映画『詩人の恋』実らなかった想いは心の中に
詩人を演じた「息もできない」「あゝ、荒野」のヤン・イクチュンがとても素晴らしい。さえない風貌の売れない詩人を魅力的に演じています。
キム・ヤンヒ監督・脚本。2017年製作。韓国映画。
韓国、済州島。30代後半の詩人テッキ(ヤン・イクチュン)は過去に受賞経験はあるものの、最近は思うような詩が書けていません。生活は妻のガンスン(チョン・ヘジン)が頼りです。
夫婦は妊活を始めましたが、テッキはあまり乗り気ではありません。夫婦の関係にも変化が訪れています。
そんなある日、テッキはドーナツ屋でバイトする美しい青年セユン(チョン・カラム)に出会います。
セユンのつぶやいた言葉が、テッキの詩に影響を与えたことで、テッキはセユンが気になって...
すでに妻がいる男性が、美しい青年と出会って心惹かれる物語です。
その感情が父性愛なのか恋愛感情なのかは、本人も、はっきりと解かっていないような設定。作品の中でキスさえしません。ただ、思いがどんどん募っていきます。
好きで、とにかく気になってたまらない。
そんな状態の男性を演じるのは、とても難しいと想像するのですが、ヤン・イクチュンは時にコミカルに、愛らしく、そして切なく詩人を演じています。やや太り気味でメガネをかけた見た目も、とても好感が持てました。
妻ガンスンにドーナツを口にねじ込まれた詩人テッキ。そのあまりの美味しさに、ドーナツを買いに走ると、そこで美青年セユンと出会います。
セユンは家庭環境に恵まれず、学校も辞めてドーナツ屋で働いています。
それを知ったテッキは、なんとかセユンを助けたいと、家を訪問して病床の父親にも会い、様々な介護用品も提供します。
年齢差もあり、先生が生徒の家庭を気にかけている様な関係にも見えるのですが、妻ガンスンはテッキの心がセユンにあることに気が付いてしまいます。
「詩人のランボー気取り?
鏡を見てからにしなさい
あんたは世界一醜い」
ここでの妻のセリフは、とてもインパクトがありました。
実際に売れない詩人をいままでずっと支えて、明るく接してきたのはガンスンです。妊娠した事がわかったところでした。
父親を亡くしたセユンに「面倒をみるから」と、自分と二人きりでの生活を申し出たテッキ。その望みが叶えられる事はありませんでした。
数か月後。
偶然にテッキとセユンは再会しますが、別々に生きる道を選びます。
まだ、夫婦の日常は続いています。
ガンスンとの間にできた赤ちゃんの横で詩を書くテッキ。
もう何も起こらない
いつからか
君を想うたびに
涙がこぼれる
もう何も起こらない
しかし
いつからか私は
めったに
涙をこぼさない
テッキが赤ちゃんに優しくふれて、涙をこぼすところで映画は終わります。
余韻を残すラストシーンでした。
自分でも感じたことの無い、不確かな感情。
相手を深く想う気持ち。
守ってあげたいという人間的な優しさ。
詩人の恋は終わってしまったけど、
同性も異性も関係なく
だれでもが抱くであろう感情を
優しく描いた作品です。