映画『イン・アメリカ 三つの小さな願いごと』ニューヨークで夢を追う家族は
アイルランドからニューヨークにやってきた家族の物語。温かな気持ちになる作品です。
監督ジム・シェリダン、脚本ジム・シェリダン、ナオミ・シェリダン、カースティン・シェリダン。2002年製作。アイルランド・イギリス映画。
E.T.が公開された年(1982)、ニューヨーク。
幼い息子を亡くしたジョニー(パディ・コンシダイン)とサラ(サマンサ・モートン)は、二人の娘クリスティ(サラ・ボルジャー)とアリエル(エマ・ボルジャー)を連れて、アイルランドからニューヨークへ移り住みます。
幼い姉妹は、貧しいながらも新天地の生活に楽しみを見出し、同じアパートの住民でアーティストのマテオ(ジャイモン・フンスー)と出会って...
(映画.com参照)
ジャンキー・アパート
物語は娘クリスティの目線で語られます。
若い夫婦と幼い二人の娘。一見幸せそうに見える家族ですが、息子フランキーを亡くした苦しみを抱えています。
夫婦がニューヨークでやっとのこと契約できたのは、「ジャンキー・アパート」と呼ばれている、ボロボロのアパートでした。
エレベーターはとっくの昔に壊れており、住民の恐ろし気な叫び声も聞こえてきます。階段も薄暗い。
部屋の中には鳩が飛び回っています。
幼い娘を育てるには戸惑ってしまう環境です。
それをこの夫婦は絶望することなく、自分らの手で修理をしてなんとか住める部屋にしてしまいます。
アイルランドから移住してきた覚悟と、家族で困難を乗り越えてゆくたくましさが感じられました。
ジョニーは役者として成功するためにニューヨークに移住したのですが、オーディションには落ち、生活は常にお金との戦いです。
サラはアイスクリームショップで働き生活を支えます。
気温39度の夏の日
家族の為に、古い冷房機を体一つで運ぶジョニー。エレベーター無しで運ぶシーンが本当に暑くて重そうで、思わず応援しながら観ていました。
やっと冷房機を設置したと思うと、今度はプラグの型があわない。プラグを買いに行った先でお金が足りない。
これは嫌だな、辛いなと誰でも共感できるエピソードが凄く丁寧に描かれています。
結局冷房は使えず、家族は貯金を下ろして涼しい映画館に行くことに。
その時、家族で観た映画が「E.T.」です。
映画を観た帰り、ゲームコーナーでアリエルはE.T.の人形を欲しがり、ジョニーは人形の為にゲームに挑みます。
ボールを投げ、7回連続して穴に入ったら人形がもらえるという単純なゲームですが、どんどん金額がエスカレートして、大切な家賃にまで手を付けてしまいます。
妻のサラも静かに一緒に熱くなっていくのですが、そんな時、坊主頭のサマンサ・モートンはとても魅力的です。
この夫婦はとても質素で真面目に生きているのですが、二人とも「夢を追う人」だと思います。そこが、この作品を楽しく盛り立てます。
ハロウィンの日
アイルランドには無い風習です。
クリスティとアリエルは手作りの仮装をして、無邪気に「ジャンキー・アパート」の扉を次々にノックして回るのですが、誰も応答してくれません。
一軒だけ扉を開けてくれたのが、「叫ぶ男」マテオでした。
姉妹が亡くなった弟フランキーの話をすると、マテオは涙を見せます。
家族ぐるみでマテオとの交流が始まりますが、マテオは病気に侵されていました。
「おれはエイリアンなんだ
E.T.のようにね」
小さいアリエルに「お家に帰るとき、サヨナラを言う」と約束をするマテオ。
マテオを信用していなかったジョニーですが、徐々に友情が生まれます。
ニューヨークの冬
サラは出産しますが、赤ちゃんは輸血が必要な危険な状態。
入院費用はどんどん膨れ上がっていきます。
マテオの命が尽きると同時に、赤ちゃんは生命の危機を脱します。
サラと赤ちゃんの高額な入院費用は、何も言わずにマテオが全額清算していました。
満月の夜
ジョニーとクリスティは小さいアリエルをベランダに呼んで話します。
「マテオが自転車で月の前を横切って
お前にサヨナラと手を振っている
約束通りに」
「マテオ!フランキーをよろしくね!」と月に叫ぶアリエル。
息子フランキーを亡くして以来、泣くことが出来なかったジョニーですが、このとき初めて息子に別れを告げることができました。
「さよならフランキー」
孤独に芸術活動を続け、病と闘っていたマテオと、アイルランドから来た家族。
あのハロウィンの時、重い扉を開けなければ何も始まらなかったのです。
赤ちゃんの名前は「マテオ」と名付けられました。
人を受け入れる度量と少しの冒険心があれば、素晴らしい出会いは日常の中にあるのかもしれません。
アイルランドから来た家族のリアルな日々。
ジム・シェリダン監督が実の娘2人と共同で執筆した、半自伝的物語です。
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劇中クリスティが学校のステージでDesperadoを歌う素晴らしいシーンがあります。
この動画はキャリー・アンダーウッド歌唱のものですが
お時間のある時にどうぞ。