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写真日記

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2023年1月の記事一覧

迷子

迷子

はじめて一人で町を歩いたのは塾からの帰り道だっただろうか。当時は園から帰宅した途端に習い事に連行されており、楽しみといえばその日のノルマを終えた後、親の迎えを待ちながら読むブラックジャックと塾長の愛犬との戯れくらいだった。そんな息抜きにも飽きてきた頃、迎えをただ待つ時間が無駄に思え、遂に自分の足で帰ることを思い立ったのだ。至る所で迷子扱いされることが増えたのはそれからだ。

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町

既に脳裏にある風景でも時を経て再見すると何かが変わって見える。風景を見間違えれば当然道も違え、覚えのない景色を眺めていたり、案外勘が鮮明になったりする。そんな体験ができるのは町を離れた経験があるからこそだ。居心地の良い環境を見つけて住まうことへの憧れはあるが、留まり続けることがその地を深く知ることだと安易に認識するのは避けるべきだろう。

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科目

科目

試される環境は昔から苦手で、今でも適度な緊張感を全く理解できない。8年前のセンター試験は雪だった。その頃の自分も憂鬱で自暴自棄な毎日を過ごしていて、大した準備もせずに関門へとぼとぼと向かっていた。そんな中途半端な凡人が何かを成し遂げられるはずがなく、案の定志望した大学からは滑り落ちた。妥協から始まった大学生活だったけれど、そこでの研究や交友が今の自分の支えになっている節がある。どうしようもなく不得

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彩度

彩度

社会に出てから自分が何のために働き、生きて、老いていくのかを考え始めた。模範解答のないであろう問いに向き合うには相当の胆力が必要で、度々問題を書き換えられるような環境に耐えきれず、逃げ出したことがある。一時は部屋に閉じこもっていたが、そんな生活を続けるわけにもいかず、散歩を始めた。今こうしてカメラを携えて楽しめているのは時々一緒に歩いてくれた友人達のおかげだ。カメラを始めたきっかけも、目的なく彷徨

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業

比較的気ままに歩いているつもりでも、他人からは縛りをかけているように見えるようだ。確かに身の回りには娯楽が溢れていて、もっと簡単に物事を捉える余地はありそうだ。しかし、自分にとっては今既に受けている恩恵で十分であり、むしろ恵まれた環境に順化してしまうことを危惧し続けている。障害のない環境で自由を謳う人間の業は深い。

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朧気

朧気

いつかは当たり前のように見て触れていたはずなのに、今や朧気な記憶として圧縮されてしまっている景色や感覚がある。それを呼び起こすには解凍する作業が必要で、その為に似たような道を歩んでみたり、同じ選択をしてみたりする。運良く取り戻したものが燻んだ色ばかりだった時、美化された状態のままにしておくのも一つの手段だと理解できる。

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美談

美談

興味のない人間が語る心の豊かさについての美談以上の無駄はこの世に存在しないのではないか。そう思えてしまうことがこの希薄な人生でさえ度々ある。周りを見れば分かるだろう。基本的には所謂豊かな心は豊かな生活で、所謂貧しい心は貧しい生活で育まれている。どうしようもない貧富の差を言葉一つで埋められることがあろうか。下手に繕うよりも素直に今を肯定した方がよっぽど足取りが軽い。

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孤独

孤独

自分とばかり向き合うくせに、孤独を感じると他人に甘えたくなるのは未だに自分を誇りに思えていないからだろう。それを紛らわすためにまた一人になることを選ぶとは我ながら救いようがない話だ。人間は一人では生きられないとよく言うが、それは能力の限界を指すでも、生理的屁理屈でもなく、個性と共に肥大する不可避な孤独感を表しているのではないかと疑っている。

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星

くだらないと吐き捨てたことが誰かにとっての致命傷になることが実際にある。遥か遠くを目指す者にとっては止まらずに前進し続け、道を見つけることが第一だろうし、分かりきった順路を進む者にとっては最短距離にこだわることが第一だろう。もし距離を見誤ってしまった時、予測に反して近い場合は特に行動を変えなくても問題なく目標に到達できる。しかし、予想に反して遠い場合は今までの拘りが無に帰り、尚且つ行動原理を抜本的

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道中

道中

想い深い街、港やトンネルが右から左へ瞬く間に流れていく。行き急ぐことで目的地へ早く到達するのだろうが、何を見て何を考えたのかを問われた時に焦って過程を振り返るのは滑稽に映る。帰る場所が変わった時にだけ思いを振り返っても、通り過ぎたものは一片すら手に入らない。行き先が異国だろうが隣町だろうが逃す景色があることに大差はないのだから、道中の記憶や思考を少しでも保存して振り返り易くする気概を以って新天地へ

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無二

無二

何時、何処で、何をするのかは事前に決めないほうが楽しい。そう思えるのは時にも場所にも左右されない道具を所持しているからだ。確かに以前よりは行動の自由度が高くなったが、ものに頼っていることは否めない。完全に身ひとつで済ますことは不可能だろうが、より自由で無二な存在になるためには今しがみついているものを手放さなければならない。

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東京

東京

触れたいものがすぐ側にあり、簡単に見聞きすることができる環境に不満なんてあるはずがなかった。地方から上京したばかりの時、溢れんばかりの人と物の動きの中で目を回していたが、今やその速度に慣れ、東京の景色に浸るようになっている。そんな街並みや生活の目新しさや煌びやかさを創出していたのが都会人ではなく、都会人になりたがる者だったのだと分かったのはつい最近の話だ。競争社会では自己生産能力の有無が問われるの

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冬

酒を飲んだ冬の帰り道は肩を窄めて一人で歩く。火照った頬に刺さる空気は湯上りの散歩のように心地良い。だんだんと寒さが勝り、コートの襟に顔を埋めると、服に染み付いた煙草、燻煙や鼻腔に残るアルコールに束の間の宴を想起させられる。だから匂いが薄れて自然に消えるまで決して手を加えることはしない。

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歓楽街

歓楽街

欲を一括りにして、ある人は赴くままに過ごし、ある人は野蛮だと侮蔑している。実際に歓楽街を歩くとギラギラした看板の光が人々の目玉を輝かせる様子が見てとれる。この街並みを心底嫌い、アーケードを潜ることを強く拒む人間も少なくない。両者の主張は容易に理解できるが、夜の本当の暗さを体感したことがある人間はほぼいないだろう。孤独な暗闇では一本の蝋燭に慰められることさえあるのだ。救いを求めている人、それを虐げよ

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