小学校社会科の授業づくり ~「資料を読み取る」から考える具体と抽象~
「小学校社会科の授業づくり~地理的な学習内容で考える具体と抽象~」で、子どもが実際に行ったことのない地域について学ぶ段階になると、難しさがあるのではないか、ということに触れました。
しかしながら、実際に行ったことのない地域の方が多いというのは至極当たり前です。行ったことのない地域に旅行をしようとするとき、地図やガイドブックを頼りに見てその地域を知ろうとする人も多いのではないでしょうか。
ガイドブックには写真や解説が盛り込まれており、どのような地域かのイメージがつきやすいです。(ただし、製作者の意図等が反映されている場合もあります)
一方、地図には地形や交通環境、産業等が網羅されているものの、紙面におさめようと抽象化されているため、読み取るスキルが必要です。
今回は、小学校中学年の社会科の切り口から、「資料を読み取る」に着目してみます。
1 資料を読み取る、とは?
よく「資料から読み取りましょう」という学習場面やテスト等の問題があります。「資料を読むのが苦手」という声もよく耳にします。
そもそも「資料を読み取る」とは、どのような行為なのでしょうか?
例えば、文部科学省「小学校学習指導要領解説 社会編」(2017)には、次のように示されています。
現状のカリキュラムでは、社会科として初めて学習するのは3年生です。その3年生の学習では「具体的資料」を通して「必要な情報を調べまとめる」とされています。
ここから「資料を読み取る」とは「情報を読み取ること」だと言えそうです。
同時に、「資料を読み取れない」という場合は、「資料から適切に情報を読み取れない」状況であることも言えそうです。
2 そもそも、資料とは?
そもそも、資料とはどのようなものを指すのでしょうか。
辞書で引くと、次のように述べられています
つまり、資料自体はあくまで材料、この場合は考えたり、事実を明らかにしたりする場合の材料に過ぎないということです。
もっというと、読み取れるかどうか、どのように読み取るかで、資料としての価値は変わってくることになります。
ただ、資料と呼ばれるもの自体の幅はとても広いです。具体と抽象ということに引きつければ、画像や動画などは具体的な資料になりますし、表やグラフ化されたものはやや抽象的なデータになります。
その見方でいえば、地図は、数値化されたものよりは具体的であるものの、地図記号等で抽象化された資料と言えます。
3 資料のもとは「事象」
では、子どもにとって、資料を読み取ることが難しくなる場合があるのはなぜでしょう?
よく「資料を読み取るスキルが足りない」「読み取る視点があいまい」といったことが挙げられます。そして、この点に着目した授業改善やノウハウは、ちまたに溢れています。
ただ、それ以前に、案外注目されないことがあります。
それは、資料…特に抽象化された資料が、どのようにして資料になったかを、子どもが理解しているかどうかです。
いってみれば、どのように「資料化」されているかです。
例えば、地図記号の「果樹園」ですが、「リンゴみたいなマークだから果樹園」として覚えることが多いかと思います。
しかしながら、本来は「果樹園をいちいち地図に描くのは面倒だし、ごちゃごちゃして分かりにくいから、記号にしよう」という、いわば「資料化」する文脈があったはずです。
少しカタい言い方をすれば、「そこに果樹園がある」という「事象」があって、初めて「地図上の果樹園の記号」が成立するわけです。
そのような文脈を踏まえれば、果樹園の地図記号という「抽象」化された資料を読み取ることで、その地域にある果樹園という「具体」を情報として思い浮かべることができる、つまり情報を読み取ることができると考えられます。
「資料を読み取る」ことに主眼が置かれがちですが、その前段階にある「資料化」する経験が、子ども(大人も?)絶対的に不足している感があります。
4 実際は…
実はこの手順、地図記号を学習する小学校3年生で経験します。
3年生が自分の住んでいる小学校区がどのような地域かを学習する際、自分の住むまちを見学等で調査し、地図に落とし込む中で「便利なもの」として地図記号を活用し、習得していく、という流れで学習が設定されていることが多いです。
ただ、実際3年生になって初めての校外学習になることも多く、安全面等の指導に重点が置かれることも多々あります。
また、学区の特徴を捉えることに主眼が置かれることで、その手順はあまり反復的に取り組まないこともあるようです。
しかしながら、「資料を読み取る」スキルに課題があるとすれば、その前段階にある「資料化」する手順が充実しているかどうかを問う必要はありそうです。
5 終わりに
いかがでしたか?
これは、グラフ等の数値化された資料(データ)にも同様のことが言えそうです。
そのため、算数の教科書等で、データを扱う内容が充実されてきています。
社会科においても、子どもが自分で事象を「資料化」する経験をしているか否かは、その後の資料の読み取りを含めた活用全般に影響しそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました^^
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